白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

文字の大きさ
50 / 110
第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第50話

しおりを挟む
 クロエとヒフミの会食の日から時は過ぎ一週間後。クロエたちの姿は戦技大会会場のコロッセオにあった。そのそばにはミーズ工房の三兄弟の姿もある。
 今日は国でも有数のイベントと言うこともあり、この会場付近は多くの人であふれかえっていた。その多くはこの蒸奇装甲スチームアーマーの戦技大会の観戦者であろう。その表情は皆一様にどこか興奮がうかがえるものであった。

「さて……いよいよこの日がやってきましたね。」

 クロエが隠し切れない緊張をにじませる声で呟いた。額から汗を垂らしそのガチガチに固くなった表情はみていてどこか滑稽にすら感じてしまう。
 するとその緊張を感じ取ったのか、隣に立つサラがクロエの手を取って元気づけるように笑いながら言った。

「心配ありませんわ。これまでの練習もばっちりですし、なによりこれまでの予選も問題なく通過してきたじゃありませんの。クロエさんに敵なしですわ。」
「そ、そんなことないですよ……」

 サラの言葉に謙遜をするクロエ。だが、ミーズ工房の三兄弟長男、ゲンノウがその言葉を否定する。

「何言ってるんだ、嬢ちゃん! 嬢ちゃんの操縦っぷりは、それはもう凄いもんだったぜ! まるで儂らの作った蒸奇装甲スチームアーマーは元々嬢ちゃん用にできているかのように錯覚しちまったほどだ!」
「おうよ、兄貴の言うとおりだ! 嬢ちゃんの操作能力もそうだが、戦闘能力もすげえぜ! 儂らの作った蒸奇装甲(スチームアーマー)の性能を十二分に発揮しとるわ!」

 ゲンノウの言葉に次男のカケヤが言葉を重ねる。三男のサシガネも心配ないとばかりに笑っていた。三人は性能テストも含めこれまでの予選のクロエの動きを見て、その操縦に全幅の信頼を置いていた。
 それぞれから心配ないと声をかけられてクロエの心にもようやく安心が満ちる。緊張がすこしほぐれたその時、近くの拡声器から選手団体の入場を促すアナウンスが流れた。

「さぁ、皆さま。選手控えスペースに向かいましょう。このままでは不戦敗となってしまいますよ。」

 ミーナの促しによってクロエたちは思い出したかのように歩みを再開させた。試合開始の時は近い。










『さぁ~、今年もやってまいりました! ガンク・ダンプでも有数のお祭り騒ぎ! 第二百八十三回戦技大会です! 会場にお越しの皆さま、盛り上がってますか~!?』

 拡声器から流れる呼びかけに、コロッセオに集まったガンク・ダンプの民衆は歓喜の声を上げた。膨大な人数を収容できるはずのコロッセオの観客席は超満員の様相を呈しており、その人数は席では足りず立ち見も発生し、終いには会場外に特設の観覧席すら設けられる事態にまで発生した。場外特設観覧会場には射影器の原理を応用した日本で言うところの巨大モニターが設置され、観客は直接ではないにしろその様子を見ることができる。
 観客らの溢れんばかりの歓声を受け、先ほど呼びかけをかけた年若い人類種であろう女性が満足げに頷いて話し出した。

『う~ん、素晴らしいですね! 今年も満員御礼、ありがとうございます! 皆様のあついご支援のおかげで、今年もこの戦技大会を開催することができました! 今年の司会進行は私、ガンク・ダンプ国営放送局所属のアリシアが務めさせていただきます! そして、解説としてこちら! 蒸奇装甲スチームアーマーの専門家であるガイゼル博士にお越しいただきました! 博士、よろしくお願いします!』
『よろしくお願いします。今年も例年に劣らない、いや、例年を凌ぐであろう猛者が集まりました。これからその戦いを見れるかと思うと、とてもうれしいです。』
『ありがとうございました! えー、では博士。まだまだ試合開始まで時間もありますので、もはや説明はいらないかと思いますけど蒸奇装甲スチームアーマーに関しての説明をいただけますか?』
『分かりました。では、会場の皆さまはモニターをご覧ください。会場外の皆さまはそのまま画面をご覧ください。』

 解説のガイゼル博士がそう言うと、コロッセオに設置された巨大モニターに映像が映った。会場の皆の視線がそこに集中する。

『えー、まず蒸奇装甲スチームアーマーの起源ですが、その理論自体は数百年前から唱えられていました。それは我々がその恩恵をうける技術、蒸奇スチームパンクと同時とも言われています。力の弱い人類種の女性であったり、体格の小さな亜人種のハンデを克服する。もしくは元々強大な力を持つ種のその優位性を伸長するであろうこの技術は、ガンク・ダンプにおいて長年その開発を進められてきたものだったのです。』
「へぇ……そうなんですのね。」

