白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第四章:犠牲の国・ポルタ

第80話

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 所変わって同時刻の、中央区画外れのカフェである。国の中心に構える王宮が見える、中心部からさほど離れていない閑静なカフェの一階で、サラとミーナは注文した料理を食べ終わり食後のお茶を飲んでいた。飲んでいるのはこの国で栽培されたハーブを使ったハーブティーである。爽やかな風味が鼻孔を抜け、さっぱりとした心地をもたらしてくれる。

「そう言えば、ミーナ。少し聞きたいのですけど……」
「はい、いかがなさいましたか?」

 カップを机に置いたサラが、ふと思い出したように声を上げた。尋ねられたミーナもカップを置いて答える。サラが机の上のクッキーを手にしながら言葉を続けた。

「実は先ほど出会ったエリザベート、もといエリーさんとの話の中で『宝珠武器』と言う物を見せてもらいましたの。それについて、何か知っています?」

 サクサクとクッキーをかじるサラ。それを見ながらミーナは「おや?」と言うような表情でもってサラを見返した。

「お嬢様、ご存じないのですか?」
「ええ、初めて聞きましたわ。」
「お嬢様の持つ『森林の旋風ボワ・トゥルビヨン』は、無響状態とは言え立派な宝珠武器なんですよ?」
「え、そうでしたの?」
「……そう言えば、説明しておりませんでしたね。郷では説明の必要もありませんでしたから。」

 そう言うとミーナはカップを手に取り一口、ハーブティーを口に含んだ。そして少し考えた後に口を開く。

「まず、順番に説明いたしましょう。まずは『宝珠』。宝珠とは魔結晶のような物です。しかしその魔力含有量や純度、密度は魔結晶とは比ぶべくもありません。とても稀少で、自然界の中で途方もない時間をかけて生みだされる、まさに宝の珠《たま》であるわけです。」
「へぇ……これがそんな……」

 サラが腰のポーチから自身の宝珠を取り出し机の上で眺めた。室内に灯されたランプの光を受けた宝珠、「森林の旋風ボワ・トゥルビヨン」は深緑の輝きを二人の瞳へ届ける。
 サラにとって見慣れたその宝珠は、あまりに当たり前なものだった。そのせいか少しばかり弄ぶかのように、右手の中でくるくると回している。そんなサラにミーナは驚愕の言葉を投げかけるのだった。

「……因みにですが、もし宝珠をしかるべき場所で売った場合、その売却額は三代に渡って遊んで暮らせるほどだとか。」
「――ッ!!?」

 ミーナのその言葉にサラは心の底から驚いたようだ。声にならない声を上げ、思わず宝珠を取り落としてしまう。机に落ちる寸前、サラが恐らくその長い生涯でこれ以上はないだろうと言う速度で宝珠をキャッチした。荒い息に必死の表情である。間一髪キャッチに成功したサラは、そのまま荒い息を収めようと机に突っ伏した。無論その間も宝珠はしっかりと両手で握りしめられている。

「おぉ、お見事。」
「おお……お見事じゃありませんわっ!! そ、そんなに高価なんですの、これ……!?」

 サラが顔を上げミーナに向かって声を上げる。そしてその両手に持った宝珠へ信じられないと言った視線を向けた。思わず両手が震えてしまっている。
 ミーナはサラのその様子を楽しげに見ていた。表情だけは相変わらずの表情ではあったが。

(わかりますわ……あの顔、あれは私をからかって楽しんでいる顔ですわ……!)

 恨めし気な表情でミーナを見つめるサラ。その表情にそろそろ引き際と判断したのか、ミーナはここでサラをからかう事を止める。

「ご安心ください。実際のところ、宝珠はその稀少さ故に買取を行う個人などまずおりません。現存する宝珠はそのほぼすべての所有者が判明しておりますので、盗難・強奪の類で売りに出されればすぐにバレますから。」
「そ、そうなんですの? ではこれも……?」
「ええ、無論です。エルフ族にある二つある宝珠のうちの一つとして広く知られております。一つはお嬢様の『森林の旋風ボワ・トゥルビヨン』、もう一つは大長老様のもつ鳴動状態にある『大樹の智慧』ですね。」

 ミーナの口からエルフの郷の大長老、サーシャ・エルゼアリスの名前が発せられた。その名前にサラが反応する。

「お母様の持つあの長杖ですわね。確かに先端に宝石が取り付けられていましたけど、まさかあれが宝珠武器だったとは……」
「宝珠や宝珠武器は取り扱うにもそれ相応の実力が伴います。以上の理由から盗難などの不安はまず無いですね。それに宝珠は魔結晶以上の強度を持ちますので、落とした程度では傷一つ付きませんよ。今までも傷がついたことがないのでは?」
「確かに……思い返せばそうですわね。」

