「微小生命体転生」シリーズ

ハネクリ0831

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転生コバエ、蜜香に酔う空の旅

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目を覚ました瞬間、そこは――濃厚な甘い香りに満ちた、奇妙な空間だった。

(……な、なんだここは?)

俺は確かに、ブラック企業の徹夜帰りにトラックにはねられて死んだはずだ。
だが目覚めた今、俺の体は数ミリ。手も足も透明の膜のような羽になっていた。
……いや、待てよ。これ、コバエじゃねぇか!?

「お客様、お飲み物は何になさいますか?」

心臓が止まりそうになった。
――天使。いや、CAだ。

彼女は長身でスレンダーなプロポーション、すっと伸びた首筋と、完璧に整えられたお団子ヘア。
ほんの数センチ先に、彼女の豊かな胸元を包む制服のボタンが視界を圧倒する。

(でかっ……っていうか、近い……近すぎる……)

俺は今、彼女の制服の襟元、つまり胸元と首の境目にある香水の香りゾーンに、偶然着地していた。

汗と香水、そしてシャンプーの香りが入り混じった、**人間の頃には絶対に嗅げなかった“生の香り”**が俺を包む。

(これが……CAの匂い……!?)

その瞬間、彼女が動いた。胸が上下に揺れ、俺の体がふわっと跳ねる。

(おいおい、俺、揺れる胸に乗ってるってことか!?)

彼女が一歩進むたび、俺はバランスをとるのに必死だった。
眼前に迫る、肌着のラインが透けるシャツの布地。その中では、薄く汗ばんだ滑らかな肌が、じんわりと呼吸している。

(ああ……このまま、もう少しだけ……)

俺は意識を集中させ、そっとシャツのボタンの隙間から中をのぞいた――。

……ボタンの隙間から差し込む機内の光が、布の内側を透かしていた。

コバエになった俺の複眼には、淡い肌色のカーブと、その内側に微かに走る青白い血管までもが映り込む。

(これが、人間だった頃は決して見られなかった世界……!)

わずかに汗ばんだ肌が、シャツ越しにほんのり光を反射している。
その温かさが、空気を通じて伝わってきた。

「ん……」

彼女が首をかしげ、軽くストレッチをする。
その動きで、シャツの襟元がふわりと開き、俺の立つ場所が襟の裏から直接肌に触れる領域へと変わった。

(やばい、落ちる……!)

瞬間、俺は反射的に飛び立った――
だが狙いはただの逃走ではない。

目の前に広がるその空間へ、飛び込んだのだ。
シャツの中へ。

機内の空調が生む柔らかな風が、シャツの裾をわずかにふくらませていた。
俺はその隙間から、スルリと彼女の身体の内側へ――

シャツと肌のわずかな空間。そこに漂うのは、制汗剤と体温の混じった濃密な香り。

(っ……これが、リアルな“体温”の世界か……)

内側から見るシャツは、まるで白い天幕のようだ。
そこに落ちる彼女の髪の影がゆらめき、まるで別世界に迷い込んだような錯覚を覚える。

「はぁ……暑いな……」

彼女が袖をまくる。
シャツの内側に風が流れ込み、俺の視界に――彼女の脇の下と、ブラのストラップが浮かび上がる。

(……直視していいのか?でも今の俺は虫だ。問題ない。たぶん)

汗の粒が光る白い肌。そこを伝って流れる一滴の汗が、まるで宝石のように見える。
俺はその汗の匂いに引き寄せられるように、ゆっくりと接近していく。

羽を震わせながら、香りの強まるポイント――彼女の脇の下へ、ふわりと着地した。

(柔らかい……あったかい……なんだこれ……!)

皮膚は思った以上に弾力があり、微かに粘り気を感じる汗が、羽や脚にまとわりつく。
脈打つ血管の鼓動が、足元からじんわりと伝わってくる。

「……あれ? なんか……痒っ」

(やばい!バレた!?)

指が近づく。美しい指先が、俺のいる場所を叩こうとして――

ドン!

……間一髪で、俺は跳び上がった。

その衝撃で、シャツの内側から飛び出し、彼女の耳元あたりにふわりと着地する。

耳の裏。香水の香りが濃く残り、うなじの肌がすぐそばにある。

彼女の声が、すぐ目の前で響く。

「……もー、またコバエ? 機内に入っちゃったのかなぁ」

(バレてない。けど……すぐそこに“あの声”がある……!)