 解説の説明にそう声を漏らすものがいた。会場の最前列、関係者専用に設けられた特別席に座る金髪のエルフ、サラである。その隣にはミーナが、逆の隣にはガンク・ダンプギルドマスターのオトミが座っていた。

「なんだい、アイツらから説明を受けなかったのかい?」

 サラのこぼした声にオトミが反応した。サラはオトミの反応に言葉を返す。

「え、ええ。蒸奇装甲スチームアーマーがどのような物かは聞きましたけど、その歴史などは聞く機会がなくて……」
「まぁ、仕方ないかね。さっき解説の博士が言った通り、蒸奇装甲スチームアーマーのその理論自体はかなり昔から唱えられてきたんさ。それが実現すれば国民の生活と言った点ではもとより、なにより軍事的な面での活躍は想像に難くない。国が先導して積極的に開発を進めた蒸奇装甲スチームアーマーは、それ自体はすぐに完成した。だけど、それは一般的に広まらず、かつ成功とは言い難いものだった。何故だかわかるかい?」
「え? そ、それは……」

 突然の質問にサラが戸惑ったように考え込む。蒸奇装甲スチームアーマー自体は完成したのにそれが広まらず成功とされなかった理由。国外出身のサラには思いもよらないものだった。
 だが、そのサラの隣。オトミとは逆隣りから正解が告げられた。

「利便性、もしくは携帯性の問題ですね?」
「すごいじゃないか! その通りさね。」
「え? り、利便性……ですの?」

 ミーナの正解にサラが再び疑問を上げる。その様子にミーナが解説を入れた。

「お嬢様、このガンク・ダンプは横に広く走った谷の中に存在する国です。いくら広大な谷とは言え、その敷地面積は限られています。お嬢様もご覧になったでしょう? この国は縦に大きい建築物が多かったはずです。」
「あ……確かにそうでしたわ。」

 入国の際、この国へ降りるときに見た光景を思い出すサラ。この国は建物が密集し、その行き場を求めるかのように上へ上へと建物が伸びていた。

「建築物が密集し道も広くないこの国において、携帯性や利便性は最重要課題なのでしょう。いくら蒸奇装甲スチームアーマーが重たい荷物を持ち上げることができても、その荷物のある場所までたどり着けなければ無駄ですから。」
「その通り。軍関係の話でだって、いくら蒸奇装甲スチームアーマーが良い兵器だとしても、それを国の外に出せないんじゃあ、無用の長物さ。そう言った難点もあって蒸奇装甲スチームアーマー開発は一時凍結されていたのさ。その技術は義手などの方面に転用されて、この国の発展に寄与したがね。だが、とある転機が訪れた。つい数百年前、とある技術が開発された。それこそ、蒸奇装甲スチームアーマーの異空間収納技術さ。」
「な、なんですの、それは?」

 オトミの言葉にサラが疑問の声を上げる。

「言葉通りさね。蒸奇装甲スチームアーマーを普段は異空間に収納し、必要な時にだけ取り出し展開する技術の事さ。数百年前に発見されたと言われるこの技術は今までの蒸奇装甲スチームアーマーの問題点を根本から解決するものだった。それからの発展はあっという間だったさね。すぐに蒸奇装甲スチームアーマーはこの国でも一般的なものとなり、国民の生活や軍事面でも外すことのできないものとなった。噂では、とある旅人がこの技術の原理を教えたとも言われているが……真偽のほどは闇さね。」

 オトミがちらっとミーナを見てそう言った。オトミの言葉を受けたサラはその視線に気が付かないものの、とある考えを巡らせる。

蒸奇装甲スチームアーマーの収納技術……どこかで似たようなものを見たことがある気がしますわ。本当にそう、私の身近で……)

「……お嬢様、日差しが強くなってきました。どうぞこちらを。」
「へ? あぁ、申し訳ないですわ、ミーナ。」

 ミーナがそう言って日傘をサラに手渡した。その日傘はさっきまでどこにもなかったものであるが、サラはそれに一切の疑問を覚えない。ミーナの収納魔法【パンドラ】によって亜空間から取り出されたものだと知っているからだ。

(分かりませんわ……一体どこで……?)

 サラの煩悶を知ってか知らずか、オトミがやれやれと言った様子で首を振って会場に視線を戻した。丁度会場の方でも蒸奇装甲スチームアーマーの説明が終わったのか、解説と司会の二人が会話をしている。

『なーるほど、よくわかりました! こうして改めて聞いてみると意外と知らないことも多いのですね……おっと! さてさて皆さま! そうこうしている内に戦技大会開幕の時間になってしまいました! では、改めまして。第二百八十三回戦技大会を開催します!!』

 司会の言葉に、会場内は再び歓声を上げた。そのボルテージは止まるところを知らない。
 今、ガンク・ダンプ史上一番長い日が始まる。


 ―続く―
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...