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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ
第43話
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ロビーで再びルウガルーと落ち合った三人は、そのままホテルを共に出た。外の通りを歩く。ふとミーナが口を開いた。
「ところで、ルウガルーさん?」
「どうされたのでありますか?」
「用意していただいたレストランは、私の記憶が正しければあのホテルから遠く離れた場所であったと思いますが、今から徒歩で間に合うのですか?」
ミーナがそう問いかけた。ミーナの話によると、そのレストラン、「カルロ・メンタ」は丁度この国の中心部を線対称にホテルから真逆に位置するのだという。ルウガルーもその位置であっていると話す。
「じゃあ、どうするんですか? あ、飛びます?」
クロエが翼を展開してふわりと浮かび上がった。亜人の多いこの国では空を飛ぶ種族もいた。魔法で飛ぶものもいるようだ。蒸奇の技術で飛ぶものもいる。ルウガルーもクロエが飛び上がったことに別段驚かなかった。むしろ飛び上がった時に見えた尻尾の方に興味を持ったようだ。
「ク、クロエ殿……クロエ殿も尻尾があるのですね!」
浮かび上がったクロエの丁度おなか部分を両手でわし掴むルウガルー。その表情は同士を見つけたとばかりに輝いたが、敏感なところをつかまれたクロエにとってみればたまったものではなかった。
「ひゅいっ!?」
面白おかしい悲鳴を上げてバランスを崩し、地上へ何とか着地した。ルウガルーの方を涙目で恨めし気に見上げる。
「なな、何てことするんですか! セクハラです!」
「も、申し訳ないであります……ところで『せくはら』とは何でありますか?」
「え!? そ、それは……その……あ! ところで、ボクにも尻尾があると何なんですか!?」
ルウガルーの質問に顔を真っ赤にさせたクロエは強引な手段で話題を転換させた。傍から見ると無理やりすぎる転換だったが、当のルウガルーはその言葉に再び興奮がよみがえった。
「そ、そうであります! 自分の周囲には尻尾を持つ同士がおらず、この悩みを共感できずにいたのであります! 尻尾があると椅子に座る時に苦労しないでありますか?」
「――! わ、分かります! こう、まちがえて尻尾ごとお尻に敷いちゃって『痛っ!』ってなったりとか!」
「そうです、そうなんでありますよ! あと、少し言いにくいでありますが……ズボンや下着履くときも苦労しませんか?」
「分かります……! 時々一緒に挟み込んじゃうんですよ。」
尻尾を持つ者同士の話が盛り上がっている。サラとミーナは蚊帳の外だ。
「ゴホン! あー、その……それで、そのレストラン、『カルロ・メンタ』へはどうやって行くんですの?」
サラが話に割って入っていった。どのような手段をとるのであれ、ここで無駄話をしていては間に合わないだろうと判断したのだ。
サラの言葉にルウガルーはハッと正気に返る。咳ばらいを一つすると再び歩き出した。
「申し訳ないであります。えーっと、移動手段でありますね。ご安心ください。この国には他国にはない画期的な移動手段があるのです。もうすぐ、着くと思うのでありますが……あ、ここであります。」
そう言ってルウガルーがとある場所を指し示した。そこは三人がこの国へ降り立つ時、クロエが興味を示した国中を走るパイプの終着点の一つに当たる場所だった。他とは違う開けた建物には、多くの人が集まっている。ゲートのような場所で何やら人々がやり取りをしているようだ。
クロエはその光景に既視感を得ていた。よく慣れ親しんだ、とある光景。
(あ! そうだ……この場所、あれに似てるんだ。)
思い出したクロエはルウガルーに質問する。
「あの……これ、もしかして列車ですか?」
クロエのその言葉にルウガルーは感心したような表情になった。金色の獣眼をまん丸にしている。
「おぉ……やはり、ヒフミ隊長のご友人ですな。まさか、隊長と同じ質問をなされるとは。たしか、そちらの世界では雷の力で動く列車があるとか。」
