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ギルバートの話
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「…あれ」
見慣れない天井が広がっていると思った。
だが次第に見覚えを感じて、あれ、と瞬きしながら記憶の糸を辿る。
…医務室だ。
最近お馴染みになりつつあるこのゴテゴテに装飾された天井と硬いベッドの感触、そして薬品の匂い。
窓の向こうの太陽はすっかり沈んでしまっていて、1人で苦く笑った。
最近、勤務中に倒れてしまう事が増えた。
今日だって、護衛任務に備え朝の訓練をしていたはずなのに、気づけば医務室のベッドの上で何時間も経っている。
立ちくらみには慣れていたはずなのに、まさかここまでガタが来ているなんて予想外だった。
「はあ……」
ふらつく頭を抑えながら起き上がると、
「お、もう起きたのか?まだ寝ててもいいんだぞ」
苦手な顔とばっちり目が合って、おれは更に苦い笑いを浮かべる。"これ"だけは予想外を期待しているのに、律儀な彼が居ないなんて日はなかった。
屈強な身体に反して優しい目をしている彼は警備課 機動隊隊長のルドルフは、直属の上司に当たる人物であり、おれが倒れる度に自分の仕事も放り投げて顔を出しに来る過保護な人である。
今日もまた、医者が帰ってしまったこの時間、代わりに付き添いで居てくれたに違いない。
ベッドのそばにちゃっかり椅子を用意してくれていた彼は、果たしておれの為に何時間無駄にしてくれたのか。
「具合は?ちょっとは顔色マシになったみてぇだけど…」
「うん、だいぶ楽になりました」
「そりゃあよかった」
人が良さそうに笑う彼に気まずいものを感じて、おれはすぐに視線を逸らす。
この居心地の悪さは仮病を使った時に似ていた。
「センセーが言うにはまた貧血だって話だったけど。ちゃんと1人でも飯食ってるのか?」
「食ってますよぉ…」
「そうかぁ。…まあ、早く良くなるといいなぁ」
「…っす」
こんなに面倒を見てもらって悪いけど、良くなる事はきっとないと思う。だっておれは、明日また倒れる未来が想像出来ていても、今日も家に帰れば兄に血を与えるだろうから。
この頃には既に、兄は弱り始めていた。
いつものソファーの上で、ぐったり眠っている時間が増えたように思う。何より明確なのは、日に日に身体が骨ばってきている事だ。
兄が他人の血を吸わなくてもいいようにおれがもっと血をあげる!なんて宣言した結果がこの始末だった。
でも変な所で律儀な兄は、それ程の空腹を常に抱えながらも恐らくおれとの約束だけはまだ守り他人を襲っていないと思う。
だから余計に、歯痒くて悔しかった。
何とか少しでも楽にしてあげたくて、毎日何度も与えられるだけの血を都度兄にあげているというのに、もはや兄の腹は底の抜けたコップのように与えても与えても満ちる気配がない。
兄は口にはしないが、彼の衰弱する様子を見ても、おれ一人分の血の量ではとっくに足りていないのだ。
だからこそ、今どんなに周りに迷惑をかけようと、例えお人好しの隊長が目の前で大層心を痛めていようと、おれは自分のあげられる限界まで兄に血を与える。
それを理由に再び兄が人を襲わないよう、それこそ、たったの数滴も出し惜しむわけにはいかない。
…仮にそれで吸い尽くされたとしても、とうにおれは、兄と共に朽ちる覚悟が出来ている。
「…あれ」
見慣れない天井が広がっていると思った。
だが次第に見覚えを感じて、あれ、と瞬きしながら記憶の糸を辿る。
…医務室だ。
最近お馴染みになりつつあるこのゴテゴテに装飾された天井と硬いベッドの感触、そして薬品の匂い。
窓の向こうの太陽はすっかり沈んでしまっていて、1人で苦く笑った。
最近、勤務中に倒れてしまう事が増えた。
今日だって、護衛任務に備え朝の訓練をしていたはずなのに、気づけば医務室のベッドの上で何時間も経っている。
立ちくらみには慣れていたはずなのに、まさかここまでガタが来ているなんて予想外だった。
「はあ……」
ふらつく頭を抑えながら起き上がると、
「お、もう起きたのか?まだ寝ててもいいんだぞ」
苦手な顔とばっちり目が合って、おれは更に苦い笑いを浮かべる。"これ"だけは予想外を期待しているのに、律儀な彼が居ないなんて日はなかった。
屈強な身体に反して優しい目をしている彼は警備課 機動隊隊長のルドルフは、直属の上司に当たる人物であり、おれが倒れる度に自分の仕事も放り投げて顔を出しに来る過保護な人である。
今日もまた、医者が帰ってしまったこの時間、代わりに付き添いで居てくれたに違いない。
ベッドのそばにちゃっかり椅子を用意してくれていた彼は、果たしておれの為に何時間無駄にしてくれたのか。
「具合は?ちょっとは顔色マシになったみてぇだけど…」
「うん、だいぶ楽になりました」
「そりゃあよかった」
人が良さそうに笑う彼に気まずいものを感じて、おれはすぐに視線を逸らす。
この居心地の悪さは仮病を使った時に似ていた。
「センセーが言うにはまた貧血だって話だったけど。ちゃんと1人でも飯食ってるのか?」
「食ってますよぉ…」
「そうかぁ。…まあ、早く良くなるといいなぁ」
「…っす」
こんなに面倒を見てもらって悪いけど、良くなる事はきっとないと思う。だっておれは、明日また倒れる未来が想像出来ていても、今日も家に帰れば兄に血を与えるだろうから。
この頃には既に、兄は弱り始めていた。
いつものソファーの上で、ぐったり眠っている時間が増えたように思う。何より明確なのは、日に日に身体が骨ばってきている事だ。
兄が他人の血を吸わなくてもいいようにおれがもっと血をあげる!なんて宣言した結果がこの始末だった。
でも変な所で律儀な兄は、それ程の空腹を常に抱えながらも恐らくおれとの約束だけはまだ守り他人を襲っていないと思う。
だから余計に、歯痒くて悔しかった。
何とか少しでも楽にしてあげたくて、毎日何度も与えられるだけの血を都度兄にあげているというのに、もはや兄の腹は底の抜けたコップのように与えても与えても満ちる気配がない。
兄は口にはしないが、彼の衰弱する様子を見ても、おれ一人分の血の量ではとっくに足りていないのだ。
だからこそ、今どんなに周りに迷惑をかけようと、例えお人好しの隊長が目の前で大層心を痛めていようと、おれは自分のあげられる限界まで兄に血を与える。
それを理由に再び兄が人を襲わないよう、それこそ、たったの数滴も出し惜しむわけにはいかない。
…仮にそれで吸い尽くされたとしても、とうにおれは、兄と共に朽ちる覚悟が出来ている。
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