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第四章:犠牲の国・ポルタ
第82話
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「……は、はぁ!? 突然なに!?」
「しらばっくれるって訳ですのね?」
「しらばっくれるも何も知らないわよ! って言うか意味わかんないわ!」
サラの言葉を受けたエリーは先ほどよりも大きな驚愕を顔に浮かべ、サラを信じられないものを見るような目で見る。不審者を見る目だ。だがその視線を受けるサラは一歩も退かないと言う強い意思を備えた目でエリーを睨み返した。
(ハァ……結局力押しですか……)
心の中で嘆息したミーナが見かねたように二人の間に割って入った。「ちょ、ミーナ!?」とサラが抗議の声を上げたが、ミーナはそれを無視してエリーへと話しかける。
「お初にお目にかかります。私、ミーナと申す者です。」
「え!? あ、あぁ、アンタが。……クロエから聞いたわ。」
「先ほどはお嬢様が突然失礼いたしました。しかし、我々にも焦らざるを得ない理由があるのです。」
「……理由? 何よ。」
サラへよりは幾分か柔らかい目つきで理由を尋ねるエリー。その言葉を受けてミーナは咳ばらいを一つすると言葉を続けた。
「実は、クロエさんがいまだに帰ってこないのです。」
「え……ちょ、それ本当なの?」
「ええ、残念ながら。」
ミーナの言葉を受けてエリーの表情が再び驚きに満たされた。その変わりようを見たサラの表情もまた軽い驚きに満たされる。エリーのその表情はとても演技には見えないのだ。
「あなた、その反応……もしかして何も知らないのですの……?」
「さっきからそう言ってるじゃない! 知ってるわけないでしょ!? あの子とは陽が暮れる前に分かれたわよ。……少なくとも、宿屋は無事に出ていったわ。」
エリーが腕を組み何やら考えるように眉根を寄せた。そして一方のサラとミーナは、当てが外れ困惑している様子である。二人と一人は、困ったようにお互い顔を見合わせていた。
「……とりあえず、中に入って。あの子が中にいない事の証明にもなるし。」
そう言ってエリーが二人を中へ招き入れた。サラとミーナはその招きに応じ部屋に入る。部屋の中は北側の窓一つだけと言う薄暗い内装だった。天井の小さなランプは申し訳程度の光を部屋に注ぐだけで、暖かさや明るさよりもうら寂しさを感じさせるものだ。
クロエの姿をダメ元で探すが見当たらず、少し意気消沈しながらサラがエリーに話しかけた。
「この部屋……暗くありませんの? Aランクでしたら、もっと良い部屋もあったのでは……?」
「良いのよ、ここで。アタシは吸血族《ヴァンパイア》だから。むしろ暗い方が好きだし。その点でここは、安いし暗いしで最適ね。」
「そう、ですの……?」
「これ以上照明もないし、少しの間我慢してちょうだい。お茶……って雰囲気でもないか……まぁ座って。」
エリーの促しに誘われ、サラとミーナは部屋の中央に設置された木製の椅子に座った。エリーも向かい合う位置に机を挟んで座る。
どうにも気まずい雰囲気が漂うが、ここで無為に時間を過ごすわけにはいかない。サラは意を決し口を開く。
「……それで、私と別れた後の事を教えてくださいませんか?」
「あの後は……クロエにここまで連れてきてもらって、それでお礼にお茶を入れたのよ。その後、クロエから自分が転生者だって聞いてこれまでの旅の様子とかも聞いて……」
「そ、そんな事まで聞きましたの!?」
サラが少し驚いた。ミーナと視線を合わせ、アイコンタクトを取る。二人の共通の不安、それはエリーがどこまで聞いたのかと言う点である。
(……クロエさんの事だから、魔神の事などは話してないはずですわ。)
(こちらからクロエさんの話していないことを話すことは避けなくては。それとなく探ってみます。)
「エリー様、クロエさんは私たちの事は何か仰っていましたか?」
「ええ、この世界に来て一番お世話になった人達だって話してたわ。それはもう、嬉しそうにね? 自分が旅に出る時も心配だから付いて来てくれたって。」
「そうですわ。いくら転生者と言っても、見た目は可愛い女の子なんですもの。放ってはおけませんわ。」