「はい。昔は蒸気の力で動くものもあったみたいです。ボクがこの世界に来る少し前には磁石の力で動くものも発明されていました。」
「おお! 隊長から聞いた覚えがあるであります。たしか、『リーニア、持ったか?』とか言う名前の……」
「いえ、『リニアモーターカー』です。」
「あ、あの……とりあえず二人の話が全く分からないのですけど、とりあえずここは何をする場所ですの?」
サラがおずおずと言った風に手を上げた。列車と言う物は知識で知っていても、実物は見たことがない。エルフの郷にもオーラントにも無いものだからだ。
「も、申し訳ない。ついつい話が弾んでしまい……どうやらクロエ殿とは気が合うようでありますな。」
「あ?」
「お嬢様、ツーアウトです。」
ルウガルーの漏らした言葉に思わず好戦的な反応を返すサラ。すかさずミーナがたしなめる。
サラの言葉は聞こえなかった様子のルウガルーだが、その雰囲気は察知したのだろう。少し顔を青ざめさせながら説明を始めた。
「えっと、その……お二方は列車をご存知でありますか?」
「ええ、文献でなら。魔力で動く『魔導機関車』でしたわね?」
「はい。私も過去、他国で乗った経験があります。」
ルウガルーの言葉にサラとミーナが答える。二人が知っているのは、どうやら蒸気機関車の動力源を魔力に置き換えたような存在である「魔導機関車」であるようだ。オーラント国には無かったが、現在では比較的多くの国で使用されている公共交通機関である。
「それならば話は早い。我がガンク・ダンプでも過去、その『魔導機関車』は使用されていました。その後、わが国では独自の進化を展開、蒸奇の技術を導入した技術革新を経て、つい二十年ほど前に生まれたのがこの、『蒸奇送管列車』なのであります!」
誇らしげに駅舎を手で示すルウガルー。聞きなれない言葉に三人は首をかしげる。詳しく説明を加えようとしたルウガルーだが、ふと懐の懐中時計を見て少し焦りだした。
「おお!? マ、マズい……遅れてしまうであります。く、詳しくは列車の中で説明するでありますので、とりあえず中へ!」
三人を駅舎の中へ誘導すると、ルウガルーは改札口に立つ係員に軍人手帳を掲示した。
「『鉄血蒸奇軍』所属のヴォルケンシュタイン少佐であります! 急ぎでありますので乗せて頂きたい! 乗車代は軍へ請求を!」
「へ? あ、かしこまりました! ど、どうぞ!」
改札を通過した四人は今まさに出発しようとベルを鳴らす列車に乗り込む。いわゆる飛び込み乗車なのだが、ここは異世界なのでそれをとがめる者はいない。
「ハァッ、ハァッ……! 異世界に来てまで、電車に急かされるなんて……!」
息を切らしてそう呟くクロエ。そのつぶやきに答える者はいない。
すると、列車内にアナウンスが流れだした。
『えー、毎度ご乗車いただきありがとうございます。この列車は東部クラセルタウン発、西部リーアスシティ行きです。発射します、ご注意ください。』
「え?」
耳慣れない言葉に疑問の声を上げる。するとルウガルーがクロエの手を引っ張り自分の座る席の隣へ座らせる。
「あぷっ! な、何するんですか?」
「立っていると危ないでありますよ! 『蒸奇送管列車』が射出されるのでありますから。」
「そ、その射出ってなんですか?」
「すぐにわかるであります。」
「え?」
クロエがそう声を上げた瞬間、ガコンとスチームトレインが動いた。何も知らない三人が疑問の表情を上げる中、突如としてスチームトレインが急加速する。その荷重にサラが驚く声を上げた。
「な、なんですのー!?」
だが、その荷重はすぐに取り除かれる。圧迫の消えた体が自由に動くことを確認すると、クロエは改めてルウガルーへ話しかけた。
「びっくりしました……これは何なんですか?」
「先ほどから何度か名前を出していますが、これは『蒸奇送管列車』と呼ばれる乗り物であります。その原理はいたってシンプル、管の中にあるこの円筒形の列車を蒸奇の力で押す。これだけなのであります。」
ルウガルーの説明に三人が感心したように頷いた。三人が入国の時に見た国中に走るパイプ、あれはこのスチームトレインの線路だったのである。
「これのおかげで国中のインフラは劇的に進歩したであります。国家の結束も高まりました。ありがたい物であります。」
