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ルビーの指輪
しおりを挟む『白怪盗、現る!』
新聞を見ていたナナが、その記事を発見し、嬉しそうに叫んだ。
「白怪盗だ、白怪盗がまた出たよ。ねえ、お姉ちゃん」
騒ぐナナを横目に、マナは朝食の準備を続けていた。
白怪盗。それはこの辺りの都市を中心に出没する怪盗のこと。
ただし、怪盗といっても白怪盗は金持ちからしか盗まない。盗んだ物やお金は貧しい人々へと配られている。
だから、白怪盗は市民や貧しい人のヒーロー的存在なのだった。
ナナは小さな頃から白怪盗のファンだ。
記事を見つけては喜んで、その活躍を応援しているようだが、そんなナナを微笑ましく思いつつもマナは白怪盗どころではなかった。
マナの母はマナがまだ幼い頃、ナナを産んで死んでしまった。
その後、父が病に倒れ、マナは父の看病をしながら家事をし、仕事もしている。目の回るような忙しい日々の中で、マナは白怪盗どころではないのだった。
マナ達は朝食を終えると、マナは仕事へ、ナナは学校へと向かう。
マナも本来ならば学校へ行く年頃なのだが、父は働けるような状態ではないし、他に頼る人もいない。マナが家族を支えなければやっていけない。学校へ行く余裕はなかった。
マナはナナにだけは絶対苦労させないと心に誓っていた。
マナが職場に着くと、いつもと同じ笑顔でカイルが迎えてくれた。
「おはよう、マナ。今日もお互い頑張ろうな、無理すんなよ、いってきます。」
「ええ、いってらっしゃい」
大きく手を振るカイルにマナが応える。
カイルはマナの幼馴染で、小さい頃から仲が良かった。
小さい頃は、よく一緒にナナと三人で遊んでいた。
カイルの父親が経営している飲食店で、マナは働かせてもらっていた。カイルは学校から帰ってくると店を手伝っていた。
学校が休みの日は一日店で働いている。マナはなかなかの働き者だと感心していた。
忙しい一日も終わりを迎え、マナも一息ついた頃、
「ただいま!マナいる?」
「おかえり、カイル」
走って帰ってきたのか、息のあがったカイルがマナを見つけて嬉しそうに微笑む。
「マナ、お疲れ様。困ったこととかあったら俺に言えよ。親父になんかされたり、言われたりしてない?」
「大丈夫よ、おじさんもみんなも優しいから。ありがとう、カイル」
マナが可笑しそうに笑っている姿をカイルが呆けた顔で眺めていると、カイルの頭に鉄拳が振り下ろされた。
「んがっ!」
「あほか! 何呆けとる。帰ったんなら速く店手伝え、バカ息子!」
カイルの父は仁王立ちになりカイルを睨みつける。
「いってー!手加減しろよな、親父!」
カイルが父親を睨む。
「あ?」
「何でもありません」
カイルはそそくさと店の奥へと消えていった。
そのやり取りを微笑ましく見ていたマナに気づくと、カイルの父親はマナへ優しく微笑んだ。
「マナちゃん、どうだい? 疲れてないかい?」
先程のカイルに見せていた表情とは雲泥の差である。
「ええ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
カイルの父親はマナの家庭事情をよく知っているので、心配してくれていた。怖そうな顔をしているが心はとても優しい人だった。
マナが可愛い笑顔を返すと、カイルの父は照れくさそうに顔を赤らめた。
「親父! 何ニヤニヤしてんだよ! 気持ち悪いんだよ、なあ、マナ」
奥から制服に着替えてきたカイルが顔を出す。
「なにー?! 誰が気持ち悪いって?」
二人が睨み合うのを微笑ましく見守るマナ。こんな何気ない普通の光景に幸せを感じていた。
仕事を終えたマナはカイルに付き添われ家路につく。
カイルがマナを心配して、いつも家まで送ってくれた。こういう優しさに、マナはいつも感謝とともに暖かい気持ちを感じていた。
家に着くとナナが二人を出迎えた。
「おかえりー」
カイルはマナが夕食の準備をする間、ナナの話し相手をしてくれる。
「カイル、今日の新聞見た? 白怪盗のとこ!」
ナナが嬉しそうに満面の笑みを向ける。
「ああ、見たよ。白怪盗かっこいいよなあ」
「そうだよね! かっこいいー」
ナナはカイルの返答にご満悦だ。
カイルはマナの様子を気にしながら、問いかける。
「マナは? 白怪盗のこと、どう思う?」
夕飯の準備で忙しいマナは手を止めずに答えた。
「私は白怪盗のことよく知らないから……わからない」
その言葉を聞き、ナナが唇を尖らせる。
「お姉ちゃんは白怪盗に興味がないだけだよ」
「そっか……」
カイルはどことなく寂しそうに笑うのだった。
ナナはしばらく白怪盗の話題で盛り上がったあと、
「そうそう、ねえ、今女の子の間で流ってるものって知ってる?」
カイルは首を横に振る。
「ルビーのペンダント! それを持ってると好きな人と両想いになれるんだって」
すごく嬉しそうにニコニコしながらカイルの返答を待っている。
「へえ、そうなんだ……」
興味なさそうなカイルの返答にナナは頬を膨らませた。
「いいよね、ペンダント……私も欲しいなあ」
「ナナちゃん、好きな子でもいるの?」
ナナは上目づかいでじっとカイルを見つめるが、カイルは不思議そうな顔をする。
ナナは面白くなさそうに顔をそむけた。
「秘密」
「なんだよ」
二人が楽しく会話する姿を優しく見つめていたナナが、出来上がった料理を二人に運ぶ。
「ご飯出来たよ、どうぞ」
マナは疲れた身体を休めるため、窓辺に置いてある椅子に座りながら月を眺めていた。
ふと、先ほどの会話が蘇ってきた。二人が話していたルビーのペンダント。
ナナのために買ってあげたいが、金銭的にとても無理だ、今の暮らしでも精一杯なのだ。
やわらかな月の光を浴びながら、マナは深いため息をつくのだった。
読んでいただき、ありがとうございます!
次回も読んでいただけたら嬉しいです、よろしくお願いします(^▽^)/
応援ありがとうございます!
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