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第15話

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「今日の夕方にはモールデン砦に到着しますよ」
「はぁー……やっとかよ」

 馬車に揺られること、一週間。
 ようやく到着したモールデン地方は、完全にさびれていた。
 特に今朝出発した宿場町などは、もう営業している宿なんて二つしかない有様だ。

 まあ、魔王軍の侵攻があるとわかれば、逃げられる者は逃げる。
 動けない者だけが取り残されるこの感じは、さながら貧民街スラムの様だ。

「なぁ、エルムス。提案があるんだけど」
「却下です」

 なにも頭ごなしに否定しなくてもいいじゃないか。

「帰る時も一緒です。いいですね?」
「フン」

 この一週間、このやり取りが何度もあった。
 そして、このやりとりをするたびに、少しだけこいつに気を許しているアタシを自覚する。
 まるで、確認作業のようだ。

 やだやだ。
 未通女おぼこじゃあるまいし。
 ましてや、色恋なんて。

 だけど。モールデン砦が近づくにつれ閑散とするこの道行きが、一人でなかったことは有難いことだ。
 柄じゃないけど、不安になっていたかもしれない。
 正直、ついてきてもらって助かっている。

 そんなことを考えていると、馬のひづめの音が外から聞こえてきた。
 野盗の類かと緊張したが、現れたのは王国の鎧を着た騎士だった。

「道中の案内にまいりました」

 馬上から降りた騎士が、アタシに向かって礼を取る。
 騎士であるからには貴族だというのに、こうも恭しくされると、どうにも落ち着かない。

「出迎え、ご苦労様です。彼女は聖女候補のセイラ。僕は付き添いのエルムス・アルフィンドールです」

 騎士の顔がピクリと反応する。
 アタシにか、それともエルムスにか。

「慰問に参りました、セイラです。道中よろしくお願いいたします」

 マーガレットに覚えさせられた余所行きの言葉で、外面良く笑って見せると、騎士は顔をほころばせて馬に乗った。
 やれやれ、これ……ずっと続けなきゃいけないのかね。

「エルムス。この外面はいつまで張り付けとけばいいんだい?」
「できれば、こちらにいる間はずっと」
「無理ってわかってんだろ……。ボロ出されたくなきゃ早めに終わらせな」

 モールデン砦でのアタシの仕事は三つ。

 騎士隊の慰問。
 戦死者の追悼。
 そして、お行儀良くしておくこと。

 ちなみに、三つ目が一番つらい。

 ……が、所詮はスラム生まれスラム育ちの女だ。
 お行儀良く笑っているというのは、無理難題である。

 騎士に案内されながら、日が傾いてきたモールデンの草原地帯を走る。
 しばらくすると、まるで城のような建物が見えてきた。
 他の聖女候補は嫌がっていたが、思ったよりもしっかりした建物のようだった。
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