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初めの妻と次の妻
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次の日、朝食の時間には夫は既に仕事に行っていなかった。
宰相の勤務体制は一体どうなっているのだろうか?
私は広い食堂で一人で食事を取った。
壁際にはメイドが立ち並び、給仕が3人もいて…大袈裟だ。
朝食は美味しかったが量が多くて食べきれなかった。
昨晩のことを知っている使用人もきっといるだろうに、邸内の雰囲気はそう悪くはない。
どちらかというと同情的な目で見られているというか…。
食後には昨日の続きということでマリーとメヌエットが庭園や図書室等案内してくれた。
一応、夫の執務室なども案内してもらった。
庭のガゼボでお茶を飲んでいるとメイド長がやって来た。
連絡事項だ。
「明日は仕立て屋が参りますのでドレスのオーダーをしていただきます。ドレス、小物や帽子はオーダー出来ますが宝飾品店は5日後の午前中に参ります。靴とバッグはその日の午後からになります。それ以外にご入り用な物があれば何時でも何なりと仰って下さいませ。」
「わかりました。」
何やら微妙な空気が漂う。
「奥様。本日は旦那様のお帰りが早いようです。御夕食は御一緒に召し上がって頂けますので。」
「そうですか。わかりました。」
「あの、大変申し上げにくいのですが…。公爵家に嫁いで来られた以上、跡継ぎを産む為に尽力していただかねばなりません。」
「貴方は昨日の私の振る舞いを、破瓜の痛みに耐えられなくて閨を中断させたと思っているのね。」
私のあけすけな物言いにメイド達は目を見合わせ、ボニーはあ~あという呆れ顔、メイド長は眉を寄せた。
「メリッサ、今までの奥様はどうだったの?お子は出来ずに法律の許す3年で直ぐに離婚をされてるわね。私調べたのよ。離婚の理由は何だったの?」
「それは…私にはわかりかねます。」
「そう?貴女は初めの奥様、ミランディ様のお世話を担当したんでしょ?それなのに分からないの?」
「…。」
「では、質問を変えるわ。旦那様の妻に対する対応は今まではどうだったの?私、本当に妻なのかしらね。式は挙げたしサインもしたけど、婚約してから今この時まで旦那様の声を聞いたのは多分合計で10分ぐらいね。お顔を見たのも多分…合計で3時間無いぐらいじゃないかしら。私が伯爵家の娘で旦那様より12も年下だから軽んじてらっしゃるのでしょう?ミランディ様は公爵家のお嬢様だったから大事にされていたんでしょうね…。」
嫌味を込めて言ってやると、とうとうメリッサが口を割った。
「ミランディ様も次の奥様も旦那様との時間はあまりございませんでした。旦那様は公爵位を継いだためにお忙しく、その頃ミランディ様と結婚されたので、奥様に対してお時間を使うことはあまりございませんでした。次の奥様サラ様と結婚された時は丁度、宰相補佐になられたばかりでしたので…。ご夫婦で過ごされた時間は御座いません。」
「ふ~ん。それなのに後継者をつくろうと閨事だけは強要したのね…。最悪。貴族だから政略結婚は当たり前の事だけどその分、お互いに礼節を持って接しなければならないと思います。そう思いませんか?私は子どもは好きよ。でも旦那様の態度を見ていると閨を共にしたいとは思わないわ。」
「おっしゃる通りです。」
「当主夫妻が殺伐としていたら此処で働いている貴女方も気を使って大変でしょう?」
周りの使用人を見渡すと目は賛同している。
「私は一応、公爵夫人として頑張りたいとは思っているんです。まだ2日目ですけど、全く自信が持てませんけども。」
「あ、ありがとうございます奥様。それで…実は旦那様は今日も初夜をお望みなのですが。」
「わかりました。あの…昨日おられた旦那様の従者の方とお話ししたいのですが、後で来るように言ってもらえますか?」
「はい。でもそれはあまり良いことでは無いかもしれません。」
「どうして?」
「2番目の奥様、サラ様は初夜の後は自室にこもられその後、別邸に居を移され3年を待って直ぐに離婚されたのです。別邸におられたサラ様を慰めていたのはその時の旦那様の侍従でした。それで…離婚して月足らずでお子が産まれました…。」
「それは…侍従の子どもと言う事?」
「侍従は元は伯爵家の次男でしたのでそのままサラ様のご実家サヴァリ家に婿に入りました。」
「…。まあそういうこともあるわね。」
私が呟くと周りが不安げに私を見つめた。
「私はそんなことにはならないから安心して下さいね。」多分ね。
部屋に戻るとメヌエットがミランディ様のことを教えてくれた。
「ミランディ様は社交界の華と言われていた公爵家のお嬢様です。公爵家同士の結婚で盛大に披露宴もされたと聞きます。でも初夜を迎えたあと暫く寝込まれて…。旦那様も忙しくなられてあまり屋敷におられませんでした。パートナーがいないのでミランディ様は夜会にも殆ど出ることはできず着飾る機会も無くなって…。でも旦那様とは月に何回かは共寝をされていましたが、決まって次の日は酷く泣いておられました。そんなことが2年も続いてミランディ様はどんどん塞ぎ込むようになって…。で、3年たってご実家に戻ることになりました。」
「ミランディ様は子どもを作らなければと我慢しすぎたのよね。きっと公爵家の方だったから厳しく言われてきたのね。だから子どもを作る義務を果たそうと思っていたのよ。社交界の華と呼ばれていたようなお美しい方ならきっと自分を飾ることも夜会もお好きだったでしょうね…。でも伴侶がいない時に自分だけで夜会に参加は出来ないものね。何一つ気晴らしが出来なかったのね。」
それにしても夫はどんな閨事をしていたのだろうか?