彼女の唇がゆっくりと動くたび、俺の全身が震えるような感覚に包まれた。
それは、かつて人間だったときには到底得られなかった、**“体感するセクシーさ”**だった――。

羽音を殺しながら、俺は彼女の耳の後ろに着地していた。

香水の香りがこの近辺だけ濃く、甘く、そして少しだけスパイシーに感じる。
香りの奥にあるのは、彼女の地肌そのものの匂い。
髪の毛がかすかに触れるたび、微細な静電気が羽に伝わってくる。

(こんな距離で……女性の香りを感じられるなんて……)

ほんの少し下に目を向けると、そこにはうなじから肩へと滑らかに流れる曲線。
シャツの襟が少しずれて、肌が直に見える隙間が生まれていた。

その時、彼女がふっと笑った。

「ふぅ……メイク直そっかな」

立ち上がる彼女。俺はバランスを崩したが、慌てて羽ばたいて肩の上にソフトランディング。

(肩の上……この位置なら安全だ)

そう思った矢先――
彼女は手鏡を開き、唇にリップクリームを塗り始めた。

その瞬間、俺の目の前で、柔らかそうな唇がゆっくりと上下に動いた。

(……っ! 目の毒すぎる……!)

瑞々しいピンク色の唇が、ほんの少し開いた状態でツヤを増していく。
その合間から、かすかに歯の白さや舌の動きまでもが垣間見える。

(人間の頃だったら、ここまで接近するのにどれだけ勇気が必要だったか……)

だが今の俺は、虫――
彼女の息が直接吹きかかる距離にいても、怒られることはない。

唇にリップが塗られるたびに、ほんのりとしたベリー系の香りが鼻をかすめる。
そのたびに、俺の全身が痺れるような感覚に襲われる。

(この香り……この艶……たぶん、ナチュラグラッセのやつだ)

そんな無駄な記憶がよぎったとき――彼女はくるりと体を回転させた。
俺はふっと宙に浮き、次に着地したのは――

彼女の胸元、スカーフの奥。

(ま、またこの場所かよ……でも、ここは……!)

スカーフの裏地は柔らかく、そこに包まれるようにしてシャツの谷間へと滑り込んだ俺の体は、わずかに震えていた。

彼女の胸が上下に動くたび、スカーフの布地と胸の柔らかな感触に包まれて揺れる世界。

(ぬくい……香りも、音も……全部彼女そのものだ……)

ドクン、ドクン……
彼女の心臓の鼓動がすぐ近くで響いてくる。

「んっ……? なにか……」

彼女が胸元に手を差し入れようとする――!

(やばっ、次で終わりかも……)

けれど逃げる気にはなれなかった。

この場所はあまりにも心地よくて、あまりにも“彼女”だったから。

「んっ……ちょっと着替えようかな」

機内の業務が一段落し、彼女はギャレー(乗務員専用スペース)へと歩き出した。
俺は、胸元のスカーフに包まれたまま、揺れる胸の谷間の中にいた。

歩くたびに、柔らかなクッションに上下左右へと揉まれる。
制服の内側からほんのり立ち上る女性特有の体温と、香水の奥にある地肌の匂いが、俺の羽や脚をくすぐった。

そして、ついに——彼女はロッカー前で制服のボタンを外し始めた。

(っ……! 今、脱ごうとしてる……!?)

胸元が開き、スカーフの布がふわりと緩む。
そのまま俺は、制服と一緒にスカートの内側へと滑り落ちていった。

……そこは、まるで別世界だった。

(ああ……これが、太ももの世界……)

シルクのようになめらかな太ももの肌。
そこに1匹のコバエが、静かに着地する。

香りは微かにフローラル系。
だがそれ以上に、**人肌が持つ甘く濃密な“熱気”**が、視界を霞ませるように漂っていた。

彼女が軽くストレッチする。
その瞬間、俺は振動に弾かれ、滑るようにして内腿の奥へと転がり込んでしまった。

(ま、まずい……このままじゃ……)

と思いつつも、そこはあまりにも柔らかく、温かく、湿度すら心地いい。
目の前にはレースの縁取りが施された、彼女の下着のラインがあり、それはまるで境界線のように輝いて見えた。

(……あれが“国境線”か)

その向こうには踏み込んではいけない禁忌の領域がある。
だが、コバエになった今の俺に、理性などどれほど残っているだろうか。

そっと、一歩だけ前に進んだ。

その時——

「わっ、揺れた……!」

飛行機が突然気流に入ったのか、大きく揺れた。
彼女の体がふわりと浮き、その拍子に俺の体も無重力のように宙へと放り出された。

(っ、まさかこんな……!)

ふわり――
俺はゆっくりと、下着のレースの奥、ほんの一瞬だけ開いた布の隙間へと吸い込まれていった。

(柔らかい……甘い匂い……)

そこは、まるで体温で満たされた**“人間の中の楽園”**だった。
真っ暗だが、外からの光が下着越しにほんのりと差し込み、内部の輪郭をぼんやりと映し出す。

その全てが柔らかく、わずかに湿り気を帯びていて、微細な振動が内側から伝わってくる。

(心臓の音……呼吸の音……全部がすぐそばにある……)

——その時。

「……痒っ?」

彼女の指が、するりとスカートの中に差し込まれた。

(終わった……でも、本望だ)

指が触れそうになる、その瞬間。

ブォン!

