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第二章:光の国・オーラント
第16話
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三人が通された部屋の先には、円形の台のような装置が置かれていた。部屋全体は窓もなく、まるで何かの実験施設のようである。
「さて、お待たせいたしました。では、今からちょっとした説明をさせていただきます。寝ないで聞いてくださいね!」
先ほどの受付嬢が書類を机において、近くの椅子に三人を促しながら話し出した。クロエ達は椅子に座り受付嬢の方へと注目する。
「今から皆さんにはこちらの装置、『大賢者の目』に入って貰います。これに入った皆さんをスキャンすることで、皆さんの組合階級(ギルドランク)などが定義されます。ランクはSを最高としてA+、A、B+、B……そして最低としてEの合計11段階です。と、言ってもSランクなんて世界でも数人しか確認されていませんし、ギルドメンバーの平均ランクがDなんですけどね。」
受付嬢が苦笑しながらそう言った。しかしそれは、この世界の半分以上が人類種であり、それゆえギルドのメンバーの平均ランクも下がることが原因だろう。一般的には亜人種、魔族に比べ人類種の魔法適性値や身体能力はそれを下回るからだ。
受付嬢が円形の台型の装置を手で示した。台の表面、人が乗るであろう部分には細かな魔方陣のようなものが彫り込まれている。
「さ・ら・に! この装置の凄いところは! この装置の魔法システムは! かの『光の女神』のパーティーだった大賢者が構築したものなんですよ! 一切の偽造は不可能! これこそが、各国で我々の組合証が身分証名証になる理由なんですよ!!」
受付嬢が興奮したように声を上げる。だが、その話を聞いていた三人はその勢いにいまいちついて行けないようで、若干引いた様子でその話を聞いていた。普段冷静沈着なミーナでさえ、少しばかり上体を反らし困ったかのような表情をしている。
その様子を感じ取ったのか、受付嬢は「コホンッ」と咳払いを一つするとトーンダウンして話し始めた。
「え、えぇと……そ、それでは順番に装置の上に立ってください。ただ立っているだけで大丈夫ですので。では、まずはミーナ・アレクサンドリアさんから。」
「はい。」
返事をしたミーナが立ち上がり、大賢者の目の元へ向かう。たった数歩の距離であるが、クロエは自信の番でもないのに緊張が止まらなかった。装置の上に立つと、足下の魔方陣が輝きだす。輝きは徐々に増していき、そして次の瞬間、足下の魔方陣から全く同じ模様の光の魔方陣が空中に向けて射出された。ミーナの頭の上辺りで緩く回転しながら漂うそれは、数回の回転の後ミーナをまるで調べるかのようにゆっくりと回転しながら降下しだした。
「はい、終了です! お疲れ様でした。もうすぐギルドカードができあがりますよ!」
光の魔方陣が下まで降り足下の魔方陣が輝きを止めた頃、受付嬢がそう言った。そしてその視線を、先ほど書類をおいた机に向けた。机の上には台に乗せられた金属板がある。すると、その金属板が皆の見ている前でにわかに輝きだした。そして輝きが収まり、再び金属板に目を向けると、その表面にはいくつかの文字が刻まれていた。
「はい、これでギルドカードの完成です。ミーナ・アレクサンドリアさん、えーと、適合属性は闇。魔法適正値500。組合基準職業は『従者』です! 珍しいですね! しかもランクB+ですよ!!」
「はい、お手数おかけしました。」
完成したギルドカードを受け取ってミーナは席へと戻ってきた。席に座りカードを眺めると、そのカードを服の隙間から胸の谷間にしまった。
(……えっ、なんでそこにしまうの? いやいや、それよりも――)
「あの、ミーナさん。」
「はい、どうしましたか?」
