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②
王家の茶会から2カ月たった頃、第3王子の私室にガートル・ブラスバンが訪ねてきた。
宰相の嫡男であり、父に代わり領地を任されていて殆ど領地から出ないと有名な男だ。
そんなガートルがアーサーの私室に来るなんて、考えたこともない来客であった。
22歳とは思えないほど、眼光鋭く堂々とした佇まいのガートルにアーサーは気圧された。
ガートルは宰相の使いできたと言い、アーサーの今後についての話をしたいというのだ。
宰相が第3王子と密談等と噂されぬようガートルが来たという。
アーサーは問われるがままに自分の考えを答えていった。
それは次代の王について、政治の方向について、身分制度等多岐に渡ったが普段から考えていたことなのでスラスラと答えることができた。
ガートルはアーサーの答えに満足したようで、頷くと「アーサー殿下、貴方に次代の王になっていただきましょう。」と言った。
「何を言われるのですか?ガートル殿。王太子は既におりますし僕の王位継承権は第3位ですよ?」
「そんな事は気にしなくていいのですよ。アーサー殿下。貴方はこの国の王となり民を導く覚悟はお有りかな?」
「勿論、王子たるもの国の有り方については常に考えております…しかしそれは…宰相が、ブラスバン家が僕の後ろ盾になって下さると言うことですか?」
「そうです。が、それは今後の貴方にかかっています。」
アーサーはこの話に乗っていいのかどうか判断がつかなかったが、自分が王位につく為にはこの話に乗るしかない、宰相に頼るしかないと思った。
ブラスバン家は何代にもわたり王の近くで支えてくれた忠臣であり、誰もが一目置く大貴族なのだから。
「『王冠の乙女』の話は知っていますか?」
突然、何の話だ?とアーサーは思ったが
「勿論、小さい頃よく読んだ絵本ですよ。王冠の乙女と結ばれた者は賢王になり国を安寧に導くという話だったと思いますが。」
「そうですね。そのお伽噺はこの国の建国に至った真実が書いてあるのですよ。初代インカラナータ王と彼を愛し、彼に王になる力を授けた女性の事です。その女性は不思議な力を持っていました。まだ国と呼べるような物でもない少数民族の小競り合いの中、『王冠の乙女』が生まれて彼女が愛した男が王になり国を作ったのです。絶対に王になれるような立場の者では無かったのに。」
至って真面目に話すガートルに対してアーサーは信じられない気持ちでいた。
「ただの偶然のようですがその後も国の大きな変換期には『王冠の乙女』が現れて次代の王を選ぶのです。それが今まで何度も起きているのです。」
ガートルがアーサーの目をしっかり捉えた。
「そして今世の『王冠の乙女』をアーサー殿下に会わせることが出来ます。『王冠の乙女』が現れたということはこの国は変換期に入っているのです。」
「それは、その女性と結婚しろと、そうすれば僕を王に推挙するということですか?」
「それは、少し違います。殿下が王になったら跡継ぎがいるでしょう?それに子供を産むと『王冠の乙女』は力が無くなってしまうようです。乙女の力は冠を与えるだけでは無く、王の傍にいれば災害や流行病、国難を抑える力があるのです。今までがそうでした。乙女がいない時代は平和であったとしても次第に国難に見舞われます。それは史実でわかっているのです。現に今そうなりつつあるでしょう。」
「それなら、どうやって彼女に愛を伝えるというのだ、結婚するのが一番ではないか?」
「とにかく貴方に愛されていると感じること、彼女が貴方を愛すればよいのです。そして、彼女が拒まずに身体を開き貴方を受け入れた時に、殿下は力と運を授かるのです。なので婚姻は必ずしも必要ではありません。」
「それでは婚姻もしないのにただ弄ぶようなものではないか!」
「国の安寧の為です。民に安定した暮らしを与えるためです。将来、王座に就く殿下は国の利益を考えなければなりません。彼女は妃にはなれませんし、身分的に側室も難しい。子供を授けてやる事もできません。その代わり彼女にはそれ以外の全てを与えてあげてください。彼女を蔑ろにすることはいけません。『王冠の乙女』を害した者は天罰を受けます。彼女が本気で憎いと思えばその者には未来が無くなります。」
「それは、リスクが高すぎるのではないか?」
「そんなことはございません。『王冠の乙女』が現れた以上、王家以外の誰かに取られれば王はその誰かとなりインカラナータ王家の存続は難しくなるでしょう。だからといって他者に出会う前に彼女を亡き者にしてしまえば、国が壊滅的な厄災に見舞われます。過去にございました。」
「ガートル殿。その者がどうして『王冠の乙女』だと判るのだ?確証があるのか?」
「判別方法はお教えできませんが我家に口伝のみで伝わる継承です。初代王よりも古い血筋の由緒正しきブラスバン家のみが、乙女を見つける術を知っているのです。あとは殿下の気持ちが固まりましたら彼女に会っていただきましょう。」
出ていくガートルを見送ったアーサーは誰にも相談できず一人で答えを出さなければならないのだ…冷静に考えなければ。
しかし、こんな話を信じてよいのか?