突如起こった機体の振動が、俺の体を下着の外側へと押し戻した。
紙一重で危機を脱した俺は、ふらふらと宙を舞いながら太ももと下腹部の境目に着地した。

そこはまだ、**熱気と香りが漂う“最前線”**だった。

(生きてる……けど……やばい……この場所、居心地よすぎる……)

フライト終盤、深夜の機内。
照明は落とされ、乗客たちもまどろんでいた。

ギャレーの奥、CAたちの待機スペース。
その片隅で、彼女はそっと座り、目を閉じていた。

「少しだけ……寝よ」

柔らかな声とともに、彼女の体が背もたれに寄りかかる。
制服のボタンを緩め、ネクタイ代わりのスカーフをほどくと、首元がふんわりと緩む。

(チャンス……!)

俺はすかさず舞い上がり、彼女の鎖骨から首筋にかけてのラインへと着地した。

そこはまるで、天国だった。

うっすら汗ばみ、温かく、肌はきめ細かくてなめらか。
鎖骨のくぼみには、光沢のある汗の粒がうっすらと浮かび、肌の息づかいがすぐ下から伝わってくる。

(これが……寝ている女性の体温か)

彼女の口元がゆっくりと上下し、寝息が静かに流れ出す。
ほんのり甘く湿った空気が、風のように頬を撫でていく。

その呼吸に乗って、彼女の唇の動きがかすかに見える。
ほんのわずかに開いた唇の隙間から、舌の先が時折のぞき、肌と空気と唾液が作り出す、静かな官能の波が伝わってくる。

(……吸い込まれそうだ)

俺はそっと、彼女の耳の後ろから耳たぶの下へと滑り込み、耳の窪みに身を寄せた。

そこは香水とシャンプー、そして素肌の匂いが交じる、密室のような香りの小部屋。

彼女の鼓膜越しに、心音がふんわりと響いてくる。

(眠ってるのに、こんなに……“感じてる”世界があるなんて……)

と、そのとき。

「……ん……んぅ……」

彼女が寝返りを打つように、首をかしげる。
その拍子に俺はスルリと滑り落ち、今度は胸元の谷間と首の境目あたりへと落ちてしまった。

――そして。

「……なにか……くすぐった……」

彼女の細く長い指が、眠ったままそっと胸元に触れた。
その動きは無防備で、あまりにも色っぽい。

(……まずい、けど……逃げない)

俺は彼女の指の影にそっと身を寄せ、肌のくぼみに潜り込む。
まるで“香りの波に抱かれて眠る”ような感覚。

呼吸、脈動、体温、そして寝言。
そのすべてが、俺の世界を包んでいた。

(虫として終わるなら……このままでも、悪くない……)

そう思ったその時――

「……誰?」

突然、彼女が目を開け、囁くようにつぶやいた。

(っ!? まさか俺の存在に……!?)

しかし、彼女はただ、遠くを見るように目を細めると、胸元の布を軽く押さえ、微笑んだ。

「……夢の中にいたのかも……」

そしてまた、彼女は目を閉じた。


「……誰?」

彼女が目を開けた瞬間、俺の世界は一瞬、止まった。

彼女のまぶたはまだ重く、まどろみの中にある。
それでも、俺の存在を感じ取ったように、ゆっくりと胸元から指を離し、指先で空をなぞるような動きを見せた。

「夢の中に……いるような気がしたの」

その言葉と共に、彼女の手のひらがふわりと胸元に降りてきた。
俺の体はちょうど、彼女の指先に触れるところにいて、そのまま――

やさしく包まれた。

(……触れてる。彼女の、体温……直接、だ)

虫である俺の体を、彼女は眠ったまま、まるで小さな宝石か何かを撫でるようにそっとなでていた。

その手のひらの温もり。
微細な皮膚の線、香り立つハンドクリームの匂い。
そして、ゆっくりと鼓動が伝わってくるリズム。

(これが……人間だったら、どんな感触なんだろうな)

俺は、彼女の指と指の隙間に身を委ねた。
まるで、眠る恋人の掌の中で息を潜めるように。

飛行機は、着陸のために降下を始めていた。

機体が沈む。
微かな揺れ。
そして、窓の外に朝焼けの光が差し込む。

「……ねぇ、誰か……そこにいるの?」

彼女が、夢の中で囁いた。

その瞬間だった。

俺の体に、微かに“何か”が走った。
光の粒のようなものが、体の内側からゆっくりと溢れ出す。

(え……体が……)

コバエだったはずの俺の体が、ほんの少しずつ、人の形を取り戻しはじめていた。

しかしそれは、完全な人間ではない。
手のひらに収まるほどの、数センチのミニチュアのような姿。
だが、ちゃんと声が、思考が、彼女に届くくらいの存在に――。

「……ありがとう。君に出会えてよかったよ」

そう呟いた俺の声が、ほんのかすかに、彼女の鼓膜に届いたかもしれない。

彼女は夢の中で、ふっと微笑んだ。

「また、夢に来てね……」

そして彼女は、そっと手のひらを開いた。
俺の小さな体はそこから、やさしく舞い上がり、
朝日が差し込む窓の光の中へと、飛んでいった。

まるで一匹の小さな妖精のように。
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