王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

101 コルネリアスの弱点

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 後から出発するカレナ達に見送られた私は、待ち合わせの場所になっていた貴族街へと向かった。
 コルネリアスから渡されていた許可証を使って貴族街の門を潜り広場で待つ。少しすると王城のある方角から王家の紋章の入った馬車が数台近づいてきて私の目の前でゆっくりと停止し中からコルネリアスが降りてくる。

「すまない。待たせた」

「今来たところだから大丈夫……そちらの方たちは?」

「後で詳しく話すが城で色々とあってな……二人は母上やメリッサ様の専属騎士でイルミナとメラニーだ。この旅の間、ティアを護衛してもらうことになった」

 コルネリアスが合図を出すと二人の女性騎士が近くに来て騎士の礼をとった。

「正妃護隊長イルミナよ。そしてこちらが」
「わたくしは第二妃護隊長メラニーですわ。陛下の命令でわたくしとイルミナの二人はあなたの護衛を務めることになりましたの」

 二人とも丁寧な言葉と態度を示してくれているが、その視線からは僅かな敵意と見極めようとする意思が滲み出ていた。
 恐らく王や妃の考えに反する私のことが不快なことに加えて、私が変な行動をしないよう監視するように命令を受けているのだろう。
 けれど、そのような状況でも自然と笑みが溢れてしまいそうだった。
 ラティアーナだった頃も直接の接点はなかったが、メラニーはリーファスが幼い頃の教師であり、イルミナは歳の離れたいとこでイリーナから話はよく聞いていた。
 やはり一方的であっても見知った相手と再会することはとても嬉しいものだ。

「私はティアと言います。よろしくお願いしますね」

 私はそんな心のうちを悟られないように努めて挨拶を返した。

「挨拶も済んだことだし早速出発しようか。ティア」

「ありがとう」

 コルネリアスのエスコートで馬車の中へ乗り込むと馬車の中には既にアスカルテが座っていた。
 私はアスカルテの隣に腰を下ろし、コルネリアスと向き合うような形で椅子に座る。
 コルネリアスが合図を出せば馬車はゆっくりと進み出した。

「朝から大変でしたね」

「まさか護衛が付けられるとはね。いきなり騎士の方達と挨拶だったからびっくりしちゃった。随分と厳重な体制だけど何かあったの?」

 私たちの前後にコルネリアスの侍従や荷物を載せた馬車がいて、近衛騎士たちが前後左右を囲むような形で馬に乗って並走している。
 王族や高位貴族の移動であっても護衛の人数が多すぎるくらいだろう。

「わたくしも今朝知ったのですけど……きっかけはコルネリアスの宣言でしょうね」

 コルネリアスはアスカルテからの呆れた視線に対して気まずそうに咳払いをした。

「そろそろ動き出す必要があったのだから仕方のないことだろう?それにこの機会にマギルス公爵家を味方に付けたい思惑もあったし、夏季休暇に入ったいま学園でのことを知られるのも時間の問題だ。ただまあ……ここまで派閥が荒れるとは思っていなかったが」

「第一王子派は私を邪魔に思っていて第二王子派の勢いが増したってこと?」

 第一王子派としてはコルネリアスとアスカルテがそのまま婚姻を結んだ方が嬉しいのだから私を排除したいと考えるだろう。
 反対に第二王子派にとっては何もせずにコルネリアスの王位継承が揺らぎかねないのだから追い風と考えるはずだ。
 けれど、コルネリアスはそうではないと首を横に振った。

「第一王子派はそうだな。昔から可能であれば自派閥か中立派の高位貴族から妃がでればと考えていたようだし、貴族史上主義が多いから高位貴族以外の者が王族に嫁ぐことも反対している。想定外だったのは第二王子派の動向だ」

 コルネリアスはそこまで言うと複雑そうな顔をして口を閉じた。
 理由は分からないが私には聞かせたくない内容のようだ。

「コルネリアスが言いにくいのであれば、わたくしが代わりに話します。王家が得た情報によれば第一王子派のなかにティアの暗殺を考える者たちが、第二王子派のなかにティアを生かしたまま追い込みたいと考えている者たちがいるようです」

「……生かしたまま追い込む?」

 暗殺は理解できるが第二王子派にとっては私がこのままコルネリアスと親しくしていた方がいいはずだ。
 わざわざ面倒なことをしてまで私を追い込みたい理由が分からずに思わず言葉を繰り返すとアスカルテは、あくまで推測と前置きをして教えてくれた。

「コルネリアスは王城の貴族たちの前でわたくしとの婚約を解消するつもりだと宣言しました。ティアのことだけを愛していると言って甘さ駄々洩れで惚気ながら他の女性と関係を結ぶつもりはないと」

「惚気たつもりはない。私の考えを伝えたまでだ」

 コルネリアスが横から苦言を呈したがアスカルテは気にも留めずに話を進めていく。

「王侯貴族の言葉はとても重く過去の発言を故にすることは品格に関わります。歴代の王族のように身分の低い愛人を愛妾として扱い妃に高位の貴族令嬢を置かないということは、陛下や多くの貴族たちがお二人を認めない場合やティアが妃の立場を諦めてしまった場合、コルネリアスは王位継承権を剥奪されることとなります」

「なるほどね。コルネリアスが私を捨てれば嘘をついたことになって自滅。私が妃として社交を行えなければコルネリアスもまた王族としての立場が許されなくなると」

 私の存在自体がコルネリアスの弱点となり縛るための楔になると貴族たちは考えているのだろう。
 私を殺してしまえばコルネリアスが他の女性と婚姻を結ぶ正当な理由となる。だからこそ私を生かしたまま私が妃となる道を閉ざす必要があるわけだ。

「あまりこのような事は言いたくありませんが……貴族たちからすれば妃となる者が重い後遺症を負ってしまったり次代が望めなくなってしまったり、その……婚姻前に……色々とされてしまうと相応しくないと思われてしまいますから」

「ああ、第二王子派は私を殺さない程度に痛めつけて強姦に襲わせようとしているわけね」

 私がついはっきりと言葉にすると二人は顔を赤くして咳き込んだ。

「……第一王子派の仕業に見せかければコルネリアスのを失脚させるだけでなく派閥そのものを弱体化できますから」

「そんなわけで父上たちはティアに護衛をつけることを決めた。ティアの身に何かしらが起きれば貴族たちがどのように動くか予想もできない。二人の妃の専属騎士をつけることでティアの身を守りつつ、それぞれの派閥に対して牽制するためにな。まぁティアのことを監視する目的もあるとは思うが……」

「そこは上手くやるわよ。妃様の騎士だったら仲良くしておきたいからね」

 王侯貴族の常識に照らせば型破りなことをしていることは理解している。だからこそ監視がつけられることも甘んじて受けるつもりだった。
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