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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ
第62話
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「さぁ、行きましょうか。お嬢様。」
「無論ですわ、エルフの心意気見せる時ですわよ!」
サラとミーナが先陣を切って飛び出した。サラは崖伝いに高所へ陣取り、ミーナはその巨体を支える足元を目指す。
一方、呆けていたために一歩遅れたルウガルーも我に返り、グラン・ガラドヴルムへ攻撃を仕掛けようとしていた。
だが、そこへヒフミからの声がかかる。
「待て、ルウ!」
「は、はっ! 何でありますか?」
出鼻をくじかれたように体勢を崩しかけるも、そこは軍人らしくすぐに体勢を整え敬礼に構えるルウガルー。その直立不動の姿にとある言葉がかけられた。
「特殊兵装の使用を許可する。思いっきり暴れてこい!」
「――ッ! はっ! ありがたき幸せであります!!」
それだけ答えるとルウガルーは再び走り出した。その謎のやり取りにクロエが疑問を上げる。
「ねぇ、ヒフミさん。さっきの特殊兵装って何のこと?」
「見ていれば分かるさ。なに、お前が大会で見たであろう蒸奇装甲はほんの小手先だったってだけだ。」
妙に自信ありげなヒフミの言葉に、疑問が解消されず不満げながらもとりあえず戦闘に向かった三人を見るクロエだった。
「さて、まずはこれでどうですか……!?」
収納魔法【パンドラ】を展開し、亜空間より巨大なハンマーを取り出すミーナ。今取り出したそれは普段彼女が使うそれの倍はあろうかと言う超巨大な物だった。もはや人力で持ち上げることは不可能に見えるそれを、ミーナは両手で持ち上げる。そしてダッシュの加速をそのままに、スラスターの加速も加わった打撃エネルギーをグラン・ガラドヴルムの右足に叩きこんだ。
「――ッ!? クッ……!」
まるで岩石を叩いたかのような硬質な音が反響するほどに響き渡った。しかし、およそ家屋を軽く倒壊せしめる程の打撃を見舞ったにもかかわらず、その巨竜の足には傷一つ見当たらなかった。
「恐ろしい硬度ですね……!」
恐らく振動が直に伝わったのだろう。少し顔をしかめながら片手をプラプラと振っている。
「ならば、これはどうですの!?」
ミーナの頭上より聞こえたその声はサラの物であった。サラは岸壁に突き出した小さな足場に陣取り、精神を集中させるように目を閉じて両手を前に突き出している。
「参りますわ、【疾風大魔法】!!」
サラの両手に魔力が集まる。その魔力がサラの詠唱と共に前面へ向かって放出された。まっすぐに射出された極太の魔力レーザーは、寸分たがわぬ狙いで敵の頭へ着弾する。そして、荒れ狂う疾風を伴う大爆発を起こした。属性魔法の中でも大魔法に分類される上級魔法、【疾風大魔法】だ。使える者は極大魔法より多いもののそれでも限られており、サラでさえ数発が限界の奥の手である。
魔力を感知して距離をとっていたミーナが緊張の面持ちで様子を伺う。サラも同じように敵の様子を伺っていた。着弾点は風と爆風で巻き上げたれた砂煙で様子を窺い知ることができない。だが、遥か後方に見えるその巨体は動きを止めていた。何かしらの効果があるのかと二人が見つめる中、突如吹き抜けた風が粉塵を攫っていった。
「そ、そんな……!」
サラが信じられないと言うように声を上げた。取り除かれた粉塵のそこ、そこには傷すら見られないグラン・ガラドヴルムの姿があった。表面のコケやゴミなどが取り除かれ甲殻もいくらか吹き飛んだようだが、本体にはダメージが通っていないようだ。爆風に驚いて動きを止めていたようだが、すぐに何事もなかったように動き出した。
「大魔法ですら少しの足止めですか……」
ミーナが辟易したように呟いた。その時、後方から走ってくる人影が現れる。二人がそちらに振り向くと、そこにはこちらへ走り寄ってくるルウガルーの姿があった。
「お二人とも、お待たせしたであります!」
