王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第11章 壊れかけのラメルシェル

31 飛空船への潜入

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「飛空船は見つけましたけど……どう鹵獲しますか?」

 しばらくの間、隠密行動をしながら基地の中を探索していると大きな倉庫のようなものが見えてくる。
 ただ建物言ってもしっかりとした造りをしているわけではなくて簡易的なものだった。所々に壁はあるものの、一部は屋根もない。柱や骨組みの部分も多く見られる造りだ。
 その中に飛空船の面影が見え隠れする。

「さすがに見つからないでって言うのは無理みたい。だったら必要最小限の戦いで素早く船の中に潜入しよう」

 基地の中では戦闘を避けていたおかげで体力も回復しつつあった。今の私なら短時間の全力の戦闘も不可能ではない。

「できる限り見つかるまでの時間は延ばしたいですね。せっかくの黒羽の働きを無駄にはできません」

 基地の中の兵士たちは大半が黒羽を追っている。戦いになる時間を最低限にして、隠密と強襲を繰り返す黒羽の存在は敵からすれば神出鬼没。様々な場所に満遍なく現れることで狙いも悟らないようにしてくれていた。
 今いるのこの場所も戦いがあった形跡が見て取れる。

「分かってる。策はあるの……昔の知り合いに隠密とか暗殺のプロがいて教えてもらったから」

 エスペルト王国の王の影でもあるノーティア公爵家。そして、その当主にして同い年の友人であるブラッド。
 私が王として暗殺を命じたことはなかったけれど、隠密や諜報を束ねるノーティア公爵家は代々暗殺術についても継承され続けていた。そんなブラッドが暗殺術の極意を教えてくれたことがある。

「要はね、暗殺にしろ隠密にしろ人に見つからなければ良いの。今回だったら船の近くにいる兵士の数が少ないでしょう?だから、騒がれて連絡される前に無力化。あとは倒した兵士を見えない場所に運べば完璧よ」

 隠密行動は結局のところ人に見つからずに遂行できれば問題ない。理想は誰にも見つからずに目的を達成することだろうが、、目撃者を全ていなくしてしまえば結果としては同じになる。

「全く……無茶なことを言いますね」

 自信満々に言い切った私に対して、紫陽は呆れた視線を向けてくる。

「でも賛成でしょう?」

「無茶だと思いますけど不可能ではないですから。手早く行かなければなりませんね」

 私は紫陽と視線を合わせると互いに頷いた。
 次の瞬間には二人同時に飛び出していて近くにいた兵士へと接近する。

「って!?」

 敵の口が開いた瞬間、私の掌底が身体の中心を捉えた。触れると同時に雷撃を流して意識を刈り取る。

「縛鎖」

 次いで紫陽が小声で力の篭った言葉を紡ぎ魔力の鎖を生み出す。それを倒れる敵に括り付けると遠くの茂みへと投げ飛ばした。
 さらに兵士たちがこちらに来る前に柱などの陰に隠れながら奥へと進んでいく。

 道中で何人かの敵にも遭遇するが、基本的に三人一組で行動しているようだった。先制攻撃で敵が反応する前に意識を刈り取り、残りの敵が声をあげる前に沈めていく。

 そうして格納庫の中へ飛び込むと物陰へと身を潜めた。

「船の周りは流石に人が多いね」

「ですが、ここまで来た以上は時間をかけるわけにはいきません。覚悟を決めましょう」

「そうだね。ばれたとしてもここにいる敵を全滅させて船を奪おう」

 私たちは一度目線を合わせると同時に飛び出した。
 すると、格納庫にいた兵士たちの視線が一斉に私たちを捉える。いきなり現れた私たちを見て驚きを隠せないようだった。

「見張りはな……」
「早く援軍を呼!?」

 敵が驚きの声を上げるのと同時に魔力弾を生成して一斉に射出する。単純に弾丸の強度と弾速のみに特化させた六つの魔力弾は、敵の鳩尾に命中して身体ごと吹き飛ばす。
 さらに、少し離れたところにいる兵士に向けて紫陽が飛び込んだ。距離を詰めると同時に桜陽を抜刀して剣腹で叩きつけて三人を沈めた。

「雷弾」

 さらに雷の弾丸を五つ同時に放つ。
 バチバチと音を立てて突き進んだ弾丸は敵兵の近くで大きく弾けると五つの弾丸が連鎖して大きな雷のドームを作り出す。
 それによって、煙を上げながら七人の兵士が崩れ落ちた。

「これで全員かな?」

「恐らくは……気配はなさそうです」

 敵が他にいないことを確認した私たちは、そのまま船の中を目指して走り出した。
 だが、紫陽は船の近くまで来たところで急に立ち止まり後ろへ振り返る。

「先に行ってください。ティアさんが船の出発準備を終えるまでの間、私はここで敵を抑えます」

 極力ばれないように立ち回っているが新しい兵士たちが様子を身に来てしまえば一気に騒ぎになってしまう。
 その時に敵が船の中まで追ってくる分には構わないけれど、船を破壊されてしまうと厄介だった。

「しばらくの間お願いね」

 この場を紫陽に任せて、私は船の入り口になっている扉の前に立つ。取っ手の部分を回して扉を開けようとするが、鍵が掛かっているようでびくともしなかった。

『プレアデス。中から鍵を開けられたりしない?』

『ちょっと待ってね……あ、これかしら』

 プレアデスに実体化しないまま飛空船の中を探ってもらうと、それらしいレバーがあるようだった。実体化した状態でレバーを上げてもらうとガチンと金属音が鳴り響く。
 再度、取っ手に力を込めると僅かだが回転をはじめた。

「かたいけど……これで、どう!?」

 身体強化を行使して力任せに回すことでようやく扉が開く。
 そのまま飛空船の中に入ると誰もいない静かな空間が広がっていた。
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