「さっき受付の人が言っていた、『ギルスタ・ジョブ』って何ですか?」
「あぁ、それはですね……丁度お嬢様のスキャンの番ですし、それに合わせて説明しましょう。」
ミーナが手で指し示した先に視線を送る。そこには先ほどのミーナと同じように|大賢者の目(アルゴス)の上に立つサラの姿があった。
「このギルドでは職業と言うものを定めています。これはいわゆる一般的な仕事という意味ではなく、その人物の大まかなステータスや使用する武器、能力、属性適正値など、様々な要素を加味した上ではじき出される、その人に一番合っていると判断された仕事の事です。」
ここまで話すと、ミーナはどこからか自分のギルドカードを取り出してクロエに見せた。そこには名前と精巧な似顔絵、そして組合基準職業と言う項目に「従者」と記されていた。
「『ギルスタ・ジョブ』は『ギルドスタンダード・ジョブ』の略称です。ギルドに所属する組合員の数はとても膨大です。その人員を上手く判別したり、また即興でパーティーを組んだりするときもこのギルスタ・ジョブはとても便利なんですよ。」
「へぇ……それは凄いですね。でも、サラさんのギルスタ・ジョブはメイドなんですか。正に天職なんですね。」
「はい、その通りです。おや、丁度お嬢様のスキャンが終わったみたいですね。お嬢様は風魔法を得意とし、そしてそれを利用した弓矢で戦われます。そこから診断されるギルスタ・ジョブは恐らく――」
「『弓人』、ですわ。」
「あっ、サラさん。お疲れ様です。」
サラが自身の組合証(ギルドカード)を手にして帰ってきた。そのカードには弓人と記されている。
「ふぅん、多分そうだろうとは思っていましたけど、アーチャーですわね。まぁ、何の不満もありませんですけど。ただ、ランクはBでしたわ。もっと上を狙いたかったんですけど……」
「Bでも大したものですよ。流石はお嬢様です。さて、最後はクロエさんですね。」
「はい、行ってきます。」
クロエはそう言うと立ち上がり、大賢者の目の元へと向かう。しかし、その顔には微かな緊張が見られた。実はクロエには一つ、どうしてもぬぐえない心配事があった。
(ボクは、転生の際に魔王という役割を与えられた……しかも、身体には大魔王が封印されている。もし、このままこの装置でスキャンされて、ギルドカードに「魔王」なんて刻まれたら、どうすれば良いんだろう……)
先の大戦の英雄・「光の女神」の生まれた地であり、そして最近勇者が再び現れたこの地で、魔王であることが判明するのはとても危険な行為だ。ギルドカードにギルスタ・ジョブというものが刻まれる事を知ってから、クロエはずっとそのことを心配していた。だが、受付嬢の目がある事、更にはクロエの事情を知っているミーナが何も言ってこなかった事から、誰にも相談できず、何はともあれ行ってみようと思ったのだった。
そして心配事を抱えたまま、クロエは大賢者の目の上に立つ。足下が光り、光の魔方陣が射出される。自身の頭を占める心配事を追い出すかのように、「あぁ、まるでMRAみたいだな……」何てことを考えていた。
ついにスキャンが終わった。緊張が最高潮に高まる中、大賢者の目を降りる。そして受付嬢の方へと顔を向けると、受付嬢はクロエのギルドカードを片手に驚愕の表情を顔に浮かべていた。
(あぁ、終わった……)
クロエがあきらめの気持ちと共にまぶたを閉じたその時、両手がいきなり握られた。ビクッと肩をふるわせ、おそるおそるその目を開けると、眼前に興奮したような面持ちの受付嬢の顔があった。
「ひゃっ……!?」
「す、凄いですよ、クロエさん!! 私も初めて見ました!! ギルスタ・ジョブの欄が空白です! 『価値ある空白』ですよ!! しかもランクA!? この支部でもまだ数えられるほどしか出ていないんですよぉ!!」
「ぶ、ぶらんく……?」
