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第8話 超大型魔法道具

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 タムタム鳥を仕留めて以降、特に魔物モンスターと遭遇することもなく、僕らは森の中を進む。
 しかし、これほどの魔力導線を引くものとは一体何なのだろう。
 魔法道具アーティファクトだとすれば、かなり興味深い話だが。

「ん?」

 僕の【多機能モノクル】が、魔力導線の変化を映し出す。
 立ち止まった僕に倣って、姉とアケティ師も立ち止まった。

「ここが、終点でしょうか。途切れてますね、魔力導線」
「そのようですな。はて、どうしたものか……」
「どういうこと?」

 あまり魔法道具アーティファクトに詳しくない姉が、首をひねる。

「ええと、何かしらの装置や遺構があると思ったんだけど、ここで急に途切れてるんだ。感知できないほどの地下へ降りたか、装置自体が存在しないか。どちらにせよ、追跡手段がなくなった」
「へ? 地下にあるなら、ノエルのスコップで掘ってみればいいじゃない」

 あっけらかんとした様子で姉が僕を指さす。

「スコップ?」
「ええ。ノエルったらヘンなスコップ型の魔法道具アーティファクトを作って、家のそばに大穴をあけたのよ」

 ヘンとはなんだ、ヘンとは。
 あれには【多目的掘削穿孔補助魔道具『げきほり君』】って名前がある。
 とはいえ、姉の提案は意外といいかもしれない。
 地下に何かあるのなら、魔力導線が見えるまで掘ってみるのも手だ。

「アケティ師、どうしますか?」
「少しばかり森の奥すぎますな。何か見つけても、発掘人員を連れてくるのは難しい」
「魔力導線の行き先だけ確認しますか?」
「そうしましょうか。掘削にはどのくらい時間がかかりますかな?」

 そう尋ねられて、地面の状態を確認する。
 森の地面は踏み固められているわけもなく、柔らかそうだ。
 木の根などが邪魔するかもしれないが、僕が製作した【多目的掘削穿孔補助魔道具『げきほり君』】であればそれも問題ない。

「一時間もいただければ10フィート以上は掘れると思います」
「では、少し掘り起こしてみましょうか」
「わかりました。待っていてください」

 アケティ師にそう告げて、僕は腰の魔法の鞄マジックバッグから【多目的掘削穿孔補助魔道具『げきほり君』】を取り出す。
 この魔法の鞄マジックバッグは、数年前に父の助言を受けながら自分で作成したものだ。
 迷宮出土の物よりずっと性能は劣るが、僕にとって有用な機能を積んでいるので、重宝している。

「姉さんは周囲の警戒を」
「了解。うふふ」
「……? 何かいいことあった?」

 上機嫌な姉を少し不審に思った僕は、首をかしげる。
 考えてみれば、この課題に出発する前からずっと上機嫌で、今はさらに上機嫌だ。
 怒ると怖い姉なので、機嫌がいいのは結構なことだが、ここまでくるとやはり気になる。

「だって、ノエルと一緒に課題に来てるんですもの」
「そりゃあ、僕だって『無色の塔』の所属になったんだから」
「違うわよ。やっぱりノエルってすごいわ。さすが、あたしの弟よ」

 支離滅裂で、何を指しているのかよくわからないな……と考えながら、無心で地面を掘る。
 やはり、魔力導線は地下に向けて伸びているようだ。

「アケティ師。やはり魔力導線は地下に向かっています」
「ふむ、そうか。あまり深いようなら、考え物ですな……」

 普通、魔力導線というものは平面的に設置するものだ。
 しかも、できるだけまっすぐな方がいい。魔力導線が血管に似ているなら、魔力マナは血液のようなもの。
 魔力導線を曲げれば、当然、角には相応の負荷がかかる。

 魔技師であれば、それをいかに軽減しながらコンパクトにするかが腕の見せ所であるが、ここまで大掛かりなものとなれば、このように直角に曲げるのはあまりよくないように思う。
 魔力というのは、意外と暴発するし──その場合、いろいろな被害が出やすい。
 例えば、地脈レイラインも一種の魔力導線と言えるが、あれが滞って暴発すれば、そこには魔力だまりができ、やがて迷宮ダンジョンが発生する。
 故に、このような大規模な魔力導線を扱う場合は、十全の注意を払う必要があるはずなのだ。

 ……地面に埋まって、ひん曲がってるけど。

「ん?」

 【多目的掘削穿孔補助魔道具『げきほり君』】の先が、何かに触れる。
 固いので、岩か何かだろうか。
 モノクルで確認すると、魔力導線はこの岩の下に続いていた。

「ふむ、これは……当たりを引きましたかな?」

 穴を覗き込んだアケティ師が、伸びた顎髭を撫でる。

「これ、普通の岩じゃないですね。さっき広場で見た遺構の物と、多分同じです」
「関連した何某かということですな。さて、どれほどの規模になるやら」
「いったん戻りますか? それとも周囲を掘り進めますか?」

 目当てらしきものは見つけた。
 ここから先は調査責任者のアケティ師の判断となる。
 ……が、僕は見つけてしまった。

(これ、起動用の魔石スイッチだ……!)

 スコップが掘り当てた先、魔力導線がつなぐ場所に、拳大の水晶のようなものが見えた。
 足で土を払ってみればよくわかる。これは文献で見た事があるものだ。
 八百年ほど前、まだ西の国ウェストランドが一つの王国に支配されていたころに多用された、大型魔法道具アーティファクトの起動用システムに違いない。

 触れてはいけないと思いつつ、惹かれる。
 このまま周辺を掘り進めるのもいいが、起動すれば……そう、〝稼働〟状態にさえなれば、こいつは周囲の環境整備を自動で行うんじゃないだろうか。
 そうすれば掘り起こさずとも地表に出てくるかもしれない。

「どうしたね、ノエル君」
「アケティ師、少し試したい事があるんですがいいですか?」
「……? 何か妙案かね?」
「起動スイッチらしきものを見つけました」

 僕の提案に、アケティ師の目に熱っぽい興味の光がともる。
 なんだかんだ言ったって、この人も『塔都市』の〝賢人〟なのだ。
 リスクと好奇心を天秤にかければ、好奇心に重りを載せる。

「やってみてもいいですな。起動できそうかね?」
「やってみないと何とも」

 しゃがみこんで、魔石スイッチに触れる。
 破損はない、保存状態も悪くない。魔力導線は通っているが、魔力は通っていない。
 それは、広場の遺構群も同じだ。

 導線そのものはあったが、
 ここが起点か……あるいは終点になっている可能性は高い。
 何が起こるかは、やってみなくてはわからないが。

「ノエル、大丈夫なの?」
「やってみなくちゃわからないよ。姉さんは、アケティ師の安全をお願い」
「無茶しないでよッ?」

 走り出す姉に頷いて、魔力スイッチの魔力回路を解析していく。
 そう複雑なものではない。魔力スイッチ自体の魔力導線は幾分老朽化して途切れている部分もあるが、魔技師としての技術を使えば……ほら、バイパスできた。

「よし、始めます。〝起動チェック〟」

 薄く輝く魔力スイッチに、僕はゆっくりと魔力を流し込んだ。
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