どうやらクロエは魔神関連の事は言っていないようだ。それを確認した二人は情報開示のラインを定める。エリーはそんな二人の様子に気が付くこともなく言葉を続けた。
「大体陽が暮れるちょっと前まで話したかしらね? 流石に陽が暮れる前には帰さなきゃって思って、宿屋の前まで見送ったのよ。アタシが知ってるのはここまでよ。」
「私たちが街で買い物をしていた頃ですね……」
ミーナが腕を組んでそう呟いた。サラも無言で頷く。ここまで来てクロエの消息の当てはなくなってしまった八方塞がりの状態に頭を抱える二人に、エリーがとある言葉をかける。
「……ねぇ、ふたりとも。ここに来たのはアタシが吸血鬼だからでしょ?」
「えっ!? い、いえ、そんな事ないですわよ?」
「隠さなくていいわ。アタシだってこの国に流れている噂は知っているもの。むしろ、その噂があったからこの国に来たのよ。」
「それは……どういう事か聞いても良いですか?」
ミーナが問いかけた。何かを察したのか、話しにくい事なら尚の事、相手にとってのタブーは侵したくないのだろう。
しかし、エリーはなんて事のないような調子でその訳を話し出すのだった。
「アタシは……ある吸血鬼を追っているのよ。寝ても覚めても忘れられない憎い相手……ギルドに入ったのも情報収集のためよ。悪さを働いている吸血鬼の噂があったら、そこに行ってその吸血鬼を殺すの。情報収集のついでにね。だからアタシの二つ名は『同族殺し』、なのよ。おかげで時々会う同族からは蛇蝎の如く嫌われているのよね。」
少し自嘲するかのような笑みを浮かべてそう語るエリーは、どこか寂しそうな雰囲気だった。それを見た二人はこれ以上踏み込むことを止める。
「ま、そう言う訳でこの国に流れている噂の吸血鬼とアタシは別物よ。って言うより、この国に吸血鬼がいるかどうかも怪しいわ。アタシ、この国に来てずっと探しているけど見つかんないのよね……」
「そうでしたか……」
エリーの言葉に、サラとミーナの二人は明らかに肩を落とす。無論エリーの言葉をすべて信じたわけではないが、それでも情報は情報だ。行き詰ってしまったのは否めない。二人は顔を見合わせると立ち上がってエリーに頭を下げた。
「疑ってしまい、申し訳ありませんでしたわ。」
「ええ、誠に申し訳ありません。我々はこれで失礼いたします。」
「それは別にいいけど……アンタ達、これからどうするつもりなのよ?」
エリーも立ち上がってサラ達に問いかけた。その問いにサラが固い意志を示すかのように言う。
「……探すだけですわ。クロエさんは恐らくこの国からは出ていないはず。ここにギルドがない以上、頼れるのは自分たちだけですもの。」
「ちょ、探すって……この国それなりに広いわよ? 二人だけじゃ何日かかるか……」
「それでもですわ! 大切な仲間を置いて旅なんか続けられるわけありませんもの!」
エリーの言葉を遮るかのように大きな声を上げるサラ。思わずエリーは口を噤んでしまう。そして言われた言葉に少し目を伏せるかのような仕草を見せると、「あーもー!」と声を上げた。
「何よその根性論! そんなんじゃ効率悪いでしょ!? 二人だけで国中探すって、無茶苦茶よ!?」
「そ、それはそうでしょうけど……でも、諦める訳にはいきませんわ!」
「分かったわよ! アンタの気持ちは分かったから! ……ア、アタシも手伝うわよ。」
エリーがそっぽを向きながら協力を申し出てきた。その言葉にサラとミーナは三度《みたび》顔を見合わせる。そして嬉しそうな笑みを浮かべると、サラがエリーの手を握った。
「ありがたいですわ! これで千人力ですわね!」
「べ、別にアンタたちの為じゃないわよ。クロエがどこかでひどい目にあってたら気分悪いし……そ、それだけなんだからね!?」
顔を真っ赤に染めながら必死な否定を繰り返すエリー。しかし、その言動からは裏の意思が容易に読み取れる。クロエを心配する気持ちと、サラたちを気遣う気持ちだ。根は優しい人物であろう事がありありと分かるその様子に、思わずサラとミーナは生暖かい目でエリーを見てしまう。
「な、何よ、気持ち悪いわね……!」
「いーえいえ? 何でもありませんわ。さ、それでは手分けしてクロエさんを探しましょう? 三人もいればすぐに見つかりますわ!」
サラが意気込んでそう声を上げた。ミーナがどこからか地図を取り出す。すっかり準備は万端だった。
