王冠の乙女

ボンボンP

文字の大きさ
8 / 89

しおりを挟む
フェリシテが一番気がかりなのがまさに両親の墓のことだった。
アンプとノヴァのことを忘れろなんて言われたらこの話は無しだ。

産んだ親がわからない子供ではなく、両親から十分な愛情を受けて育ったフェリシテにとっては絶対に譲れないことだった。

まあ、上手くいかなくても孤児院に戻してもらおう。
私は今のままでも十分幸せだもの、何処かで働いてパパみたいな優しい人と結婚してこの村で暮らしていきたいな。



今日が最終日、そしてタイムリミット、孤児院に向かう馬車の中でネージュ夫妻は焦っていた。

「直ぐに一緒に来るって言ってくれると思ったのに…。」
「仕方ないよ。もっと小さな子供なら簡単だったと思うけど。もう13歳だからね、自分の意思もあるさ。無理やり連れて行っても後々、苦労しそうだし説得するしかない。」

「今からでも後、2年しかないのよ。どれぐらい教育できるかわからないわ。平民の子どもを貴族のようにしなければならないのよ。ブラスバン公爵も無茶なことをおっしゃるわ。」

「でもこんな良い取引はないよ。あの娘を何年か育てるだけで多額の養育費とヴィックスの将来も安泰なんだ。」
「…そうね。親の欲目から見てもヴィックスは平凡すぎてパッとしないわ。次男だから継げる爵位はうちにはないし何処かに婿入できればいいけど…探すのは難しそうだわ
。」

「そうだね。でもあの娘を育てれば、ヴィックスを王宮の文官にしてくださる約束をして下さった。」
「本当に王宮の文官になれるならヴィックスの将来を悩む必要は無くなるわ。本当に信じていいの?」
「ああ、ちゃんとブラスバン公爵に誓約書をいただいている。」

「いったいそこまでするなんて、あの女の子はいったいどういう子なのかしら。何処か高貴な方の落とし胤とか?」
「おい、詮索は駄目だよ。公爵も言っていただろう?とにかく今日はあの娘の言うことは全てOKにするんだ。」
「わかったわ。どちらにしろ数年預かるだけだもの。」



フェリシテは戸惑っていた。
フェリシテの要望を全て受け入れてくれると言うネージュ夫妻に。

お墓参りは1年後の春にと約束をしてくれたし、パパとママに毎日お祈りすればいいと子爵領に着いたら遺髪を入れるように綺麗で上等な箱を買ってくれるという。

もう、断る理由はなかった。

今日も沢山のお菓子を持ってきてくれたネージュ夫妻に養女になる、と返事をした。
夫妻はとても嬉しそうだったが、色々と予定が押していたそうで出発が明日になると伝えられた。


その日の夜はフェリシテのお別れ会になった。
司祭達も子供達も皆でフェリシテの為に讃美歌を歌ってくれた。

司祭達に見つからないようにこっそり月明かりの中、ランブロウについてきてもらって両親の墓に離れる挨拶と見守ってほしいと祈りを捧げた。



翌日、フェリシテの迎えに来たネージュ子爵夫妻の馬車を皆が見送りに来てくれた。
フェリシテは馬車の窓から一生懸命皆に手を振った。
ランブロウの寂しそうな顔を見るのが悲しかった。
心の支えになってくれた兄さんと呼べる人だった。


今まで孤児の旅立ちに、立ち会ったことのないタンバル司祭がいることにグルス司祭は珍しいなと思いつつ声をかけてみた。
「あの子はね。私が洗礼式を行ったんですよ。ふふふ、無事に大きくなってよかったですよ。今日の日を迎える事が出来て。」

満面の笑みを浮かべるタンバル司祭を見て、グルスもモーゼンも何か違和感を感じた。

夫妻が多額の寄付をしてくれたので満場一致で送り出したのだが…
本当に良かったのだろうか?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

わたしの愛した知らないあなた  〜You don’t know me,but I know you〜

藤野ひま
恋愛
あなたが好きだった。 とてもとても好きだった。 でもそれを受け止めてくれる人は、もういない、のだろうか。 全部なくなってしまったの? そしてあなたは、誰? 〜You don’t know me,but I know you〜 館野内一花 (たてのうち いちか) x 四条榛瑠 (しじょう はる) 元(?)世話係とお嬢様 現在 会社の上司と平社員 そして、秘密の恋人 幼い時に両親を亡くし、一花のいる館野内家で育った榛瑠 。彼は18歳の時に家を出て行き、そのまま手紙の一つもないまま9年、ある日いきなり一花の前に現れあなたの婚約者だと名乗る。 混乱し受けいられない一花だったが、紆余曲折の末、想いを伝え合い付き合う事に。 それから一年。あいも変わらず社長令嬢であることをふせながら地味な事務職員として働く一花。榛瑠とも特に問題もなく、いつも通りの平凡な毎日……のはずだったが、榛瑠が出張先で事故にあったと連絡が入る。 命に別状はないと聞きほっとするのも束の間、彼が記憶をなくしているとわかり? シリーズ⑶ 以前書いた『天使は金の瞳で毒を盛る』『おやすみ、お嬢様』と同シリーズ、同じ登場人物です。 前作を読んでなくても上記あらすじでわかるつもりです、つもりです……。 (別サイトから改稿しての転載になります)

この記憶、復讐に使います。

SHIN
恋愛
その日は、雲ひとつない晴天でした。 国と国との境目に、2種類の馬車と数人の人物。 これから起こる事に私の手に隠された煌めく銀色が汗に湿り、使用されるのを今か今かとまっています。 チャンスは一度だけ。 大切なあの人の為に私は命をかけます。 隠れ前世の記憶もちが大切な人のためにその知識を使って復讐をする話し。 リハビリ作品です気楽な気持ちでお読みください。 SHIN

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完】隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

処理中です...