興奮した面持ちの受付嬢にガクガクと揺さぶられるまま、クロエは疑問を上げた。てっきりギルドカードに「魔王」と刻まれそのことについて糾弾されるかと思いきや、突然興奮の面持ちを眼前に置かれ、さらには聞き慣れない言葉で賞賛される。誰であろうと混乱するに違いない。だが、興奮する受付嬢はクロエの戸惑いに気づくことはないようで、しきりに声を上げながらクロエの腕を上下に激しく振っているばかりだ。
見かねたサラが立ち上がり受付嬢からクロエを奪い取る。
「い、いい加減にしてくださいます!? クロエさんが怯えていらっしゃるじゃないですか! なんて可愛らし……もとい、あの……その……可愛らしいですわねッ!!」
「せめてもうちょっと頑張りましょうよっ!?」
結局サラに抱きしめられることになるクロエであった。二人の漫才を見せつけられた受付嬢も正気に戻ったのか、「ハッ!」と一声上げるとクロエに謝罪をして改めてギルドカードを手渡した。因みに、今までの流れにおいてミーナは終始無言を貫いていた。
クロエは受け取ったカードを眺めながら席に着いた。そこには他の二人とほぼ同じ、精巧な似顔絵と名前、そしていくつかの認証印のようなサインがあった。だが、いくつか違う点がある。
まずはランクだ。そこに記されたランクは「A」。他の二人よりも高いそのランクは正直クロエ本人が一番理解できていない。そして、一番異なる点、それはギルドスタンダード・ジョブの欄が空白であった事だ。
「おぉっ! 凄いですね、クロエさん。属性は闇、魔法適正値が1万もありますよ……って、い、1万んん!?」
受付嬢がスキャンの結果が記された紙を見て驚愕している。だが、そこに記された数値を見れば誰しもが驚くだろう。
「あ、あわわ……こ、ここ、これは私には手に負えません……ちょ、ちょっと待っててくださいね! 支部長を呼んできます!」
そう言うと受付嬢は逃げ出すかのような勢いで部屋を出て行った。扉に着くまでの数メートルの間に2回ほど躓いていたが。
残された三人、正確には二人は事態について行けないとばかりにポカンと呆けてしまっていた。ただ、ミーナだけが予想通りと言わんばかりに微笑んでいる。
「やはり、クロエさんの結果は『価値ある空白』でしたか。しかし、本当に私たちよりもランクが上だとは。流石は魔法適正値1万なだけはありますね。」
ミーナがクロエの方へ向いて言った。その言葉にクロエ自身も我に返り疑問を返す。
「ミーナさん、その、ブランクって言うのは何ですか?」
「私も詳しいわけではないのですが、クロエさんのように特殊な状態の方、つまり転生者であったり、特殊な経歴であったり等ですね。そのような際に極まれではありますが、ギルドスタンダード・ジョブでは規定できないと判断されてジョブ欄が空白になるそうなんです。その空白を一般的にただの空欄ではなく、『価値ある空白』と呼んでいるそうです。」
クロエは自分のギルドカードを見た。確かに、よくよく考えたらギルドが「魔王」なんてジョブを規定するわけがない。そうなればジョブ欄は空白にする他ないわけである。
「因みに、そう言った方々は総じて高ランクであったり、強力な力を持っていたりするそうです。やはり大賢者がその魔法システムを構築したと言われる大賢者の目は正確ですね。」
そこまで言ってミーナが笑ったとき、再び扉が開かれた。そこには先ほどの受付嬢の他に、年の頃として中年と思われる男がいた。状況を見るに、その男こそがギルド支部長なのであろう。
「……こちらの者から、簡単に事情を伺いました。もう少し詳しくお伺いしたいので、お三方とも、応接室までご足労いただけますか?」
「別に構いませんけれど、変にへりくだりますわね? 何か怪しいことでも企んでいるんですの?」
サラが疑問をぶつけた。その言葉と態度からは、疑いの気持ちがあふれんほどに感じられる。支部長の男は苦笑すると事情を話し出した。
