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第16話
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「ようこそ、セイラ様」
「ゴキゲンヨウ、モールデン伯爵サマ」
いよいよ怪しくなってきた笑顔と言葉で、出迎えてくれた大柄の騎士にカーテシーをする。
付け焼刃の行儀作法でも、そこそこ効果があったらしい。
この戦場の責任者、モールデン伯爵が笑顔を見せる。
「このようなところにお越しいただき、ありがとうございます。きっと、騎士たちも喜ぶことでしょう」
「神ノ御意思デアレバ」
そろそろ反吐が出そうだ。
見かねたエルムスが話に割り込む。
「申し訳ありません、セイラは疲れているようです。休ませても?」
「もちろんです。アルフィンドール殿」
司祭というからには、やはりいい所のボンボンなのか。
アルフィンドールなんて家名は聞いたことがないけど。
部屋に案内され、荷物を置くと確かに疲れがどっと出た。
ああ、この演技をあと三日もするのか?
面倒くせぇ……。
「ん……?」
砦から外を見やると、砦の外には大型のテントが並び、せわしなく動く者たちがいる。
武装しているし、傭兵だろうか。
一気に気分が重くなった。
傭兵の経験は自分にもある。
騎士の下請けの傭兵団のさらに下請け……日雇いの傭兵だ。
あの時は、戦場ではなく、魔物を探す人海戦術の為の要員だったが、待遇はひどいものだった。
騎士って連中は、傭兵を使い捨ての駒か何かだと思ってるんじゃないだろうか。
ここにしたってそうだ。
砦の外郭の中に傭兵のテントを立てさせればいいのに、傭兵たちは外に追いやられている。
これじゃ、奇襲があれば最初に犠牲になるのは傭兵たちではないか。
戦線を維持するのに傭兵が必要だと言いながら、仲間と見てはいない。
金で補充が利く、使い捨ての兵隊。スラムでやばい仕事を裏で回されるガキと変わりゃしない。
「どうしました? セイラ」
「気に入らねぇ」
不機嫌を隠さずに、アタシは立ち上がる。
「どこに行くんです?」
「今日の予定はメシだけだろ?」
「そうですね。モールデン伯爵と各隊隊長との会食ですが……」
「それ、傭兵の連中も来るのかい?」
アタシの質問の意図を汲んだらしいエルムスが、首を横に振る。
「なら、キャンセルしといておくれ。アタシは、傭兵たちのところに挨拶に行ってくる」
「セイラ……」
「なんだ? 教会様は国益のために戦う騎士は慰問しても、金のために死んだ傭兵は慰問すんなってか?」
エルムスが、小さく首を振ってアタシに微笑む。
「いいえ。あなたらしいと思います」
「エルムスの騎士の相手を頼むよ。難癖付けられちゃ、たまんないからね」
「……わかりました。お気をつけて」
耳のそばを小さく撫でられ、体がぎくりと固まる。
ここ最近、スキンシップが多い気がするぞ、聖職者。
「適当に戻る。先に寝てていいからね」
「戻ってくるまで待ってますので。あまり遅いと迎えに行きますよ?」
「ガキじゃあるまいし、勘弁しろ」
エルムスに軽く笑って、アタシは扉を出た。
「ゴキゲンヨウ、モールデン伯爵サマ」
いよいよ怪しくなってきた笑顔と言葉で、出迎えてくれた大柄の騎士にカーテシーをする。
付け焼刃の行儀作法でも、そこそこ効果があったらしい。
この戦場の責任者、モールデン伯爵が笑顔を見せる。
「このようなところにお越しいただき、ありがとうございます。きっと、騎士たちも喜ぶことでしょう」
「神ノ御意思デアレバ」
そろそろ反吐が出そうだ。
見かねたエルムスが話に割り込む。
「申し訳ありません、セイラは疲れているようです。休ませても?」
「もちろんです。アルフィンドール殿」
司祭というからには、やはりいい所のボンボンなのか。
アルフィンドールなんて家名は聞いたことがないけど。
部屋に案内され、荷物を置くと確かに疲れがどっと出た。
ああ、この演技をあと三日もするのか?
面倒くせぇ……。
「ん……?」
砦から外を見やると、砦の外には大型のテントが並び、せわしなく動く者たちがいる。
武装しているし、傭兵だろうか。
一気に気分が重くなった。
傭兵の経験は自分にもある。
騎士の下請けの傭兵団のさらに下請け……日雇いの傭兵だ。
あの時は、戦場ではなく、魔物を探す人海戦術の為の要員だったが、待遇はひどいものだった。
騎士って連中は、傭兵を使い捨ての駒か何かだと思ってるんじゃないだろうか。
ここにしたってそうだ。
砦の外郭の中に傭兵のテントを立てさせればいいのに、傭兵たちは外に追いやられている。
これじゃ、奇襲があれば最初に犠牲になるのは傭兵たちではないか。
戦線を維持するのに傭兵が必要だと言いながら、仲間と見てはいない。
金で補充が利く、使い捨ての兵隊。スラムでやばい仕事を裏で回されるガキと変わりゃしない。
「どうしました? セイラ」
「気に入らねぇ」
不機嫌を隠さずに、アタシは立ち上がる。
「どこに行くんです?」
「今日の予定はメシだけだろ?」
「そうですね。モールデン伯爵と各隊隊長との会食ですが……」
「それ、傭兵の連中も来るのかい?」
アタシの質問の意図を汲んだらしいエルムスが、首を横に振る。
「なら、キャンセルしといておくれ。アタシは、傭兵たちのところに挨拶に行ってくる」
「セイラ……」
「なんだ? 教会様は国益のために戦う騎士は慰問しても、金のために死んだ傭兵は慰問すんなってか?」
エルムスが、小さく首を振ってアタシに微笑む。
「いいえ。あなたらしいと思います」
「エルムスの騎士の相手を頼むよ。難癖付けられちゃ、たまんないからね」
「……わかりました。お気をつけて」
耳のそばを小さく撫でられ、体がぎくりと固まる。
ここ最近、スキンシップが多い気がするぞ、聖職者。
「適当に戻る。先に寝てていいからね」
「戻ってくるまで待ってますので。あまり遅いと迎えに行きますよ?」
「ガキじゃあるまいし、勘弁しろ」
エルムスに軽く笑って、アタシは扉を出た。
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