でも…
宰相の嫡男であり、父に代わり領地を任されていて殆ど領地から出ないと有名な男だ。
そんなガートルがアーサーの私室に来るなんて、考えたこともない来客であった。
22歳とは思えないほど、眼光鋭く堂々とした佇まいのガートルにアーサーは気圧された。
ガートルは宰相の使いできたと言い、アーサーの今後についての話をしたいというのだ。
宰相が第3王子と密談等と噂されぬようガートルが来たという。
アーサーは問われるがままに自分の考えを答えていった。
それは次代の王について、政治の方向について、身分制度等多岐に渡ったが普段から考えていたことなのでスラスラと答えることができた。
ガートルはアーサーの答えに満足したようで、頷くと「アーサー殿下、貴方に次代の王になっていただきましょう。」と言った。
「何を言われるのですか?ガートル殿。王太子は既におりますし僕の王位継承権は第3位ですよ?」
「そんな事は気にしなくていいのですよ。アーサー殿下。貴方はこの国の王となり民を導く覚悟はお有りかな?」
「勿論、王子たるもの国の有り方については常に考えております…しかしそれは…宰相が、ブラスバン家が僕の後ろ盾になって下さると言うことですか?」
「そうです。が、それは今後の貴方にかかっています。」
アーサーはこの話に乗っていいのかどうか判断がつかなかったが、自分が王位につく為にはこの話に乗るしかない、宰相に頼るしかないと思った。
ブラスバン家は何代にもわたり王の近くで支えてくれた忠臣であり、誰もが一目置く大貴族なのだから。
「『王冠の乙女』の話は知っていますか?」
突然、何の話だ?とアーサーは思ったが
「勿論、小さい頃よく読んだ絵本ですよ。王冠の乙女と結ばれた者は賢王になり国を安寧に導くという話だったと思いますが。」
「そうですね。そのお伽噺はこの国の建国に至った真実が書いてあるのですよ。初代インカラナータ王と彼を愛し、彼に王になる力を授けた女性の事です。その女性は不思議な力を持っていました。まだ国と呼べるような物でもない少数民族の小競り合いの中、『王冠の乙女』が生まれて彼女が愛した男が王になり国を作ったのです。絶対に王になれるような立場の者では無かったのに。」
至って真面目に話すガートルに対してアーサーは信じられない気持ちでいた。
「ただの偶然のようですがその後も国の大きな変換期には『王冠の乙女』が現れて次代の王を選ぶのです。それが今まで何度も起きているのです。」
ガートルがアーサーの目をしっかり捉えた。
「そして今世の『王冠の乙女』をアーサー殿下に会わせることが出来ます。『王冠の乙女』が現れたということはこの国は変換期に入っているのです。」
「それは、その女性と結婚しろと、そうすれば僕を王に推挙するということですか?」
「それは、少し違います。殿下が王になったら跡継ぎがいるでしょう?それに子供を産むと『王冠の乙女』は力が無くなってしまうようです。乙女の力は冠を与えるだけでは無く、王の傍にいれば災害や流行病、国難を抑える力があるのです。今までがそうでした。乙女がいない時代は平和であったとしても次第に国難に見舞われます。それは史実でわかっているのです。現に今そうなりつつあるでしょう。」
「それなら、どうやって彼女に愛を伝えるというのだ、結婚するのが一番ではないか?」
「とにかく貴方に愛されていると感じること、彼女が貴方を愛すればよいのです。そして、彼女が拒まずに身体を開き貴方を受け入れた時に、殿下は力と運を授かるのです。なので婚姻は必ずしも必要ではありません。」
「それでは婚姻もしないのにただ弄ぶようなものではないか!」
「国の安寧の為です。民に安定した暮らしを与えるためです。将来、王座に就く殿下は国の利益を考えなければなりません。彼女は妃にはなれませんし、身分的に側室も難しい。子供を授けてやる事もできません。その代わり彼女にはそれ以外の全てを与えてあげてください。彼女を蔑ろにすることはいけません。『王冠の乙女』を害した者は天罰を受けます。彼女が本気で憎いと思えばその者には未来が無くなります。」
「それは、リスクが高すぎるのではないか?」
「そんなことはございません。『王冠の乙女』が現れた以上、王家以外の誰かに取られれば王はその誰かとなりインカラナータ王家の存続は難しくなるでしょう。だからといって他者に出会う前に彼女を亡き者にしてしまえば、国が壊滅的な厄災に見舞われます。過去にございました。」
「ガートル殿。その者がどうして『王冠の乙女』だと判るのだ?確証があるのか?」
「判別方法はお教えできませんが我家に口伝のみで伝わる継承です。初代王よりも古い血筋の由緒正しきブラスバン家のみが、乙女を見つける術を知っているのです。あとは殿下の気持ちが固まりましたら彼女に会っていただきましょう。」
出ていくガートルを見送ったアーサーは誰にも相談できず一人で答えを出さなければならないのだ…冷静に考えなければ。
しかし、こんな話を信じてよいのか?
でも…
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