「高ランクのギルドメンバーはギルドの中でも極まれでしてね。特にAランク以上ともなると一つの国の中でも一人いるかいないかと言うほどなんです。貴女方はそれぞれB、B+、そしてAランク。私が敬意を払うのには十分なランクだ。それに、特にそちらのお嬢さんは魔法適正値1万だと聞く。もしそんな方に機嫌を損ねられて暴れられたら、こんなボロ支部はひとたまりもありませんから。」
男は苦笑しながら扉の外へと三人を誘導した。そして受付嬢の先導のもと、部屋を抜け、エントランスを横切り、一目で頑丈だと分かる扉の前へと到着した。
「つ、着きました。応接室です。」
受付嬢が緊張しながら扉を開ける。開けられた扉の先には、一目で高級と分かるソファとテーブルが置かれていた。
「さぁ、どうぞ。おかけください。」
支部長が着席を促す。三人はそれに従いソファに座った。支部長は受付嬢にお茶を持ってくるように伝えると、自身も相対するように向かいのソファに座る。
「まずは自己紹介を。私はこのギルドのオーラント支部支部長のローレンツと申します。以後お見知りおきを。さて、本題から参りましょうか。私がここの支部長について以来、この支部の新規組合員登録で『価値ある空白』が出るのは実に二回目でしてな。それがつい一ヶ月ほど前に我が国に現れた勇者コーガです。」
支部長が発した言葉にクロエが反応する。支部長はその様子を見逃さなかったが、特にどうこうするわけでもなく話を続ける。
「彼は転生者でした。事情を伺った後、身分保障として大賢者の目にて検査をしたところその結果はAランクの『価値ある空白』だった。それ故に我々は彼を勇者として認めたわけです。さて、長い前置きはここまでにして、クロエさん。肯定か否定かだけで良い。貴女は転生者ですね?」
ローレンツが凄むように問う。その視線は一体何を見極めようとしているのか、クロエには一切検討がつかなかった。
故に、ただただ正直に答えるほかない。
「……はい。ボクは転生者です。恐らくですが、その勇者のコーガは元の世界の友人だったはずです。」
―続くー
「さて、お待たせいたしました。では、今からちょっとした説明をさせていただきます。寝ないで聞いてくださいね!」
先ほどの受付嬢が書類を机において、近くの椅子に三人を促しながら話し出した。クロエ達は椅子に座り受付嬢の方へと注目する。
「今から皆さんにはこちらの装置、『大賢者の目』に入って貰います。これに入った皆さんをスキャンすることで、皆さんの組合階級(ギルドランク)などが定義されます。ランクはSを最高としてA+、A、B+、B……そして最低としてEの合計11段階です。と、言ってもSランクなんて世界でも数人しか確認されていませんし、ギルドメンバーの平均ランクがDなんですけどね。」
受付嬢が苦笑しながらそう言った。しかしそれは、この世界の半分以上が人類種であり、それゆえギルドのメンバーの平均ランクも下がることが原因だろう。一般的には亜人種、魔族に比べ人類種の魔法適性値や身体能力はそれを下回るからだ。
受付嬢が円形の台型の装置を手で示した。台の表面、人が乗るであろう部分には細かな魔方陣のようなものが彫り込まれている。
「さ・ら・に! この装置の凄いところは! この装置の魔法システムは! かの『光の女神』のパーティーだった大賢者が構築したものなんですよ! 一切の偽造は不可能! これこそが、各国で我々の組合証が身分証名証になる理由なんですよ!!」
受付嬢が興奮したように声を上げる。だが、その話を聞いていた三人はその勢いにいまいちついて行けないようで、若干引いた様子でその話を聞いていた。普段冷静沈着なミーナでさえ、少しばかり上体を反らし困ったかのような表情をしている。
その様子を感じ取ったのか、受付嬢は「コホンッ」と咳払いを一つするとトーンダウンして話し始めた。
「え、えぇと……そ、それでは順番に装置の上に立ってください。ただ立っているだけで大丈夫ですので。では、まずはミーナ・アレクサンドリアさんから。」