 サラが初めてこの宝珠を持たされた時の事を思い出す。エルフの郷では生まれて百年以上経つと成人として扱われる。「森林の旋風ボワ・トゥルビヨン」はその成人祝いとしてサラが母である大長老のサーシャからもらった物なのだ。
 サラが宝珠を手にしてから決して短くない時間が経っているが、その間で思い返しても宝珠に傷がついた覚えはなかった。どうやらサラはようやく安心したようで、「フゥ……」と短く一息ついていた。

「まぁ……納得は出来ませんけど理解はしましたわ。それで、宝珠武器とは何ですの? あと先ほどから流していましたけど、『無響』とか『鳴動』とかも何のことですの?」
「宝珠武器とは、簡単に言えば宝珠を武器の形に収めた物です。お嬢様の持つ宝珠原石のままの状態を『無響』、武器化し宝珠武器として制御されている状態を『鳴動』状態と呼びます。」
「制御、ですの?」

 サラが聞きなれない言葉に首を傾げた。そして机の上のクッキーに再び手を伸ばす。それを見たミーナはカフェの店員に声をかけ、新しいハーブティーを注文した。

「その通り、制御です。宝珠はその内蔵される魔力の量故に、無加工では鳴動状態にできません。それを加工して武器の形に収め、私たちでも扱えるように言わば『抑制制御《デチューン》』するのです。」
「そうでしたの。……でも、ならば何故私の『森林の旋風ボワ・トゥルビヨン』は、その、無響? 状態のままですの? もっと早く言ってくれればこれまでの国で加工などお願いしましたのに。」

 サラが新たな疑問を発した。その疑問は良い得て妙である。彼女たちはこれまでエルフの国を出て、二つの国に立ち寄ってきた。いずれの国も腕利きの鍛冶職人や加工屋が揃っており、世界基準で見ても決して見劣りしないレベルの筈である。
 しかしミーナは運ばれてきたハーブティーを受け取り、それをサラのカップへ注ぎながら否定の言葉を発した。

「それは出来ません。」
「何故ですの?」
「いくつか理由は挙げられますが、一番大きな理由は宝珠の加工をできる職人がこれまでの国にいなかったという事です。そもそも、宝珠の加工は専門知識を要し、更には熟練の技術をも必要とするものです。もし加工に失敗したら、その時は宝珠が失われるばかりか宝珠の魔力が暴走、周囲一帯を壊滅させてしまうのです。……過去に一度、知識のないものが加工に挑戦して失敗した例がありましたが、その時は国が丸ごと更地になったとか。」

 ミーナの言葉に、サラは思わず絶句してしまった。自身の持つこの手のひら大の球体が、よもや国一つ滅ぼしかねない危険を孕む物だとは。思いもよらぬ事実に、急に少し空恐ろしさを感じてしまう。

「ですので、宝珠の加工が許可されているのは万が一失敗したとしても被害を最小限に抑えられる設備をそろえた大国。そして、かの勇者パーティーの一員であった伝説の錬金術師の弟子と言われる三人の職人のみなのです。」
「つまり、今までの国にはその職人がいなかった訳ですのね? だから加工をしたくとも出来なかった、と。」
「仰る通りです。本来なら私ももう少し黙っておくつもりでしたが、まぁここまで来れば問題ないでしょう。なにせ、次に訪れるはずだったギルド本部のあるセントラルには、宝珠の加工が行える工房があるのですから。」

 ミーナが口にしたのは、ガンク・ダンプを出てからの本来の目的地であったギルド本部、それが置かれている世界でも最大クラスの超国家「セントラル」の名前であった。閉鎖的なエルフの郷においても知られるその国は、かつて世界を治めていた七大魔王「大罪《ペッカータ》」の一人が統治する国である。魔王を憎む一部エルフにとってその国は、否が応でも知っている物なのだ。
 しかしここにいるミーナとサラはその意識が薄いばかりか殆ど無い二人である。その名前に忌避感はなかった。

「なるほど、ではその国へ到着してから私に宝珠の事実を伝えるつもりだったのですわね。しかし、私が予期せずその事実を知ってしまったと。」
「仰る通りでございます。と言う訳で、たとえこの国の工房であっても加工は出来ませんのでご容赦ください。」
「別に、あなたが謝ることではないですわ。それよりも、クロエさんが帰ってくる前に物資の調達などの用事を済ませましょう? この国ではゆっくりと休んで、次のセントラルへ向かいたいですわ。」
「そうですね。では、向かいましょうか。」

 サラとミーナは立ち上がり、サラは出口へ、ミーナはカウンターで清算を行う。そしてカフェを出た二人は、きれいに整備された石畳の道を歩き始めた。目指すはすぐそこの商店街である。

 ―続く―
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