そう声を上げて二人の下へたどり着いたルウガルーは、そのまま止まることなく敵の下へ駆けていく。そして、走りながら蒸奇装甲(スチームアーマー)の起動を行った。
「特殊兵装『ヴェルトロ』、全面展開ッ!!」
ルウガルーの声がパスコードとなって、背後に亜空間が開かれる。走るルウガルーの動きはそのままに、彼女の身体をまるで取り込むかのように蒸奇装甲が展開された。
それは、まるで機械で出来た白銀の人狼のような外観だった。全長二メートルはあるだろう。背部のスラスターを展開させて加速する人狼はそのままグラン・ガラドヴルムの顎下に潜り込むと、右こぶしを握りこみ、肘から出たスラスターの加速力の推進力を加えたアッパーカットを炸裂させた。
拳が比較的柔らかい顎下にめり込むと、拳の先端部分から魔力砲が射出される。魔力による爆発だ。これは流石の巨竜であっても痛みを感じるようだ。長い首を持ち上げ顔を退避させる。
「今であります!!」
振り向いたルウガルーがミーナとサラの方へ声を上げた。ルウガルーが言い終わるころにはすでに二人は行動を開始させている。サラは弓を構え特大の風の矢を発射、ミーナは巨大な槍を取り出すと力をためてそれを投擲した。
放たれた二撃はまっすぐな軌跡を描きながら顔を上げて無防備になった巨竜の腹部に突き刺さった。動くためには柔らかい部分が必要なのだろう、固い甲殻に覆われていない腹部に矢と槍が深々と突き刺さった。
――グォォォオオオオオ……!!
顔を持ち上げたためか、遥か頭上で聞こえるその咆哮は明らかに苦しげなものだった。初めて与えられた明確なダメージにその場の三人の心に光がともる。
「奴の甲殻は長年の休眠などを経て硬い岩盤のそれとなっているであります。先ほどのように何とかして腹部にダメージを与えるでありますよ!」
再び地に降り立つ巨体を避けるために退避したルウガルーがミーナとサラへ向かって語った。二人は声もなく頷くと改めて巨竜へと視線を向ける。
相対するその巨体は、まるで本当の山のようだ。普通なら戦おうとする気持ちすら起きないだろう。だが、三人は知っている。この巨竜とて一つの生き物なのだ。ならば殺せないはずがない。
それぞれの武器を構え三人はあまりにも無謀に思える戦いに身を投じるのだった。
―続く―
「無論ですわ、エルフの心意気見せる時ですわよ!」
サラとミーナが先陣を切って飛び出した。サラは崖伝いに高所へ陣取り、ミーナはその巨体を支える足元を目指す。
一方、呆けていたために一歩遅れたルウガルーも我に返り、グラン・ガラドヴルムへ攻撃を仕掛けようとしていた。
だが、そこへヒフミからの声がかかる。
「待て、ルウ!」
「は、はっ! 何でありますか?」
出鼻をくじかれたように体勢を崩しかけるも、そこは軍人らしくすぐに体勢を整え敬礼に構えるルウガルー。その直立不動の姿にとある言葉がかけられた。
「特殊兵装の使用を許可する。思いっきり暴れてこい!」
「――ッ! はっ! ありがたき幸せであります!!」
それだけ答えるとルウガルーは再び走り出した。その謎のやり取りにクロエが疑問を上げる。
「ねぇ、ヒフミさん。さっきの特殊兵装って何のこと?」
「見ていれば分かるさ。なに、お前が大会で見たであろう蒸奇装甲はほんの小手先だったってだけだ。」
妙に自信ありげなヒフミの言葉に、疑問が解消されず不満げながらもとりあえず戦闘に向かった三人を見るクロエだった。
「さて、まずはこれでどうですか……!?」
収納魔法【パンドラ】を展開し、亜空間より巨大なハンマーを取り出すミーナ。今取り出したそれは普段彼女が使うそれの倍はあろうかと言う超巨大な物だった。もはや人力で持ち上げることは不可能に見えるそれを、ミーナは両手で持ち上げる。そしてダッシュの加速をそのままに、スラスターの加速も加わった打撃エネルギーをグラン・ガラドヴルムの右足に叩きこんだ。
「――ッ!? クッ……!」
まるで岩石を叩いたかのような硬質な音が反響するほどに響き渡った。しかし、およそ家屋を軽く倒壊せしめる程の打撃を見舞ったにもかかわらず、その巨竜の足には傷一つ見当たらなかった。
「恐ろしい硬度ですね……!」
恐らく振動が直に伝わったのだろう。少し顔をしかめながら片手をプラプラと振っている。