「はい。」
返事をしたミーナが立ち上がり、大賢者の目の元へ向かう。たった数歩の距離であるが、クロエは自信の番でもないのに緊張が止まらなかった。装置の上に立つと、足下の魔方陣が輝きだす。輝きは徐々に増していき、そして次の瞬間、足下の魔方陣から全く同じ模様の光の魔方陣が空中に向けて射出された。ミーナの頭の上辺りで緩く回転しながら漂うそれは、数回の回転の後ミーナをまるで調べるかのようにゆっくりと回転しながら降下しだした。
「はい、終了です! お疲れ様でした。もうすぐギルドカードができあがりますよ!」
光の魔方陣が下まで降り足下の魔方陣が輝きを止めた頃、受付嬢がそう言った。そしてその視線を、先ほど書類をおいた机に向けた。机の上には台に乗せられた金属板がある。すると、その金属板が皆の見ている前でにわかに輝きだした。そして輝きが収まり、再び金属板に目を向けると、その表面にはいくつかの文字が刻まれていた。
「はい、これでギルドカードの完成です。ミーナ・アレクサンドリアさん、えーと、適合属性は闇。魔法適正値500。組合基準職業は『従者』です! 珍しいですね! しかもランクB+ですよ!!」
「はい、お手数おかけしました。」
完成したギルドカードを受け取ってミーナは席へと戻ってきた。席に座りカードを眺めると、そのカードを服の隙間から胸の谷間にしまった。
(……えっ、なんでそこにしまうの? いやいや、それよりも――)
「あの、ミーナさん。」
「はい、どうしましたか?」
「さっき受付の人が言っていた、『ギルスタ・ジョブ』って何ですか?」
「あぁ、それはですね……丁度お嬢様のスキャンの番ですし、それに合わせて説明しましょう。」
ミーナが手で指し示した先に視線を送る。そこには先ほどのミーナと同じように|大賢者の目(アルゴス)の上に立つサラの姿があった。
「このギルドでは職業と言うものを定めています。これはいわゆる一般的な仕事という意味ではなく、その人物の大まかなステータスや使用する武器、能力、属性適正値など、様々な要素を加味した上ではじき出される、その人に一番合っていると判断された仕事の事です。」
ここまで話すと、ミーナはどこからか自分のギルドカードを取り出してクロエに見せた。そこには名前と精巧な似顔絵、そして組合基準職業と言う項目に「従者」と記されていた。
「『ギルスタ・ジョブ』は『ギルドスタンダード・ジョブ』の略称です。ギルドに所属する組合員の数はとても膨大です。その人員を上手く判別したり、また即興でパーティーを組んだりするときもこのギルスタ・ジョブはとても便利なんですよ。」
「へぇ……それは凄いですね。でも、サラさんのギルスタ・ジョブはメイドなんですか。正に天職なんですね。」
「はい、その通りです。おや、丁度お嬢様のスキャンが終わったみたいですね。お嬢様は風魔法を得意とし、そしてそれを利用した弓矢で戦われます。そこから診断されるギルスタ・ジョブは恐らく――」
「『弓人』、ですわ。」
「あっ、サラさん。お疲れ様です。」
サラが自身の組合証(ギルドカード)を手にして帰ってきた。そのカードには弓人と記されている。
「ふぅん、多分そうだろうとは思っていましたけど、アーチャーですわね。まぁ、何の不満もありませんですけど。ただ、ランクはBでしたわ。もっと上を狙いたかったんですけど……」
「Bでも大したものですよ。流石はお嬢様です。さて、最後はクロエさんですね。」
「はい、行ってきます。」
クロエはそう言うと立ち上がり、大賢者の目の元へと向かう。しかし、その顔には微かな緊張が見られた。実はクロエには一つ、どうしてもぬぐえない心配事があった。
(ボクは、転生の際に魔王という役割を与えられた……しかも、身体には大魔王が封印されている。もし、このままこの装置でスキャンされて、ギルドカードに「魔王」なんて刻まれたら、どうすれば良いんだろう……)
