白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第四章:犠牲の国・ポルタ

第83話

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 エリーの突然の言葉にサラとミーナは出鼻をくじかれる思いを得た。まるで前につんのめるかのような錯覚の後、何とか立て直したミーナがエリーにその真意を問う。

「エリー様、私たちはここで待機とは一体……?」
「そのままの意味よ。アンタ達が出向くまでもないわ。アタシ一人でこの国中くらい、探し切ってあげる。」

 まるで正気とは思えないその口ぶりだが、何故かエリーは自信満々である。その様子からは出来て当然と言わんばかりに、言外に漂う自信が満ちていた。

「そ、そんな……不可能ですわ! 私たちに気を使っているのでしたら、それは無用です。私たちだってそれなりに動けますのよ?」
「いくら動けたって二人や三人なら限度があるでしょ? でも、アタシなら可能なのよねぇ~。」

 自身満々な態度を崩さないエリーは、その得意げな表情のまま部屋に唯一誂えられた窓に近づくと大きく窓を開け放った。開け放たれた窓からは、夜の乾燥した少し冷たい風が入ってくる。丁度夜は雲も晴れ渡り、ぽっかりと穴が開いたような夜空に煌々と光る月が上っていた。
 窓を開け放ったエリーはくるりとターン。サラとミーナの方へ振り返ると右手を自身の顔位の高さへ持ち上げ、中指と親指を合わせ大きなパチンと言う音を立てた。
 すると、何という事だろう。エリーの身体が一瞬真っ黒になったかと思うと、次の瞬間にはまるで風船が割れるかのように弾けたのだ。弾けたエリーの残骸は散り散りに飛び散り、その一つ一つの小さな欠片がとある形となって意思をもって飛び立った。
 それは蝙蝠だった。標準ぐらいの大きさの蝙蝠はその数をおよそ百匹以上にまで増やし、開け放たれた窓から蝙蝠特有の羽音を立てて一斉に飛び去って行った。突然の出来事に呆気にとられるしかなかったサラとミーナは、ポカンと口を開けて目の前のとんでもショーに目を奪われていた。
 ふと驚きに満たされていた二人の前に、飛び去った蝙蝠たちよりも一回り程大き目な蝙蝠がバサバサと近寄ってきた。二人が無言で注目する中、その蝙蝠は器用に机の上に着地すると、二人の方向を見上げ話し始めたのである。

『フフン、どうよアタシの変身は!』
「そ、その声……エリーさんですの!?」

 サラが大きな声を上げて驚いた。目の前の蝙蝠は不思議なことに言葉を操り、サラとミーナへ話しかけてくる。その声色は、まさに先ほど窓の前に立っていたエリザベートの声だったのだ。

「……確か、聞いたことがあります。吸血族《ヴァンパイア》の方々は自分の身体を蝙蝠や霧に変えることが出来るとか。まさか、本当だったのですね……」
『あら、よく知ってるじゃない。アタシ達吸血族ヴァンパイアは自分の身体を蝙蝠と霧、二つの形状に変えることが出来るのよ。これのおかげで敵から逃げたり偵察できたりするの。』

 ミーナの驚く声に得意げなエリーの声が答えた。エリーは翼を広げバサバサと宙へ舞うと、サラ達の目線の高さへ滞空する。

「アタシがこの姿で国中を見てくるわ。一部は霧になって見てくるから……そうね、十分ほど待ってなさいな。」
「お、お願いしますわ……」

 サラがいまだ冷めやらぬ驚きを含んだ声でお願いする。すると蝙蝠エリーはバサバサと窓の方へ飛び去り、月夜の黒に溶け込んでしまった。

「……行ってしまいましたわ。目の前で起こったのに、信じられないですわね。」
「個体数の少なさ故の、認知の低さですかね。調べようにも稀少種族ですので調べられませんし。不老不死と言うデマが流布した時代もあったそうですよ。さて……」

 そこまで言ったミーナは立ち上がり、部屋に備え付けられた小さなキッチンへ向かった。そして右手を自身の魔法【パンドラ】で発生させた亜空間に突っ込み、ポットと三杯のカップ、そして茶葉の入った缶を取り出した。

「十分ほどなら、今からお茶を入れたら丁度良いでしょう。せっかく協力していただくのです。お茶ぐらいは入れなくては。」
「そうですわね、頼みますわ。」

 サラも立ち上がり、机の上を整理し始めた。机の上は汚れているわけではないが、エリーが独自に調べたであろうこの国に流れている吸血鬼の噂をまとめた資料が散乱していたのだ。サラは内心、少し呆れながらも机の上を片付けていく。

(案外、抜けているのですわね。何か、クロエさんみたいですわ。)

