白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第42話

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 その後、午後の時間を使ってクロエのデータが採取された。身長、体重、各部位のサイズ。まるでオーダーメイドの服を作るようだとミーナにそうこぼすと、「良い得て妙ですね。その通りです。」と答えが返ってきた。その後も身体能力などを計測し、たっぷり数時間かかった測定は終了した。
 余談だが、身長測定の後クロエは改めて年齢を聞かれた。転生者なので分からないと答えると、その質問をした三男サシガネは苦笑いで去っていった。クロエには何も話していないが、クロエの身長はガンク・ダンプにおける十歳少女の平均身長を見事に下回っていたのだ。それを聞かされたサラとミーナは少し複雑そうな表情をしていた。
 計測終了後、クロエたち三人は宿屋に戻っていた。国内を観光しようという案も出たが、測定でクロエが疲れているであろうこと、そして手紙を送ったヒフミの性格上、手紙の返事などは比較的早めに送られてくることなどを加味したのだった。

「あ~気持ちいい……」

 部屋に戻ると、その間に掃除がなされたのだろう。室内はきれいに整えられていた。初めて部屋に来た時と相違ない見た目は、流石ロイヤルスイートである。当然部屋が整えられたということは、ベッドメイクも完成されている。クロエは上着などを脱ぐと、そのまま自分のベッドに再びダイブしていた。ふかふかのシーツに身をうずめ、柔らかい枕にほおずりしている。まるで撫でられる猫のような仕草に、一人そわそわとしている人物がいた。サラだ。寝室でゴロゴロとするクロエを横目に見ながらソワソワと落ち着かない。それを見たミーナが言葉をかける。

「……さすがに、この状態で撮影したらバレますよ?」

 ビクンと身を跳ねさせて驚くサラ。汗を垂らした笑みでミーナに振り返る。

「い、いやですわ、ミーナったら。私がそんなことするはずないじゃないですの。キチンとわきまえていますわ。撮影はクロエさんの許可の下か、眠ってから。分かっていますわ。」

(それは、わきまえていると言えるのでしょうか……?)

 ミーナがそう心中で考えていた。世間ではそれを盗撮と言うのだが、身内から犯罪者は出したくない。と言うよりも、普通に写真を撮って良いかきけばいいのに。ミーナの心中を察するものは誰もいなかった。
 クロエは徐々に眠たくなってきたのか、ベッドの上で動く回数が少なくなってきた。これはチャンスとばかりにサラが座っていたソファーから軽く身を乗り出す。
 しかし、そのチャンスが巡ってくることはなかった。不意に部屋の扉がノックされたのだ。規則正しい、力強いノックは寝室まで届き、クロエは眠りかけていた意識を振り払いベッドから降りた。

「チッ!」
「お嬢様、アウトです。」

 サラが険しい顔で舌打ちをした。その行動を冷静にミーナがたしなめる。そのままミーナは扉に近づくと、油断ない動きで扉を開けた。

「はい、どちら様でしょう?」
「失礼するであります。」

 扉の外にいたのは軍服を身にまとった一人の女性であった。濃い灰色の軍服にトーク帽のような略帽をかぶっている。身長はミーナと同じぐらいだろう。女性にしては高めである。ピシッとした軍服姿がとてもよく似合っていた。
 だが、そのウルフカットのショートヘアー、被っているトーク帽の両脇、そこにはおよそ人類種にはないものがあった。耳だ。ピンと立っている三角形の耳は、髪の色と同じ黒色である。よくみると彼女の背後、足に隠れるように尻尾があった。
 それを見たミーナが驚いたように目を開く。そして目の前の女性に話しかけた。

「これは、驚きました……過去に滅んだと聞いておりましたが、もしや、人狼族ウェアウルフの方ですか?」

 その質問に今度は目の前の女性が驚いた。金色の獣眼をまん丸にして、背後の尻尾を揺らしている。耳もぴくぴくと動いていた。

「お、驚いたのは自分もであります……まさか、自分のことを一目で人狼族ウェアウルフと見抜く方がいるとは……あ、申し訳ありません。自己紹介がまだでありました。自分はガンク・ダンプ国軍の『鉄血蒸奇軍アームストロングスチーマー』の特任編成隊の副隊長、ルウガルー・ヴォルケンシュタイン少佐であります。」

 敬礼をしながら自己紹介をするその姿は訓練が行き届いた証拠であった。クロエは内心まるで警察犬のようだと考えていたが。
 ミーナはとりあえずルウガルーを室内に招き入れた。椅子に座らせ、四人分のお茶を用意する。そしてすでに着席していたクロエとサラの前にお茶を置いていき、ルウガルーにも渡した。

「はい、どうぞ……って、いかがされましたか?」
「へ? ああ! も、申し訳ないであります。自分、このようなオシャレな雰囲気には慣れておらず……ついつい委縮しておりました。」