ルウガルーそう語った。発車時の急激な荷重とは裏腹に、走行中の列車は大きな揺れもなくまるで統べるように走っていく。四人を乗せた快適な列車の旅は超高速で進んでいくのだった。
―続く―
「ところで、ルウガルーさん?」
「どうされたのでありますか?」
「用意していただいたレストランは、私の記憶が正しければあのホテルから遠く離れた場所であったと思いますが、今から徒歩で間に合うのですか?」
ミーナがそう問いかけた。ミーナの話によると、そのレストラン、「カルロ・メンタ」は丁度この国の中心部を線対称にホテルから真逆に位置するのだという。ルウガルーもその位置であっていると話す。
「じゃあ、どうするんですか? あ、飛びます?」
クロエが翼を展開してふわりと浮かび上がった。亜人の多いこの国では空を飛ぶ種族もいた。魔法で飛ぶものもいるようだ。蒸奇の技術で飛ぶものもいる。ルウガルーもクロエが飛び上がったことに別段驚かなかった。むしろ飛び上がった時に見えた尻尾の方に興味を持ったようだ。
「ク、クロエ殿……クロエ殿も尻尾があるのですね!」
浮かび上がったクロエの丁度おなか部分を両手でわし掴むルウガルー。その表情は同士を見つけたとばかりに輝いたが、敏感なところをつかまれたクロエにとってみればたまったものではなかった。
「ひゅいっ!?」
面白おかしい悲鳴を上げてバランスを崩し、地上へ何とか着地した。ルウガルーの方を涙目で恨めし気に見上げる。
「なな、何てことするんですか! セクハラです!」
「も、申し訳ないであります……ところで『せくはら』とは何でありますか?」
「え!? そ、それは……その……あ! ところで、ボクにも尻尾があると何なんですか!?」
ルウガルーの質問に顔を真っ赤にさせたクロエは強引な手段で話題を転換させた。傍から見ると無理やりすぎる転換だったが、当のルウガルーはその言葉に再び興奮がよみがえった。
「そ、そうであります! 自分の周囲には尻尾を持つ同士がおらず、この悩みを共感できずにいたのであります! 尻尾があると椅子に座る時に苦労しないでありますか?」
「――! わ、分かります! こう、まちがえて尻尾ごとお尻に敷いちゃって『痛っ!』ってなったりとか!」
「そうです、そうなんでありますよ! あと、少し言いにくいでありますが……ズボンや下着履くときも苦労しませんか?」
「分かります……! 時々一緒に挟み込んじゃうんですよ。」
尻尾を持つ者同士の話が盛り上がっている。サラとミーナは蚊帳の外だ。
「ゴホン! あー、その……それで、そのレストラン、『カルロ・メンタ』へはどうやって行くんですの?」
サラが話に割って入っていった。どのような手段をとるのであれ、ここで無駄話をしていては間に合わないだろうと判断したのだ。
サラの言葉にルウガルーはハッと正気に返る。咳ばらいを一つすると再び歩き出した。
「申し訳ないであります。えーっと、移動手段でありますね。ご安心ください。この国には他国にはない画期的な移動手段があるのです。もうすぐ、着くと思うのでありますが……あ、ここであります。」
そう言ってルウガルーがとある場所を指し示した。そこは三人がこの国へ降り立つ時、クロエが興味を示した国中を走るパイプの終着点の一つに当たる場所だった。他とは違う開けた建物には、多くの人が集まっている。ゲートのような場所で何やら人々がやり取りをしているようだ。
クロエはその光景に既視感を得ていた。よく慣れ親しんだ、とある光景。
(あ! そうだ……この場所、あれに似てるんだ。)
思い出したクロエはルウガルーに質問する。
「あの……これ、もしかして列車ですか?」
クロエのその言葉にルウガルーは感心したような表情になった。金色の獣眼をまん丸にしている。
「おぉ……やはり、ヒフミ隊長のご友人ですな。まさか、隊長と同じ質問をなされるとは。たしか、そちらの世界では雷の力で動く列車があるとか。」
「はい。昔は蒸気の力で動くものもあったみたいです。ボクがこの世界に来る少し前には磁石の力で動くものも発明されていました。」
「おお! 隊長から聞いた覚えがあるであります。たしか、『リーニア、持ったか?』とか言う名前の……」
「いえ、『リニアモーターカー』です。」
