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やっぱり、白がいい?
しおりを挟む僕の名前は「チビ」である。
同じピレニアン・マウンテンドッグのお兄さん犬の「シロ」より、体が小さいからだ。
まあ、僕たちの名前をきけば、たいていのひとは、単純な名づけ方だなあ、と苦笑するか、がっかりするみたいだ。
何を期待していたのか、さっぱりわからない。
僕たちは、家族に名前を呼ばれるとうれしい気持ちになるのに。
生まれたときは、七匹兄弟の3番目だったから、Camelliaだった。後で、お母さんが教えてくれたけど、生まれた順に花の名前をつけたらしい。一番目はAmaryllis、二番目はBougainvillaea……。
だから、僕の血統を証明する登録書類には、Camellia of Adler's houseとあるらしい。
さて、僕がピレニアン・マウンテンドッグとしては、平均より小さいのには、ちょっと訳がある。
この家に来る前、本当に、小さなころ、ご飯を十分に食べられなかった時期があったからだ。
とはいえ、僕は、小さいころ、ご飯をちゃんと食べられても、シロみたいになれなかったかもしれない。シロは由緒正しき血筋らしく、僕たちのご先祖の生まれ故郷からやってきたル・シアン・ドゥ・モンターニュ・デ・ピレネーだ。毛並みとか、顔の形とかがちょっと違う。エレガントなのだ。
「どっちだって、ピレだ」
「ちがうよー」
「人間だって、顔が違う。毛の色も、大きさも違う。だから、気にすることじゃない」
「そうかな……」
「僕は気にしない」
七匹の兄弟のうち、僕だけ、白い毛並みに、三箇所の茶色いぶちのある、いわゆるマーキングあるの子犬だった。
白い毛並みの兄弟が次々と新しい家族に連れて行かれて、ある日、僕一匹になってしまった。
『やっぱりホワイトじゃないとね……』
と定期的に面倒を見る人間がぼやいていた。
ケージの中に、僕だけになったころには、世話をされる時間が減っていった。ご飯も減って、お腹がさびしいから、ジッとしているようにした。ジッとしていると、少しはマシなのだ。
そんなある日、久しぶりに毛並みを綺麗にしてもらった僕は、見知らぬ人間と、真っ白な犬の前に連れ出された。
それが、今の家族と、お兄さん犬の「シロ」との出会いだった。
あの時、僕は、今しかないと、何かに突き動かされるように、愛想を振りまいて、コロコロ転がった。
たぶん、必死だった。
連れて行ってもらわないといけないと思ったんだ。
人間たちが、
『ホワイトじゃないけど可愛い』
『白い子はいないんですか?』
『生まれたばかりの子しか、今はいないんです。今、お引渡しできるのは、マーキングのこの子だけですね』
とか言っている。
ふと、ジッと動かなかった真っ白な犬と目が合った。
真っ黒な瞳は、何だか、「おいで」と呼ばれている気がして、僕はトコトコと近づいていった。後に警戒心がなさ過ぎる、とシロには言われたのだけど、大丈夫だって思ったのだ。根拠なんてない。ただの勘だ。
迷いなくトコトコ近づいていって、真っ白な犬の懐にもぐりこんだ。
温かくて、気持ちいい。
よく手入れをされた毛並みはつやつやのふかふかで、いい匂いがした。
とっても安心する。
何だか眠くなってきたら、鼻先をちょこんとくっつけられたから、僕もお返しにペロリとなめた。
『シロに懐いてる?』
『家族以外には、警戒心が強いというか、気難しいシロが……』
『家族って、シロが認めてるんじゃないかな?』
『……よし、この子にしよう』
『後で、ホワイトじゃないと嫌だとか、言わないわね?』
『言わないよ、お母さん。わたし、それより、この子を置いていくほうが絶対後悔する』
『うん、僕も賛成』
そっくりな顔をした二人の人間の男の子が、声をそろえて頷いた。
『決まりだな』
あれこれ言っている人間たちを、僕は不安な気持ちで見上げた。
どうなるんだろう……。
震えながら、鼻を鳴らした。
真っ白な犬が、安心しろ、と言わんばかりに、鼻先をもう一度くっつけてくれた。
真っ黒な瞳が、とても優しい。
もうずっと会っていないお母さんみたいだ。
本当に安心してしまった僕は、いつの間にか眠っていて、次に目を覚ましたら、知らない場所にいた。