 恥ずかしそうに頭を掻きながらそう言うルウガルー。それを聞いたミーナはクスッと微笑むと自分のお茶も用意して席に座った。

「さて、先に私たちから自己紹介をしましょうか。私はサラ・エルゼアリスと申しますわ。種族はご覧の通りエルフですわ。そしてこちらが……」
「お初にお目にかかります。ミーナ・アレクサンドリアと申します。気軽にミーナとでもおよびください。そしてこちらの方が……」

 まるでリレーの様に紹介が回ってきた。クロエは少し違和感を得ながらも自己紹介をする。

「は、初めまして。えっと、クロエと言います。よろしくお願いします。」

 クロエが少し噛みながらも自己紹介を終えた。すると、ルウガルーが首を傾げた。それに気が付いたクロエが話しかける。

「えっと、な、何か?」
「あ、いや、申し訳ない。実は今日ここへ伺ったのも自分の上司、特任編成隊隊長のヒフミ将軍の命でありまして。しかし、隊長からは前世でのご友人と聞かされておりました故、まさかこのように幼い方だとは露にも思わず……失礼ですが、クロエ殿ご本人でありますか?」

 ルウガルーが質問をした。だが、それも無理はないだろう。クロエの見た目は十歳前後の幼い少女なのだ。それが若いとはいえ一個大隊を束ねる大隊長と友であると言うのだ。信じられないとまでは言わずとも、つい確認はしてしまう。
 クロエもそれを分かっているのだろう。苦笑しつつ自らのギルドカードをルウガルーにさしだした。一礼してそれを受け取ったルウガルーの顔は驚きに染まることになる。

「こ、これは……! いやはや、御見それしたであります。疑ってしまい申し訳ありません。よもやその若さでAランクのネームドであるとは。流石でありますな。」

 ギルドカードをクロエに返して、謝るルウガルー。礼儀作法は知っているようだ。
 互いの紹介が終わったところでようやく要件にはいる。

「さて、自分がここへ参った訳ですが、ヒフミ隊長からとある任務を拝命したからであります。クロエ殿、まずはこれをお受け取りください。」

 そう言うと、ルウガルーは懐から一通の封筒を取り出してクロエに手渡した。その手紙はこの紙が比較的貴重であるガンク・ダンプにおいて、およそ最高級であろう紙が使われていた。しっかりと蝋封されたそこには何かの印璽がなされている。自身の影から小さな刃物を生成してその封を切ったクロエは中の手紙を読み始めた。

『クロエへ

 久しぶりだな。まずはお互いの無事を祝おう。私は幸運なことに非常に恵まれた環境下で過ごすことができている。他の皆はまだ全員の確認はとれていないが、確認がとれている者については無事であるらしい。
 忙しい私の環境を考えた配慮を嬉しく思う。会食の場所はこちらで用意する。案内役もつけるからぜひとも呼ばれてほしい。食事代などは経費で落ちるから安心しろ。お前にはいろいろと聞きたいこともあるからな。例えばオーラント国での革命についてなどだ。別に怒っている訳ではないからビクビクせずに来てくれ。では、待っている。

 乃木一二三より

 追伸

 もしかしたら少し所用で遅れるかもしれない。申し訳ないが待っていてくれると嬉しい。』

 手紙の内容は以上だった。ヒフミらしい、きっちりした文字だった。日本語で書かれたそれはクロエにとって久々に感じる前世の雰囲気であった。
 手紙を閉じると、クロエはそこに書いてあった内容をサラとミーナに伝えた。二人とも会食に賛成する。それを聞いたルウガルーが一つ頷いて話し出した。

「うむ、ありがたいであります。予約してあるレストランへの案内役は自分が務めさせていただくであります。まだ少し時間がある故、一時間後にこのホテルのロビーに集合していただきたい。自分はその間に他の用事を済ませてくるであります。あ、お茶ありがとうございました。非常に美味でありました。」

 そういって空のカップをミーナに渡してルウガルーは部屋を後にした。残されたクロエたちは顔を合わせる。

「ふむ、流石は国軍の特命将軍ですね。指定されたレストランは、私が以前この国に来た時からすでに最高峰の名を勝ち取っていた高級老舗店です。その値段も破格の物でしょうに、これはその御人の懐の深さがうかがえますね。」

 ミーナがそう言った。ヒフミの用意したレストランのランクに感心しているようだ。サラとクロエは知らないが、ミーナの言葉に同じく感心する。

「ヒフミさんは昔から学級委員長……えっと、集団のリーダーなんかをよくやるタイプでしたから、やっぱり面倒見も良いみたいですね。さっきのルウガルーさんを見てても嫌われていないようでしたし。」

 クロエが懐かしむようにそう言った。思い出すのは高校のころである。その頃から剣道部に所属し、クラスでは学級委員長を務めていたヒフミの姿はまさに隊長であるからだ。思い出に浸るようにクロエは笑う。
 その様子を見てサラとミーナは、そのヒフミと言う相手が悪い人物ではないことを確信した。嫌な記憶のある人物を思い出してこのような穏やかな笑みは浮かべまい。
 それぞれがそれぞれの思いを抱えながら、時間は過ぎていくのだった。

―続く―

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