「あ、あの……とりあえず二人の話が全く分からないのですけど、とりあえずここは何をする場所ですの?」
サラがおずおずと言った風に手を上げた。列車と言う物は知識で知っていても、実物は見たことがない。エルフの郷にもオーラントにも無いものだからだ。
「も、申し訳ない。ついつい話が弾んでしまい……どうやらクロエ殿とは気が合うようでありますな。」
「あ?」
「お嬢様、ツーアウトです。」
ルウガルーの漏らした言葉に思わず好戦的な反応を返すサラ。すかさずミーナがたしなめる。
サラの言葉は聞こえなかった様子のルウガルーだが、その雰囲気は察知したのだろう。少し顔を青ざめさせながら説明を始めた。
「えっと、その……お二方は列車をご存知でありますか?」
「ええ、文献でなら。魔力で動く『魔導機関車』でしたわね?」
「はい。私も過去、他国で乗った経験があります。」
ルウガルーの言葉にサラとミーナが答える。二人が知っているのは、どうやら蒸気機関車の動力源を魔力に置き換えたような存在である「魔導機関車」であるようだ。オーラント国には無かったが、現在では比較的多くの国で使用されている公共交通機関である。
「それならば話は早い。我がガンク・ダンプでも過去、その『魔導機関車』は使用されていました。その後、わが国では独自の進化を展開、蒸奇の技術を導入した技術革新を経て、つい二十年ほど前に生まれたのがこの、『蒸奇送管列車』なのであります!」
誇らしげに駅舎を手で示すルウガルー。聞きなれない言葉に三人は首をかしげる。詳しく説明を加えようとしたルウガルーだが、ふと懐の懐中時計を見て少し焦りだした。
「おお!? マ、マズい……遅れてしまうであります。く、詳しくは列車の中で説明するでありますので、とりあえず中へ!」
三人を駅舎の中へ誘導すると、ルウガルーは改札口に立つ係員に軍人手帳を掲示した。
「『鉄血蒸奇軍』所属のヴォルケンシュタイン少佐であります! 急ぎでありますので乗せて頂きたい! 乗車代は軍へ請求を!」
「へ? あ、かしこまりました! ど、どうぞ!」
改札を通過した四人は今まさに出発しようとベルを鳴らす列車に乗り込む。いわゆる飛び込み乗車なのだが、ここは異世界なのでそれをとがめる者はいない。
「ハァッ、ハァッ……! 異世界に来てまで、電車に急かされるなんて……!」
息を切らしてそう呟くクロエ。そのつぶやきに答える者はいない。
すると、列車内にアナウンスが流れだした。
『えー、毎度ご乗車いただきありがとうございます。この列車は東部クラセルタウン発、西部リーアスシティ行きです。発射します、ご注意ください。』
「え?」
耳慣れない言葉に疑問の声を上げる。するとルウガルーがクロエの手を引っ張り自分の座る席の隣へ座らせる。
「あぷっ! な、何するんですか?」
「立っていると危ないでありますよ! 『蒸奇送管列車』が射出されるのでありますから。」
「そ、その射出ってなんですか?」
「すぐにわかるであります。」
「え?」
クロエがそう声を上げた瞬間、ガコンとスチームトレインが動いた。何も知らない三人が疑問の表情を上げる中、突如としてスチームトレインが急加速する。その荷重にサラが驚く声を上げた。
「な、なんですのー!?」
だが、その荷重はすぐに取り除かれる。圧迫の消えた体が自由に動くことを確認すると、クロエは改めてルウガルーへ話しかけた。
「びっくりしました……これは何なんですか?」
「先ほどから何度か名前を出していますが、これは『蒸奇送管列車』と呼ばれる乗り物であります。その原理はいたってシンプル、管の中にあるこの円筒形の列車を蒸奇の力で押す。これだけなのであります。」
ルウガルーの説明に三人が感心したように頷いた。三人が入国の時に見た国中に走るパイプ、あれはこのスチームトレインの線路だったのである。
「これのおかげで国中のインフラは劇的に進歩したであります。国家の結束も高まりました。ありがたい物であります。」
ルウガルーそう語った。発車時の急激な荷重とは裏腹に、走行中の列車は大きな揺れもなくまるで統べるように走っていく。四人を乗せた快適な列車の旅は超高速で進んでいくのだった。
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