閨から始まる拗らせ公爵の初恋

ボンボンP

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◇ ジュード医師は戒める

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私がジュビエ公爵家の主治医となってから長いが本当に溜息が出る。

1人目の奥方は精神的に追い詰められギリギリになったところで、離婚しご実家に戻られた。
何度も診察させていただいたのに日が経つにつれどんどん病状が酷くなっていった。
自分の見立てが悪いのかと随分悩んだものだ。
しかし、離婚してからは順調に回復されて再婚し、お子様も何人かいると噂で聞いたことがある。

2人目の奥方も様子がおかしくなっていたように思う。
なぜかあの時は妊娠していない事を確認させられたが。
その後は一度も呼ばれなかったな…。
いつの間にか離婚されていた。

そして今の奥様もだ。
やっと待望のお子を身籠られたというのに、このままでは流れてしまうかも知れない。
成人して間も無い妊娠なのにこの家の者は奥様に負荷をかけている。

主人が一番悪いが留守の間はもっと、家令やメイド長が奥様に不安を与えないように支えなければいけない、それなのに…。

奥様が早々に妊娠を発表していれば状況は違ったと思うが、今はもう鬱状態になってしまわれている。

今の当主には妻を不幸にすることしか出来ないようだ。
医者として考えてはならない事だが、流産されてその後お子が出来なければ離縁できる。
奥様はまだ若いしその方が良いのではなかろうか?


助手で産婆のオークリーは明らかにイライラとしており診察後に待ち構えていた家令や、メイド長に対して睨見つけ「どうして、こんなにお加減が悪くなるまで放っておいたのですか!この家の奥様でしょう!責任問題になるのでは?!気が付かなかったと言うのなら職務怠慢にも程がります!奥様は心身共に弱っておられます。もっと早く私達を呼ぶべきでした。」と怒鳴りつけていた…。

流石に3人も子どもを育て、弟子を何人も一人前にしてきたオークリーは迫力が違う。


私達が玄関で帰りの馬車が車寄せに来るのを待っていると公爵家の馬車が入ってきた。
止まるなり勢いよく扉が開くと当主殿が降りてきた。

私達を見ると足早に近づいて来る。
「妻の病状を聞きたい。どうか屋敷に戻って下さい。」
「診断書は、家令に預けておきました。次の診察の時間があるので…。」
「そうか、ではその車寄せの端でもかまわないから。頼む、話を。」

公爵自身も健康そうとは言えない顔をしている。
目の下の隈が酷い。
王太子の婚姻で忙しいのだろうが…。

その時、また公爵家の馬車が、1台やって来た。

私の帰りの馬車は一番遠くに停めることになりそうだと思っていると、新たな馬車から派手なドレスを着た若い女性が降りてきた。

「あらあ!公爵、今日は早くお帰りなのですね!後ほどお茶をいかがかしら?美味しいお菓子を見つけましたの。部屋でお待ちして、いえ、お天気が良いですわ。お庭のガゼボは使ってよろしいかしら?そこでお茶をいたしましょう!お待ちしているわね。」
一方的に話し公爵の返事も待たずに侍女を引き連れ女性は別邸に続く側道へ歩いて行った。

「公爵様、今のお方は何方ですか?」
「貴殿には関係ない。客だ。」
「関係ございますよ。私ではなく奥様には。」
「何を言っているのだ?」
オークリーが私と公爵の間に割って入った。

「公爵様は屋敷の中の噂をご存知無いようなので、今日聞いたばかりですが教えて差し上げましょう。新婚早々に離れに愛人を迎え入れたと言われていましたわ。結婚して間もないのに公爵様が殆ど邸に居られないのは夫婦仲があまり良くないのでは?と。奥様とは世継ぎのためだけの結婚で本命が愛人だと。」
「…。そんなわけないだろう。」
オークリーは誰からもそんな話は聞いていない筈だが?


「なぜ、奥様に離れに女性を迎えたことを内緒にしてらしたのですか。怪しい関係で無いなら、いえそうであっても奥様には迎える前にお伝えするべきでした。家令や、メイド長も奥様に何も言わなかったために『公爵夫人であると、女主人であると誰にも認めてもらえていない』と泣いておられましたわ。普通ならば屋敷のことは夫人が把握しなければなりませんからね。女主人ですから。それなのに何も報告が上がってこないんですから。」

公爵はそのようなことを全く考えなかったのだろうショックを受けているようだ。
やはりこの男は今ひとつ気が回らない奴なのだな。

「このままではせっかくのお子が流れてしまいますよ。もうそれ程状況が悪いのです。」
奥様には悪いが妊娠の事を言ってしまった、私がこの男を責めたくなってしまったからだ。

「奥様は最近酷い悪阻に苦しんでおられます。殆ど食事が取れず気分が悪く眠りも浅い。この5日間は全く部屋から出れない状態どころかベッドの上です。そんな状態なのに公爵様、家令、メイド長、この屋敷内で立場ある者が奥様のことを気にかけることもなく放っておいて、こんな状態になってから慌てても遅いのです。」

公爵は初めて耳にした懐妊が既に流産しそうだと聞いてショック状態だ。

オークリーがダメ押しをする、彼女は妊婦を護るために生きている人だ。

「もう、数ヶ月旦那様と会ってないと悲しげでしたわ。妊娠の報告も出来なかったようですしね。それなのに公爵様があの愛人、いえ、あの女性をエスコートしてお庭を散歩されているのをご覧になったんですよ。楽しそうな声が聞こえたから庭を見たそうです。沢山の贈り物の箱と花束を持って別邸に行く公爵様を見た、とも仰っていましたわ。離れに行く時間はあるのに、貴方は奥様に会いに行かなかった。いいですか、よく聞いて下さい。貴方の仕事がどれほど忙しいのか解らないですが、妻を蔑ろにしすぎです!そんなあなたの態度がこの家の使用人達、家令やメイド長らの態度に繋がるのです!たった19歳で貴方の子どもを妊娠して酷い悪阻に耐えておられるのに。まして奥様の見える所で他の女と睦まじい様子を見せるとは!夫として最低で思いやりが全くありません!奥様はお可哀想に身も心も酷い状態です。」

相手が王家の血筋ということを完全に忘れているな、オークリー…。

今や公爵は倒れそうなぐらいグラグラしていた。

「奥様の体重の減り方は悪阻だけではありません。精神的にまいってしまわれている。鬱状態と言ってもいいかも知れません。今日、吐き気止めをお渡ししましたが2日後になっても食事が取れないなら強制的にお子を流します。奥様はご懐妊を大変喜んでおられましたから悲しまれるでしょうが仕方御座いません。奥様とよく話し合って下さい。まあ、話ができるのかはわかりませんが。」

とうとう公爵が膝を付いたので私とオークリーは目を見合わせ帰りの馬車に乗り込む。

窓から見ると駆け寄った家令や使用人に支えられ屋敷に入っていく公爵が見えた。

脅かし過ぎたかもしれないが今ならまだお二人の関係は修復出来ると思ったからだ。
何とか奥様の気持ちが上向いてくれるように祈るしかない。
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