閨から始まる拗らせ公爵の初恋

ボンボンP

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別邸の女

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妻になり5ヶ月が経った頃、私の妊娠がわかった。

どうやら妊娠3ヶ月目に入ったようで、悪阻が酷くて毎日吐気との戦いをしている。
たいていその戦いには負けているのだが。

医師から診断が出た時には夫はおらず、私は少し先の夫の誕生日に報告したいから内緒にしていて欲しいと専属メイドにお願いしている。

今のところ、この事は家令、メイド長にもバレていない。

食事が上手く取れずに少し体重が落ちてしまった。
夫の誕生日迄には何とか悪阻がマシになっていることを祈るばかりだ。

夫とは良好な関係を築けていると思うが、この2ヶ月ほどは生活時間のすれ違いで会えていない。
屋敷が広すぎるのも考えものね…。

王太子殿下の結婚が近付き王城の中は慌ただしく、宰相である夫は屋敷にいつ帰宅しているのかもわからないほどだ。
よって共寝をすることも無く其々の寝室で寝ている。



ある天気の良い日の午後、うたた寝から目覚めると外からはしゃぐような声が聞こえてきた。
珍しく思い、窓から庭を見下ろすと夫が若い女性をエスコートしているのが見えた。

女性の後にはその方の侍女達も一緒に庭を散策しているようだった。
夫は後姿だったが、女性は嬉しそうな笑みを浮かべて、何度も夫に顔を向けているのがわかった。

女性は白金の髪に豊満な身体つきで背が高く私よりも少しだけ年上に見えた。
赤く塗られた唇がよく動いているのが見えた。

お客様かな?でも庭を散策する前に夫人の私に紹介があってもいいのではないかしら。
使用人の誰も私に来客の知らせ、夫の帰宅を告げに来ていない。

そういえば夫にエスコートされることなんて最近なかったわ。
いえ、話さえ出来ていなかったわ。
何となくショックを受けた私はすごすごとベッドに入った。

その様子を心配そうにボニーやマリーが見ていたのは気付かなかった。


そのまま寝てしまったようで気がつくと夕方になっていた。
結局、夫はこの部屋には来ずにまた職場である王宮に戻ったらしい。

ボニーが私の夕食をテーブルに並べながらとても言いにくそうに口を開いた。
「奥様。別邸にどなたかおられるようです。」
「確か、誰も使われていなかったのよね?」

「ハイ。そう聞いておりましたが、他のメイド達に聞きましたが今日から暫く滞在される方がおられるようです。」

「ご挨拶に行ったほうが良いのかしら?」
「奥様が出向かれる必要は無いと思いますよ。お加減も悪いですし本館の客室のお客様では無いのですから。そのうち家令から何か説明があるでしょう。」

「そうね。ねえ、もしかしてお昼頃に旦那様とお庭を散策しておられた女性かしら?」
「ハイ。そのようですね。」
「ふ~ん」

一口食べたサンドイッチが引き金か、またもや吐気で口を押さえるとボニーが布を敷いたお椀のような物をさっと出してくれ背中を擦ってくれた。


結局のところ就寝時刻になっても別邸の客について夫は勿論、誰からも報告が無かった。
ということは私はまだ公爵夫人として認められていないということなのね。
宿泊されるお客さまのことも報告されないなんて。


子どもを産んだら少しは認めてもらえるのかしら…。

いつもの私ならば夫がいないなら家令を呼んで状況を聞くところだけど、とにかくこの気分の悪さでは人と話す気にもなれない。

とにかく今は宿ってくれた小さな命のために、体力を戻して苛々せず心穏やかに過ごすように頑張らねば!

でも、夫と歩み寄ったと感じていた想いは会わなければ薄れていくものなのかと寂しく残念な気持ちになった。




離れに客が来てから3日がたったがやはり誰からも報告はなく、ボニーが探って来ようとしたがそれは止めた。

そして今日、庭を見ていると別邸への側道を大きな荷物を持った使用人達が何人も通っていく。
あんなに荷物を運び込むということは滞在は長そうだ…。

使用人たちの最後尾に花束を持った夫が続いていく。
どういうことかしら?

お客様?誰も別邸のことを触れないということは客ではなくもっと違った意味のある方なのでは?
私に内緒にしておきたいような。

悪阻の酷さや夫と会えていない不安、寂しさが募り情緒不安定になっていた私はもう、どん底まで気分が落ちてしまった。
ボニー以外は部屋に入れず4日間、部屋から全く出なかった。

流石に心配したのか家令やメイド長が毎日来たが会わなかった。

彼らは客が来てから私のもとに来なくなっていたのだから、今頃私の体調を心配するようなフリは要らない。
女主人が寝込んでから慌てて来ても今更だ。

夜遅くに何度か夫が部屋に来たようだが寝ているふりをして彼を見ることはしなかった。


5日目に医師を呼ばれてしまったので大人しく診察は受けた。

医師は壮年の男性だが、優しそうな女性の助手の方がいつも親切に話をしてくれる。

「奥様、今の状況ではお子にも影響が出そうです。だいぶ痩せてしまわれましたね。悪阻だけが原因とは思えません。何かご不安がお有りなのではないでしょうか?」

「そうですよ。奥様、私達は奥様とお子様が健やかにおられるお手伝いをする為にお伺いしているのです。なのでどうか、今御心に燻っている事をお話されませんか?人に話すことで少しでも心を軽くいたしましょうよ。初めての妊娠ですから色んな心配事がお有りでしょう。」

私は優しい言葉に甘えて別邸の客のことや、公爵夫人として認められていないと思っていること、夫と2ヶ月以上会っていないこと等を泣きながら話した。

まだ懐妊を伝えてさえいない事を。
同仕様もない孤立感が拭えないこと、今やこの結婚自体に不安があること。

話終えてグスグスと鼻をすする私に助手の方が良い香りの薬湯を入れてくれた。
それは吐気をマシにしてくれるものだそうで彼女も妊娠中によく飲んだと教えてくれた。

考えてみたら、前世の私は殆ど悪阻に悩まされるようなことがなかったため余計に不安になっていたのだと思った。
すっかりマタニティブルーになっているんだわ。
今、気付く事が出来て良かった。

医師という立場だとしてもお二人が私の話を聞いてくれて少しだけ心が軽くなった。
人に話すことで気持ちが軽くなるということは何度も経験して知っていたのに、ここでは出来なかった…。


泣いて疲れた私はまたすぐに眠ってしまった。

側でボニーが心配そうに見ていた。






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