しかしエリーはそんな二人を止めるのだった。
「……待って。二人ともここにいてちょうだい。」
―続く―
「しらばっくれるって訳ですのね?」
「しらばっくれるも何も知らないわよ! って言うか意味わかんないわ!」
サラの言葉を受けたエリーは先ほどよりも大きな驚愕を顔に浮かべ、サラを信じられないものを見るような目で見る。不審者を見る目だ。だがその視線を受けるサラは一歩も退かないと言う強い意思を備えた目でエリーを睨み返した。
(ハァ……結局力押しですか……)
心の中で嘆息したミーナが見かねたように二人の間に割って入った。「ちょ、ミーナ!?」とサラが抗議の声を上げたが、ミーナはそれを無視してエリーへと話しかける。
「お初にお目にかかります。私、ミーナと申す者です。」
「え!? あ、あぁ、アンタが。……クロエから聞いたわ。」
「先ほどはお嬢様が突然失礼いたしました。しかし、我々にも焦らざるを得ない理由があるのです。」
「……理由? 何よ。」
サラへよりは幾分か柔らかい目つきで理由を尋ねるエリー。その言葉を受けてミーナは咳ばらいを一つすると言葉を続けた。
「実は、クロエさんがいまだに帰ってこないのです。」
「え……ちょ、それ本当なの?」
「ええ、残念ながら。」
ミーナの言葉を受けてエリーの表情が再び驚きに満たされた。その変わりようを見たサラの表情もまた軽い驚きに満たされる。エリーのその表情はとても演技には見えないのだ。
「あなた、その反応……もしかして何も知らないのですの……?」
「さっきからそう言ってるじゃない! 知ってるわけないでしょ!? あの子とは陽が暮れる前に分かれたわよ。……少なくとも、宿屋は無事に出ていったわ。」
エリーが腕を組み何やら考えるように眉根を寄せた。そして一方のサラとミーナは、当てが外れ困惑している様子である。二人と一人は、困ったようにお互い顔を見合わせていた。
「……とりあえず、中に入って。あの子が中にいない事の証明にもなるし。」
そう言ってエリーが二人を中へ招き入れた。サラとミーナはその招きに応じ部屋に入る。部屋の中は北側の窓一つだけと言う薄暗い内装だった。天井の小さなランプは申し訳程度の光を部屋に注ぐだけで、暖かさや明るさよりもうら寂しさを感じさせるものだ。
クロエの姿をダメ元で探すが見当たらず、少し意気消沈しながらサラがエリーに話しかけた。
「この部屋……暗くありませんの? Aランクでしたら、もっと良い部屋もあったのでは……?」
「良いのよ、ここで。アタシは吸血族《ヴァンパイア》だから。むしろ暗い方が好きだし。その点でここは、安いし暗いしで最適ね。」
「そう、ですの……?」
「これ以上照明もないし、少しの間我慢してちょうだい。お茶……って雰囲気でもないか……まぁ座って。」
エリーの促しに誘われ、サラとミーナは部屋の中央に設置された木製の椅子に座った。エリーも向かい合う位置に机を挟んで座る。
どうにも気まずい雰囲気が漂うが、ここで無為に時間を過ごすわけにはいかない。サラは意を決し口を開く。
「……それで、私と別れた後の事を教えてくださいませんか?」
「あの後は……クロエにここまで連れてきてもらって、それでお礼にお茶を入れたのよ。その後、クロエから自分が転生者だって聞いてこれまでの旅の様子とかも聞いて……」
「そ、そんな事まで聞きましたの!?」
サラが少し驚いた。ミーナと視線を合わせ、アイコンタクトを取る。二人の共通の不安、それはエリーがどこまで聞いたのかと言う点である。
(……クロエさんの事だから、魔神の事などは話してないはずですわ。)
(こちらからクロエさんの話していないことを話すことは避けなくては。それとなく探ってみます。)
「エリー様、クロエさんは私たちの事は何か仰っていましたか?」
「ええ、この世界に来て一番お世話になった人達だって話してたわ。それはもう、嬉しそうにね? 自分が旅に出る時も心配だから付いて来てくれたって。」
「そうですわ。いくら転生者と言っても、見た目は可愛い女の子なんですもの。放ってはおけませんわ。」
どうやらクロエは魔神関連の事は言っていないようだ。それを確認した二人は情報開示のラインを定める。エリーはそんな二人の様子に気が付くこともなく言葉を続けた。
