私の前職物語

ハネクリ0831

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異動

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2018年6月のある日、
工場長Hに「ちょっと話がある」と呼び出され、私は食堂へ向かった。
その足取りは重く、胸の奥に広がる嫌な予感が喉元を締めつける。

「別の部署に異動してもらうことになった。」

短く、冷静に告げられたその言葉。

――ガツン、と頭を殴られたようだった。

耳がじんじんと痛むように熱くなり、その場で固まってしまう。
工場長の表情に感情はなく、淡々とした口調がかえって心に重く響いた。

「理由は……お前が思うように作業ができないからだ。」

この言葉の裏には「お前は無能だ」という評価が見え隠れしているように感じた。
それが真実であろうとなかろうと、否定する力は残されていなかった。

後に役員Aからその理由を聞かされることになるが、この瞬間の私には、Hの言葉だけで十分すぎるほどの衝撃だった。

――何もかも終わりだ。

その瞬間、頭の中が真っ白になった。
胸の奥にあった微かな希望の灯火は吹き消され、絶望という暗闇に飲み込まれていく。
言葉が出ない。何を言えばいいのかわからない。

「……わかりました。」

かろうじてそう絞り出すと、私はただ静かにその場を立ち去った。
歩きながら、背後で紙をめくるような音が遠ざかる。

準備という名の試練

7月の異動に向けて準備をする日々が始まった。
新しい業務のための資料に目を通しながらも、頭に入らない。
周囲からの視線は冷ややかで、まるで「失敗者」と烙印を押されたかのようだった。

作業場を歩くだけで背中に突き刺さる嫌な視線や、同僚たちのひそひそ声に心が削られる。
次第に、足が地面に吸い付くような重さを感じるようになった。

そして迎えた7月――異動の日。

新しい部署は、フライス盤や旋盤を扱う加工場だった。
その空間は、油の匂いと金属の冷たい輝きに包まれていた。

そこにいたのは、私を含めて4人。
その中には、のちに私を最も苦しめる存在となる先輩Hもいた。
しかし、この時点ではまだ表面的な平穏が保たれていた。

「今度こそ……やり直せるかもしれない。」

そんな希望が胸をよぎったのも、束の間だった。

続く嫌がらせ

新しい作業はフライスを使った加工やボール盤を用いた穴あけなど、どれも慣れないものばかりだった。
だが、それ以上に私を追い詰めたのは、先輩Fが同じ部署にいたことだった。

彼の嫌がらせは異動してもなお終わらなかった。

ある日、製品を加工していると、次の工程を担当する先輩Fが私のところにやってきた。
彼の足音が近づくたび、心臓が音を立てる。

「おい、いつまでやってんだよ! このクズが!」

彼は大声で怒鳴り、作業場にその罵声が響き渡った。
それは一度ではなく、何度も繰り返され、私の耳を刺した。

――異動してまだ2日目だ。慣れていないのは当然だろう……。

そう心の中でつぶやきながらも、言葉を返すことはできなかった。
視線を下に向け、ただ手を動かすしかなかった。

だが、精神的な負荷に耐えきれず、指先が震える。
作業台に置かれた工具が微かに音を立てた。

「もう、どうしたらいいんだろう……。」

出口の見えない迷いと絶望に押しつぶされそうになる。
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