  小さく笑みを浮かべながら、二人はエリーの帰りを待つのだった。


 *


 エリーが出て行ってから十分と少し。椅子に座るサラとミーナの耳に、複数の羽の羽音が聞こえてきた。特徴的な羽ばたき音。二人が窓の方へ目線を向けると、丁度蝙蝠の大群が窓から入ってきた所だった。
 窓から入ってきた蝙蝠たちはまるで混ざり合うかのように集まり合い、一つの人型のシルエットを為した。そして一瞬その全体が黒い靄のような物に包まれたかと思うと、次の瞬間、そこにはエリザベートが変わらない姿で立っていたのだった。

「ふぅ、つっかれたぁ……」
「お疲れ様ですわ。本当に十分程度でしたのね……」
「もちろんよ。アタシはこれでも吸血族《ヴァンパイア》なんだから。これくらい訳ないわ。」

 そこまで言ったエリーはふと部屋の様子に気が付いた。元々殺風景な部屋ではあったが、その殺風景さとは別の片づけられた印象を感じたのだ。辺りを見回したエリーはとあることに気が付く。

「ちょ、アタシの部屋……!」
「誠に勝手ながら、少し掃除をさせて頂きました。こちらへどうぞ、お茶の用意ができております。」
「あ、ありがと……。何よ、至れり尽くせりじゃない。サラ、だったっけ? アンタいつもこんな生活しているわけ?」
「わ、わたしは自分で自分のことぐらいしますわよ!? 本当ですわ!」

 エリーの言葉にサラが軽く動揺する。それだけですべてを察したのか、エリーは軽く笑いながら席に着き、ミーナのいれたお茶を飲んだ。

「あ……すっごい美味しい。下のカウンターで飲んだハーブティーと全然違うわ……」
「恐れ入ります。」
「やっぱりアンタ達、クロエが行っていた通り面白い人たちね。こうして話していても飽きないわ。」

 お茶を飲んで一息ついたエリーが微笑みながらそう言った。その言葉にサラとミーナは少し照れ臭いような気持ちを得る。しかしそれは、エリーが居住まいを正し雰囲気を変えたところで一度仕舞われるのだった。
 エリーがサラとミーナの方を真剣な表情で見つめる。その様子に二人は、何かただならぬものを感じた。

「……結論から言うわ。クロエの事は見つけられなかった。どの路地にも、どの建物でも、ね。」
「そ、そんな……」

 エリーの言葉にサラが落胆の声を抑えきれず声を上げる。しかし、エリーはそんなサラの言葉を遮って言葉を続けるのだった。

「待って、最後まで聞いてちょうだい。探索の途中、凄い現場に遭遇したのよ。」
「凄い現場、ですか?」
「ええ。とびっきりの大スクープ。たぶんあれは、秘密のお使いの帰りだったようね。若い女の人が攫われていたのよ。しかもそれを行っていたのは、大聖堂直轄の聖騎士よ。」

 エリーの言葉にサラとミーナの二人の表所が驚きに満たされる。まさか、この国の警察機構ともいえる騎士団が人さらいを行うとは。その事実にミーナが何かを思いついたように声を上げた。

「もしや、吸血鬼の噂は……」
「おそらく、アイツらの誘拐騒ぎの隠れ蓑ね。わざとそんな噂を流したのかどうかは分からないけど……この国で若い女の人を攫った犯人は、少なくとも大聖堂の聖騎士で間違いないわ。」

 エリーがニヤリと口の端を歪めてそう言った。そこまで来てサラもとある可能性に気が付く。

「ではもしや、クロエさんは……」
「はい、もしかしたらその聖騎士に攫《さら》われた可能性があります。背後から強襲はさすがに無理でしょうが、正面から堂々と聖騎士だと声をかけて、何らかの手段で意識を奪ったのか……何にせよ、調べてみる価値は大いにあります。」

 ミーナの推測はサラの考えとピタリと一致するものだった。いくら経験が浅いクロエとは言えギルドAランクである。背後から何かが襲い掛かってきて無抵抗で連れ去られるとは考えにくいのだ。

(むしろ、正面から堂々と「聖騎士だ」とでも声をかけた方が怪しまれないかもしれませんわね。私たちの名前は入国審査の段階で国に知られていますわ。ならば恐らく大聖堂側にも……。私やミーナの名前を出してクロエさんを誘導すれば、たぶん。……クロエさんはそう言った部分は疑いませんものね。)

「ところでエリー様、その聖騎士の向かった先は分かりますか?」

 ミーナがエリーに尋ねた。そしてエリーは、その質問を待ってましたと言わんばかりに笑みの表情で答えた。

「もちろんよ。初めから終わりまでしっかりと見させてもらったわ。アイツらが向かった先は、一つしかないわ。この国の東区画の……ここよ。」

 エリーは机の上に広げられていた、ミーナが先ほど広げたポルタ皇国の地図のとある一転を指し示した。北を上にした地図の右側のとある一点。東区画に相当するその指し示された場所に、サラとミーナ表情は再び驚きに満たされることとなる。

「そう、このポルタで二番目に大切な場所。聖騎士の本拠地であるここ、『大聖堂』よ。クロエは多分、ここに魔力を封印か制限された状態で幽閉されているわ。」


 ―続く―
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