先の大戦の英雄・「光の女神」の生まれた地であり、そして最近勇者が再び現れたこの地で、魔王であることが判明するのはとても危険な行為だ。ギルドカードにギルスタ・ジョブというものが刻まれる事を知ってから、クロエはずっとそのことを心配していた。だが、受付嬢の目がある事、更にはクロエの事情を知っているミーナが何も言ってこなかった事から、誰にも相談できず、何はともあれ行ってみようと思ったのだった。
そして心配事を抱えたまま、クロエは大賢者の目の上に立つ。足下が光り、光の魔方陣が射出される。自身の頭を占める心配事を追い出すかのように、「あぁ、まるでMRAみたいだな……」何てことを考えていた。
ついにスキャンが終わった。緊張が最高潮に高まる中、大賢者の目を降りる。そして受付嬢の方へと顔を向けると、受付嬢はクロエのギルドカードを片手に驚愕の表情を顔に浮かべていた。
(あぁ、終わった……)
クロエがあきらめの気持ちと共にまぶたを閉じたその時、両手がいきなり握られた。ビクッと肩をふるわせ、おそるおそるその目を開けると、眼前に興奮したような面持ちの受付嬢の顔があった。
「ひゃっ……!?」
「す、凄いですよ、クロエさん!! 私も初めて見ました!! ギルスタ・ジョブの欄が空白です! 『価値ある空白』ですよ!! しかもランクA!? この支部でもまだ数えられるほどしか出ていないんですよぉ!!」
「ぶ、ぶらんく……?」
興奮した面持ちの受付嬢にガクガクと揺さぶられるまま、クロエは疑問を上げた。てっきりギルドカードに「魔王」と刻まれそのことについて糾弾されるかと思いきや、突然興奮の面持ちを眼前に置かれ、さらには聞き慣れない言葉で賞賛される。誰であろうと混乱するに違いない。だが、興奮する受付嬢はクロエの戸惑いに気づくことはないようで、しきりに声を上げながらクロエの腕を上下に激しく振っているばかりだ。
見かねたサラが立ち上がり受付嬢からクロエを奪い取る。
「い、いい加減にしてくださいます!? クロエさんが怯えていらっしゃるじゃないですか! なんて可愛らし……もとい、あの……その……可愛らしいですわねッ!!」
「せめてもうちょっと頑張りましょうよっ!?」
結局サラに抱きしめられることになるクロエであった。二人の漫才を見せつけられた受付嬢も正気に戻ったのか、「ハッ!」と一声上げるとクロエに謝罪をして改めてギルドカードを手渡した。因みに、今までの流れにおいてミーナは終始無言を貫いていた。
クロエは受け取ったカードを眺めながら席に着いた。そこには他の二人とほぼ同じ、精巧な似顔絵と名前、そしていくつかの認証印のようなサインがあった。だが、いくつか違う点がある。
まずはランクだ。そこに記されたランクは「A」。他の二人よりも高いそのランクは正直クロエ本人が一番理解できていない。そして、一番異なる点、それはギルドスタンダード・ジョブの欄が空白であった事だ。
「おぉっ! 凄いですね、クロエさん。属性は闇、魔法適正値が1万もありますよ……って、い、1万んん!?」
受付嬢がスキャンの結果が記された紙を見て驚愕している。だが、そこに記された数値を見れば誰しもが驚くだろう。
「あ、あわわ……こ、ここ、これは私には手に負えません……ちょ、ちょっと待っててくださいね! 支部長を呼んできます!」
そう言うと受付嬢は逃げ出すかのような勢いで部屋を出て行った。扉に着くまでの数メートルの間に2回ほど躓いていたが。
残された三人、正確には二人は事態について行けないとばかりにポカンと呆けてしまっていた。ただ、ミーナだけが予想通りと言わんばかりに微笑んでいる。
「やはり、クロエさんの結果は『価値ある空白』でしたか。しかし、本当に私たちよりもランクが上だとは。流石は魔法適正値1万なだけはありますね。」
ミーナがクロエの方へ向いて言った。その言葉にクロエ自身も我に返り疑問を返す。