そこは、綺麗で、とても広い場所で、滑りにくい無垢素材の板張りの部屋だった。いつでも新鮮な水が飲める、水場。犬用扉の先には、遊び場が広がっている。
フカフカの布団の上で、コロンと転がってみる。
状況を飲み込めず、目を丸くしていると、後ろで、もそりと動く気配があった。
真っ白な毛並みのシロが、ゆったりと寝転がっていた。
アーモンドの形をした、真っ黒な瞳が、じっと僕を見つめている。
「お前、僕の弟になった。だから、チビ」
「チビ?」
「お前の名前。さっき、みんなが決めてた。子犬なんだから、当たり前なんだが、僕より小さいから、チビ。センスがないのは諦めておけ」
「嫌じゃないよ?」
「そうか。僕はシロだ」
「シロ」
「白いから、シロ」
シロの尻尾が、パタパタと揺れた。嬉しいらしい。
「シロ」
「チビがおきたら、先生のところに、行くって、お母さんが言ってた」
「せんせいって、なーに?」
お母さんは、なんとなくわかる。群れのボスっていうのは、言われなくても、なんとなく察することができる。
「具合が悪いときに助けてくれる人間だから、安心していい。いい子にしてろよ」
「いいこ?」
「大きい犬が好きなだから、ちょっと撫で回されるが、ジッとしてろよ。ちゃんと悪いところ、直してくれる」
「僕、どこも悪くないよ?」
「体がつらくなってることに気づいていないだけだ」
「つらい?」
シロが言ったとおり、先生こと、動物のお医者さんに、ちょっとどころか、たくさん撫でられた。
これさえなければ、とボヤキながら、シロも僕と一緒にぎゅっとされて、クシャクシャに撫でられている。
先生にあちこち診察してもらったら、本当に、あちこち悪くて、しばらく病院通いすることになった。
少しずつよくなると、遊ぶ時間が増えていったし、ご飯を食べる量も増えていった。
「いつか、シロみたいに、僕も大きくなれるかな?」
「大きくなるだろ。ピレなんだから」
きっと、僕がシロと違って、食いしん坊で、「待て」ができないのは、ご飯をちゃんと食べさせてもらえない時期があったからじゃないかって思うんです。
がんばって、「待て」をしようと思うんだけど、目の前に、おいしいご飯があると、なかなか難しい。
ご飯入れに顔を突っ込んだままの僕をたしなめるように、シロの尻尾が、器用にぺしりとたたいた。
「チビ、ご飯は、なくならないから、落ち着け」
今日も「待て」ができない僕に、シロが溜め息まじりに呟きます。
「急いで食べると、また喉に詰まらせる」
「わかってるんだけど、無理だよ~」
僕には、シロみたいに、落ち着いて、ゆっくり食べるなんてできない。
ご飯は、食べられるときに食べなければいけない、と、どこかで激しく警鐘がなっているのだ。
小さいときに染み付いたことは、簡単には直らないのかもしれない。
でも、いつかはシロみたいに、落ち着きのあるピレニアン・マウンテンドッグになりたい。
「なら、せめて拾い食いはしない。お前が、お腹を壊したら辛いし、みんな悲しむ。ああ、それに、先生のところに連れて行かれる」
雷に打たれことはないけど、雷に打たれたみたいに僕は固まった。
思わず大好きなドックフードが、口から零れ落ちる。
「我慢します!」
先生は嫌いじゃないけど、苦手だ。だって、見つけると、すっごいニコニコして、降参ですとお腹を出すまで撫でてくるのだ。絶対に、先生は、大型犬を撫で回したくて、先生になったに違いない、と僕たちは確信している。
「あ!」
「あ?」
シロが首をかしげた。
「……うっかり拾い食いしそうになったときは、シロ、僕のこと、ちゃんと止めてね? 我慢するけど、自信がないです」
「わかった」
人見知りで、犬見知りなのに、実は面倒見のいいシロは、元からそのつもりだったのか、当然とばかりに頷いた。
「いいの?」
「チビは、僕の弟だから」
「シロ、大好き~」
嬉しくてたまらなくなった僕は、シロに飛びついた。
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次回、「やっぱり、ワンコは、散歩好き?」
僕のお兄さん犬の「シロ」は、散歩が大好きです。
2時間くらい歩いたり、走ったりしても、まだ足りないみたいです。
そんなシロに平然と並走していくのが、近所のペットのアヒルのピーちゃん。
僕のライバルです。
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