「ならば、これはどうですの!?」
ミーナの頭上より聞こえたその声はサラの物であった。サラは岸壁に突き出した小さな足場に陣取り、精神を集中させるように目を閉じて両手を前に突き出している。
「参りますわ、【疾風大魔法】!!」
サラの両手に魔力が集まる。その魔力がサラの詠唱と共に前面へ向かって放出された。まっすぐに射出された極太の魔力レーザーは、寸分たがわぬ狙いで敵の頭へ着弾する。そして、荒れ狂う疾風を伴う大爆発を起こした。属性魔法の中でも大魔法に分類される上級魔法、【疾風大魔法】だ。使える者は極大魔法より多いもののそれでも限られており、サラでさえ数発が限界の奥の手である。
魔力を感知して距離をとっていたミーナが緊張の面持ちで様子を伺う。サラも同じように敵の様子を伺っていた。着弾点は風と爆風で巻き上げたれた砂煙で様子を窺い知ることができない。だが、遥か後方に見えるその巨体は動きを止めていた。何かしらの効果があるのかと二人が見つめる中、突如吹き抜けた風が粉塵を攫っていった。
「そ、そんな……!」
サラが信じられないと言うように声を上げた。取り除かれた粉塵のそこ、そこには傷すら見られないグラン・ガラドヴルムの姿があった。表面のコケやゴミなどが取り除かれ甲殻もいくらか吹き飛んだようだが、本体にはダメージが通っていないようだ。爆風に驚いて動きを止めていたようだが、すぐに何事もなかったように動き出した。
「大魔法ですら少しの足止めですか……」
ミーナが辟易したように呟いた。その時、後方から走ってくる人影が現れる。二人がそちらに振り向くと、そこにはこちらへ走り寄ってくるルウガルーの姿があった。
「お二人とも、お待たせしたであります!」
そう声を上げて二人の下へたどり着いたルウガルーは、そのまま止まることなく敵の下へ駆けていく。そして、走りながら蒸奇装甲(スチームアーマー)の起動を行った。
「特殊兵装『ヴェルトロ』、全面展開ッ!!」
ルウガルーの声がパスコードとなって、背後に亜空間が開かれる。走るルウガルーの動きはそのままに、彼女の身体をまるで取り込むかのように蒸奇装甲が展開された。
それは、まるで機械で出来た白銀の人狼のような外観だった。全長二メートルはあるだろう。背部のスラスターを展開させて加速する人狼はそのままグラン・ガラドヴルムの顎下に潜り込むと、右こぶしを握りこみ、肘から出たスラスターの加速力の推進力を加えたアッパーカットを炸裂させた。
拳が比較的柔らかい顎下にめり込むと、拳の先端部分から魔力砲が射出される。魔力による爆発だ。これは流石の巨竜であっても痛みを感じるようだ。長い首を持ち上げ顔を退避させる。
「今であります!!」
振り向いたルウガルーがミーナとサラの方へ声を上げた。ルウガルーが言い終わるころにはすでに二人は行動を開始させている。サラは弓を構え特大の風の矢を発射、ミーナは巨大な槍を取り出すと力をためてそれを投擲した。
放たれた二撃はまっすぐな軌跡を描きながら顔を上げて無防備になった巨竜の腹部に突き刺さった。動くためには柔らかい部分が必要なのだろう、固い甲殻に覆われていない腹部に矢と槍が深々と突き刺さった。
――グォォォオオオオオ……!!
顔を持ち上げたためか、遥か頭上で聞こえるその咆哮は明らかに苦しげなものだった。初めて与えられた明確なダメージにその場の三人の心に光がともる。
「奴の甲殻は長年の休眠などを経て硬い岩盤のそれとなっているであります。先ほどのように何とかして腹部にダメージを与えるでありますよ!」
再び地に降り立つ巨体を避けるために退避したルウガルーがミーナとサラへ向かって語った。二人は声もなく頷くと改めて巨竜へと視線を向ける。
相対するその巨体は、まるで本当の山のようだ。普通なら戦おうとする気持ちすら起きないだろう。だが、三人は知っている。この巨竜とて一つの生き物なのだ。ならば殺せないはずがない。
それぞれの武器を構え三人はあまりにも無謀に思える戦いに身を投じるのだった。
―続く―
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