「ミーナさん、その、ブランクって言うのは何ですか?」
「私も詳しいわけではないのですが、クロエさんのように特殊な状態の方、つまり転生者であったり、特殊な経歴であったり等ですね。そのような際に極まれではありますが、ギルドスタンダード・ジョブでは規定できないと判断されてジョブ欄が空白になるそうなんです。その空白を一般的にただの空欄ではなく、『価値ある空白』と呼んでいるそうです。」
クロエは自分のギルドカードを見た。確かに、よくよく考えたらギルドが「魔王」なんてジョブを規定するわけがない。そうなればジョブ欄は空白にする他ないわけである。
「因みに、そう言った方々は総じて高ランクであったり、強力な力を持っていたりするそうです。やはり大賢者がその魔法システムを構築したと言われる大賢者の目は正確ですね。」
そこまで言ってミーナが笑ったとき、再び扉が開かれた。そこには先ほどの受付嬢の他に、年の頃として中年と思われる男がいた。状況を見るに、その男こそがギルド支部長なのであろう。
「……こちらの者から、簡単に事情を伺いました。もう少し詳しくお伺いしたいので、お三方とも、応接室までご足労いただけますか?」
「別に構いませんけれど、変にへりくだりますわね? 何か怪しいことでも企んでいるんですの?」
サラが疑問をぶつけた。その言葉と態度からは、疑いの気持ちがあふれんほどに感じられる。支部長の男は苦笑すると事情を話し出した。
「高ランクのギルドメンバーはギルドの中でも極まれでしてね。特にAランク以上ともなると一つの国の中でも一人いるかいないかと言うほどなんです。貴女方はそれぞれB、B+、そしてAランク。私が敬意を払うのには十分なランクだ。それに、特にそちらのお嬢さんは魔法適正値1万だと聞く。もしそんな方に機嫌を損ねられて暴れられたら、こんなボロ支部はひとたまりもありませんから。」
男は苦笑しながら扉の外へと三人を誘導した。そして受付嬢の先導のもと、部屋を抜け、エントランスを横切り、一目で頑丈だと分かる扉の前へと到着した。
「つ、着きました。応接室です。」
受付嬢が緊張しながら扉を開ける。開けられた扉の先には、一目で高級と分かるソファとテーブルが置かれていた。
「さぁ、どうぞ。おかけください。」
支部長が着席を促す。三人はそれに従いソファに座った。支部長は受付嬢にお茶を持ってくるように伝えると、自身も相対するように向かいのソファに座る。
「まずは自己紹介を。私はこのギルドのオーラント支部支部長のローレンツと申します。以後お見知りおきを。さて、本題から参りましょうか。私がここの支部長について以来、この支部の新規組合員登録で『価値ある空白』が出るのは実に二回目でしてな。それがつい一ヶ月ほど前に我が国に現れた勇者コーガです。」
支部長が発した言葉にクロエが反応する。支部長はその様子を見逃さなかったが、特にどうこうするわけでもなく話を続ける。
「彼は転生者でした。事情を伺った後、身分保障として大賢者の目にて検査をしたところその結果はAランクの『価値ある空白』だった。それ故に我々は彼を勇者として認めたわけです。さて、長い前置きはここまでにして、クロエさん。肯定か否定かだけで良い。貴女は転生者ですね?」
ローレンツが凄むように問う。その視線は一体何を見極めようとしているのか、クロエには一切検討がつかなかった。
故に、ただただ正直に答えるほかない。
「……はい。ボクは転生者です。恐らくですが、その勇者のコーガは元の世界の友人だったはずです。」
―続くー
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起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
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