「大体陽が暮れるちょっと前まで話したかしらね? 流石に陽が暮れる前には帰さなきゃって思って、宿屋の前まで見送ったのよ。アタシが知ってるのはここまでよ。」
「私たちが街で買い物をしていた頃ですね……」
ミーナが腕を組んでそう呟いた。サラも無言で頷く。ここまで来てクロエの消息の当てはなくなってしまった八方塞がりの状態に頭を抱える二人に、エリーがとある言葉をかける。
「……ねぇ、ふたりとも。ここに来たのはアタシが吸血鬼だからでしょ?」
「えっ!? い、いえ、そんな事ないですわよ?」
「隠さなくていいわ。アタシだってこの国に流れている噂は知っているもの。むしろ、その噂があったからこの国に来たのよ。」
「それは……どういう事か聞いても良いですか?」
ミーナが問いかけた。何かを察したのか、話しにくい事なら尚の事、相手にとってのタブーは侵したくないのだろう。
しかし、エリーはなんて事のないような調子でその訳を話し出すのだった。
「アタシは……ある吸血鬼を追っているのよ。寝ても覚めても忘れられない憎い相手……ギルドに入ったのも情報収集のためよ。悪さを働いている吸血鬼の噂があったら、そこに行ってその吸血鬼を殺すの。情報収集のついでにね。だからアタシの二つ名は『同族殺し』、なのよ。おかげで時々会う同族からは蛇蝎の如く嫌われているのよね。」
少し自嘲するかのような笑みを浮かべてそう語るエリーは、どこか寂しそうな雰囲気だった。それを見た二人はこれ以上踏み込むことを止める。
「ま、そう言う訳でこの国に流れている噂の吸血鬼とアタシは別物よ。って言うより、この国に吸血鬼がいるかどうかも怪しいわ。アタシ、この国に来てずっと探しているけど見つかんないのよね……」
「そうでしたか……」
エリーの言葉に、サラとミーナの二人は明らかに肩を落とす。無論エリーの言葉をすべて信じたわけではないが、それでも情報は情報だ。行き詰ってしまったのは否めない。二人は顔を見合わせると立ち上がってエリーに頭を下げた。
「疑ってしまい、申し訳ありませんでしたわ。」
「ええ、誠に申し訳ありません。我々はこれで失礼いたします。」
「それは別にいいけど……アンタ達、これからどうするつもりなのよ?」
エリーも立ち上がってサラ達に問いかけた。その問いにサラが固い意志を示すかのように言う。
「……探すだけですわ。クロエさんは恐らくこの国からは出ていないはず。ここにギルドがない以上、頼れるのは自分たちだけですもの。」
「ちょ、探すって……この国それなりに広いわよ? 二人だけじゃ何日かかるか……」
「それでもですわ! 大切な仲間を置いて旅なんか続けられるわけありませんもの!」
エリーの言葉を遮るかのように大きな声を上げるサラ。思わずエリーは口を噤んでしまう。そして言われた言葉に少し目を伏せるかのような仕草を見せると、「あーもー!」と声を上げた。
「何よその根性論! そんなんじゃ効率悪いでしょ!? 二人だけで国中探すって、無茶苦茶よ!?」
「そ、それはそうでしょうけど……でも、諦める訳にはいきませんわ!」
「分かったわよ! アンタの気持ちは分かったから! ……ア、アタシも手伝うわよ。」
エリーがそっぽを向きながら協力を申し出てきた。その言葉にサラとミーナは三度《みたび》顔を見合わせる。そして嬉しそうな笑みを浮かべると、サラがエリーの手を握った。
「ありがたいですわ! これで千人力ですわね!」
「べ、別にアンタたちの為じゃないわよ。クロエがどこかでひどい目にあってたら気分悪いし……そ、それだけなんだからね!?」
顔を真っ赤に染めながら必死な否定を繰り返すエリー。しかし、その言動からは裏の意思が容易に読み取れる。クロエを心配する気持ちと、サラたちを気遣う気持ちだ。根は優しい人物であろう事がありありと分かるその様子に、思わずサラとミーナは生暖かい目でエリーを見てしまう。
「な、何よ、気持ち悪いわね……!」
「いーえいえ? 何でもありませんわ。さ、それでは手分けしてクロエさんを探しましょう? 三人もいればすぐに見つかりますわ!」
サラが意気込んでそう声を上げた。ミーナがどこからか地図を取り出す。すっかり準備は万端だった。
しかしエリーはそんな二人を止めるのだった。
「……待って。二人ともここにいてちょうだい。」
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