毎回の閨事が昨日のような行為だったらどうしよう。
宰相の勤務体制は一体どうなっているのだろうか?
私は広い食堂で一人で食事を取った。
壁際にはメイドが立ち並び、給仕が3人もいて…大袈裟だ。
朝食は美味しかったが量が多くて食べきれなかった。
昨晩のことを知っている使用人もきっといるだろうに、邸内の雰囲気はそう悪くはない。
どちらかというと同情的な目で見られているというか…。
食後には昨日の続きということでマリーとメヌエットが庭園や図書室等案内してくれた。
一応、夫の執務室なども案内してもらった。
庭のガゼボでお茶を飲んでいるとメイド長がやって来た。
連絡事項だ。
「明日は仕立て屋が参りますのでドレスのオーダーをしていただきます。ドレス、小物や帽子はオーダー出来ますが宝飾品店は5日後の午前中に参ります。靴とバッグはその日の午後からになります。それ以外にご入り用な物があれば何時でも何なりと仰って下さいませ。」
「わかりました。」
何やら微妙な空気が漂う。
「奥様。本日は旦那様のお帰りが早いようです。御夕食は御一緒に召し上がって頂けますので。」
「そうですか。わかりました。」
「あの、大変申し上げにくいのですが…。公爵家に嫁いで来られた以上、跡継ぎを産む為に尽力していただかねばなりません。」
「貴方は昨日の私の振る舞いを、破瓜の痛みに耐えられなくて閨を中断させたと思っているのね。」
私のあけすけな物言いにメイド達は目を見合わせ、ボニーはあ~あという呆れ顔、メイド長は眉を寄せた。
「メリッサ、今までの奥様はどうだったの?お子は出来ずに法律の許す3年で直ぐに離婚をされてるわね。私調べたのよ。離婚の理由は何だったの?」
「それは…私にはわかりかねます。」
「そう?貴女は初めの奥様、ミランディ様のお世話を担当したんでしょ?それなのに分からないの?」
「…。」
「では、質問を変えるわ。旦那様の妻に対する対応は今まではどうだったの?私、本当に妻なのかしらね。式は挙げたしサインもしたけど、婚約してから今この時まで旦那様の声を聞いたのは多分合計で10分ぐらいね。お顔を見たのも多分…合計で3時間無いぐらいじゃないかしら。私が伯爵家の娘で旦那様より12も年下だから軽んじてらっしゃるのでしょう?ミランディ様は公爵家のお嬢様だったから大事にされていたんでしょうね…。」
嫌味を込めて言ってやると、とうとうメリッサが口を割った。
「ミランディ様も次の奥様も旦那様との時間はあまりございませんでした。旦那様は公爵位を継いだためにお忙しく、その頃ミランディ様と結婚されたので、奥様に対してお時間を使うことはあまりございませんでした。次の奥様サラ様と結婚された時は丁度、宰相補佐になられたばかりでしたので…。ご夫婦で過ごされた時間は御座いません。」
「ふ~ん。それなのに後継者をつくろうと閨事だけは強要したのね…。最悪。貴族だから政略結婚は当たり前の事だけどその分、お互いに礼節を持って接しなければならないと思います。そう思いませんか?私は子どもは好きよ。でも旦那様の態度を見ていると閨を共にしたいとは思わないわ。」
「おっしゃる通りです。」
「当主夫妻が殺伐としていたら此処で働いている貴女方も気を使って大変でしょう?」
周りの使用人を見渡すと目は賛同している。
「私は一応、公爵夫人として頑張りたいとは思っているんです。まだ2日目ですけど、全く自信が持てませんけども。」
「あ、ありがとうございます奥様。それで…実は旦那様は今日も初夜をお望みなのですが。」
「わかりました。あの…昨日おられた旦那様の従者の方とお話ししたいのですが、後で来るように言ってもらえますか?」
「はい。でもそれはあまり良いことでは無いかもしれません。」
「どうして?」
「2番目の奥様、サラ様は初夜の後は自室にこもられその後、別邸に居を移され3年を待って直ぐに離婚されたのです。別邸におられたサラ様を慰めていたのはその時の旦那様の侍従でした。それで…離婚して月足らずでお子が産まれました…。」
「それは…侍従の子どもと言う事?」
「侍従は元は伯爵家の次男でしたのでそのままサラ様のご実家サヴァリ家に婿に入りました。」
「…。まあそういうこともあるわね。」
私が呟くと周りが不安げに私を見つめた。
「私はそんなことにはならないから安心して下さいね。」多分ね。
部屋に戻るとメヌエットがミランディ様のことを教えてくれた。
「ミランディ様は社交界の華と言われていた公爵家のお嬢様です。公爵家同士の結婚で盛大に披露宴もされたと聞きます。でも初夜を迎えたあと暫く寝込まれて…。旦那様も忙しくなられてあまり屋敷におられませんでした。パートナーがいないのでミランディ様は夜会にも殆ど出ることはできず着飾る機会も無くなって…。でも旦那様とは月に何回かは共寝をされていましたが、決まって次の日は酷く泣いておられました。そんなことが2年も続いてミランディ様はどんどん塞ぎ込むようになって…。で、3年たってご実家に戻ることになりました。」
「ミランディ様は子どもを作らなければと我慢しすぎたのよね。きっと公爵家の方だったから厳しく言われてきたのね。だから子どもを作る義務を果たそうと思っていたのよ。社交界の華と呼ばれていたようなお美しい方ならきっと自分を飾ることも夜会もお好きだったでしょうね…。でも伴侶がいない時に自分だけで夜会に参加は出来ないものね。何一つ気晴らしが出来なかったのね。」
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