白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第63話

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「よっと……ここまでくれば大丈夫かな。」

 ヒフミを抱きかかえていたクロエは彼女を岸壁の上に下ろしてそう呟いた。満身創痍の状態で立ち上がった彼女だったが、流石にそのまま戦うことは出来なかったようだ。戦おうとはしていたのだが、フラフラの状態を見たクロエが有無を言わさないうちに抱きかかえてここまで連れてきたのだ。

「クッ……情けない、あれだけ大見得切っておいて戦うことができないだなんて……」
「いや、立ち上がっただけでも驚きだよ。無茶しないで。ここはゲームとかの世界じゃないんだから。死んだら終わりだよ。」

 クロエが少し責めるような口調でヒフミに向かってそう言った。その言葉にヒフミは耳が痛いのか目をそらしていた。

「分かっているさ……だが、ここまで私たちの部隊を壊滅させてもらったんだ。一太刀ぐらい入れねば帰るに帰れんよ。」
「……そう、そうだよ。そもそも何でこんなピンチになっているのさ? ルウさんに聞いたけど、入念に準備や作戦は立てたんでしょ? それにしてはあの逸脱種フリンジ、元気過ぎない?」

 クロエが下方の巨竜を見つめる。頭はだいぶ下の位置にあるが、その背中、胴体はクロエたちとあまり変わらない場所にある。体長だけでなくその高さもまた凄まじいものだった。

「何で、か……それはむしろ私たちの方が聞きたいぐらいだがな……だが、一つ言えるとするなら、『全てが想定外だった』……これに尽きるだろうな。」
「想定外……?」

 クロエが聞き返した。その言葉が届いたかどうかわからないが、ヒフミは握りしめた右拳をドンッと地に叩きつけると悔しそうな声を絞り出すように吐き出した。

「あぁ、想定外だ……! アイツの甲殻の硬さもその大きさも、何もかもだ!! 私たちの持ち込んだ兵器はほとんど通用しない……通じた物があったとしても、アイツにとってみれば蚊が刺した程度にしか感じないんだろう。効果は無しだ……物資も尽きて、もはや打つ手なしと撤退指示だ。私も殿を務めていたが、この様だ……」

 心の底から悔しそうな声を漏らしてそう語ったヒフミ。その様子にかける言葉が見つからないのか、クロエはただ黙ってヒフミを見つめていた。
 その時、グラン・ガラドヴルムが何度目かの咆哮を上げた。恐らく顔への集中砲火を避けるのだろう。首を上にあげ轟くような声を上げる。するとその咆哮が響いたのか、周りの岸壁から大きな岩が揺れ、そしてそのまま落下していった。地上で戦う三人はそれに気が付くと急いで岩を避けていた。

「……でも、あの三人の戦いを見てると、何だかこのままでも勝てそうな気がするけど……」

 ポツリとクロエがそう呟いた。地上の三人は上手く連携を取りつつ巨竜の隙を逃さず攻撃している。巨竜もその攻撃にしっかり反応を返していた。一見するとしっかりと戦いになっているように見える。
 だが、ヒフミはその様子を一瞥すると、フルフルと力なさげに首を振った。

「いや……あれでは意味がない。私たちの部隊だって無能じゃないんだ。ルウと同じことだって考えたし、実際ああして足止めはしていた。だが、それだけじゃあ意味がないんだ。アイツに致命傷を与えて、その命を確実に刈らなくてはただの足止めだ……現地点でアイツがまだこの地点にいるのは、偏に私たちの足止めの成果だろうな……」

 自嘲するように軽く笑いながらそう言ったヒフミ。その言葉にクロエが考え込むように腕を組んだ。確かに三人の攻撃は確かにあの巨竜へ届いている。しかし、そのダメージはほとんど無いに等しいのだろう。人間が周囲を飛び回るハエに反応するようなもので、気にはなるがダメージはない。あの巨竜がその気になれば三人の攻撃など無視して進むことだってできるのだ。

(どうする……? ゲームみたいに時間制限があるわけじゃないし、このままだと無駄に時間を消費するだけだ。生き物の弱点は目だって言うけど、アイツには無いし……音にしてもあの巨体をひるませる爆音なんて無い……一体どうすれば……あ、そういえば)

 クロエが何か気が付いたように顔を上げた。そしてそのままヒフミに尋ねる。

「ねぇ、ヒフミさん。少し聞きたいんだけど……」
「なんだ?」

 ヒフミがクロエを見上げる。見上げた視線の先、そこにあるクロエの表情はこの局面にあっても、一切のあきらめを見せない力強いものだった。

(一体……いつの間にここまで強くなったんだ、クロエは……? 体は少女の物になったのに、中身はすっかり頼もしくなったな……)

「さっき話の中で、『持ち込んだ兵器はほとんど通用しない』って言ってたよね? つまり、いくつかは効果があったってことでしょ?」
「あ、あぁ……その通りだ。ほとんどの銃弾や爆弾はアイツの甲殻の前に敗れていったが、唯一、私の生みだした白剛石アダマントだけはアイツの甲殻を断ち切ることができた。」
「なら、それを……!」

 クロエはそう言いかけたが、すぐに口を噤んだ。実際に効果があったのなら今頃このような状況にはなってはいなかっただろう。それに途中で気が付いたクロエは続く言葉を飲み込んだのだった。

「……お察しの通りだ。確かにアイツの甲殻にダメージは通ったが、それだけだ。いくら効果があろうと、それは所詮人間サイズだ。アイツに致命傷を与えることなどできん。それに、私の魔力量だと精々大きな剣を生みだすことぐらいしかできん。それも一分程度が限界だな。」
「そっか……」

 そう言うとクロエは再び黙ってしまった。傍から見るヒフミは訳が分からないと言った様子でただただクロエを見つめていた。
 少しの沈黙の後、不意にクロエは自身の背後から影を展開させ、それをはるか頭上、天高くに伸ばした。まっすぐに立ち上がるそれは、何の変哲もないただのまっすぐな柱のようだった。ずんずんと伸びるそれはあっという間にその先がかすんでしまう。

(な、何をしているんだ……?)

 ついついその伸びる軌跡に目をつられ空を見上げていたヒフミだが、眺めていてもまったくその真意は見えてこない。隣に立つクロエに視線を戻すと、何故だかクロエは満足そうに頷いていた。
 そしてクロエは先ほど同じように突然パッと影を消した。まるで霧が晴れるように霧散した影はあっという間に消えてなくなってしまう。そしてこちらを眺めていたヒフミへ視線を向けると、いいことを思いついたと言わんばかりの目で語るのだった。

「……ヒフミさん、ボクにいい作戦があるんだ。」

―続く―
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