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第13章 2度目の学園生活
45 切り札を増やすために
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「この辺りでいいかな……近くに誰もいないよね?」
「私の眼で見ても大丈夫よ。人の姿も気配もないわ」
ドルマク工房を訪れた翌日。
私はプレアデスと共に王都と学園都市の間に存在する森へと来ていた。この辺りの森の奥深い場所では比較的強い魔物が出現するため魔物の素材を集めている冒険者などにとっては重宝する場所でもある。
「それはよかった。心置きなく桜月を解放できそうだね」
私がここに来た理由は桜月の解放を使いこなせるようにするためだ。
常闇の大迷宮で桜月を解放した際には、満身創痍な状態だったとはいえ短い間に最低限の解放を維持するだけで限界を迎えてしまった。このままでは流石に博打が過ぎるというものだろう。
「正直なところ桜月の解放はおすすめしたくないのだけどね……せめて貴方の魂が完全に治ってからの方が良いのだけれど……」
「私もそのつもりだったんだけどね。でも、そうはいかないらしい」
友好的な精霊は良いとしても、ラティアーナの頃から悪獣や悪魔といった魔力生命体から襲われることに定評がある私だ。常闇の大迷宮でも戦うことになったことを考えればこの先も魔力生命体との戦闘は避けられない気がしていた。
「ティアとして生まれ変わってからも対悪魔用の対策は考えているけど、私が今持てる手段の中で一番効果が高いのは夜月や桜月なんだよね」
「それは仕方がないわよ。大昔の人と悪魔が争っていた時代でさえ対悪魔用の聖剣を使う以外では魔力を削るしかなかったのよ?」
「分かってる。だからこそ、使える切り札はできるだけ増やしておきたい」
災害などでもそうだが滅多に起きないような想定外の事象は大抵一度くらいは身の回りで起きるものだ。そして、実際に何かが起きてから対策をしても、ありがたいことに次は起こらず取り越し苦労で済むことが多いだろう。
私は可能な限りあらかじめ備えておきたい主義だ。もの凄く準備や手間がかかるなら別だが、少しのリスクくらいは甘んじて受け入れるつもりだ。
「仕方がないわね……もし魂が侵食されそうになった時は無理矢理介入するから安心するといいわ」
「ん。プレアデスならなんとかしてくれるって信じてるから」
プレアデスは少し呆れた表情をすると隣に立つ。少しでも手を動かしただけで触れることができるくらい近い距離だ。
「桜月」
前回と同じように僅かに魔力を流して名前を呼ぶと、桜月から膨大な記憶や想いが流れ込んでくる。それらは経験を追体験するかのように頭の中へ流れてくるが、自他の記憶を区別することで自己を強く保つようにする。
「ふぅ……」
何度やっても慣れることはできなさそうな感覚に思わず大きな息をついた。
「話には聞いていたけど、こうして実際に見ると凄いわね。並大抵の人は、この流れてくる記憶だけでも廃人になりかねないもの」
「似たような経験があるおかげかもね……いくよ」
息を整えた私は、桜月に込める魔力の量を僅かに増やした。そのまま桜月の奥深くへ干渉しようとすると、今までとは比較にならないほどの衝撃が私を襲い、視界は真っ白に染まった。
「……ィア……ティア!」
「っ……プレアデス?……私は一体……」
呼びかける声に気付いて目を開けるとプレアデスが心配そうな表情で覗き込んでいた。どうやら桜月の解放に耐えきれなかったらしく意識を失ってしまったようだ。
「よかった……魂は無事だけど呼んでも反応がなかったから焦ったわ」
「どれくらい気を失ってた?」
「ほんの僅かな間よ。大丈夫そう?」
プレアデスの膝の上から身体を起こして体内に循環している魔力を僅かに増やしてみる。魔力の制御も魔力の流れも特に問題はなさそうだった。
「大丈夫。おかしいところはないかな」
「なら良いけど……やっぱり桜月を独力で使いこなすのは厳しいと思うわよ?」
「そうだね。少しでも桜月の奥深くに手を伸ばそうとすると、途端に内包されている魂に呑み込まれそうだった。それに一瞬だったけど悪魔の力が見えた気がしたわ」
「ティアが戦った悪魔の魂ね。雑多の……完全じゃない人の魂たちでさえ人1人の魂は呑み込みかねないわ。ましてや魂が桁違いに強すぎる悪魔のものを身に宿したらどうなるか想像もできない。自殺行為よ」
「でも人の身でそうした相手と渡り合うには、どうしても力が足りないもの……無謀なことはしないけど無茶くらいはしないとね」
桜月の眠っている魂を自身に宿すのではなく魂の一部や悪魔の力だけを扱うことができれば自力でも制御できる可能性がある。あるいは桜月に眠る魂の中から1つを選択することができれば自身に宿すことも不可能ではないのかもしれない。
そのことをプレアデスに伝えてみると「理論上は可能だけど……」と言葉を詰まらせていた。
「だったら何かしらの方法を考えないとね……申し訳ないけど付き合ってもらえる?」
「仕方ないわね。ただし私と同調しなさい。その方が危険は少ないし桜月を上手く扱えるはずよ」
その後、王立学園に戻るまでの2日間を使ってプレアデスと共に桜月の解放を試すことにした。
「私の眼で見ても大丈夫よ。人の姿も気配もないわ」
ドルマク工房を訪れた翌日。
私はプレアデスと共に王都と学園都市の間に存在する森へと来ていた。この辺りの森の奥深い場所では比較的強い魔物が出現するため魔物の素材を集めている冒険者などにとっては重宝する場所でもある。
「それはよかった。心置きなく桜月を解放できそうだね」
私がここに来た理由は桜月の解放を使いこなせるようにするためだ。
常闇の大迷宮で桜月を解放した際には、満身創痍な状態だったとはいえ短い間に最低限の解放を維持するだけで限界を迎えてしまった。このままでは流石に博打が過ぎるというものだろう。
「正直なところ桜月の解放はおすすめしたくないのだけどね……せめて貴方の魂が完全に治ってからの方が良いのだけれど……」
「私もそのつもりだったんだけどね。でも、そうはいかないらしい」
友好的な精霊は良いとしても、ラティアーナの頃から悪獣や悪魔といった魔力生命体から襲われることに定評がある私だ。常闇の大迷宮でも戦うことになったことを考えればこの先も魔力生命体との戦闘は避けられない気がしていた。
「ティアとして生まれ変わってからも対悪魔用の対策は考えているけど、私が今持てる手段の中で一番効果が高いのは夜月や桜月なんだよね」
「それは仕方がないわよ。大昔の人と悪魔が争っていた時代でさえ対悪魔用の聖剣を使う以外では魔力を削るしかなかったのよ?」
「分かってる。だからこそ、使える切り札はできるだけ増やしておきたい」
災害などでもそうだが滅多に起きないような想定外の事象は大抵一度くらいは身の回りで起きるものだ。そして、実際に何かが起きてから対策をしても、ありがたいことに次は起こらず取り越し苦労で済むことが多いだろう。
私は可能な限りあらかじめ備えておきたい主義だ。もの凄く準備や手間がかかるなら別だが、少しのリスクくらいは甘んじて受け入れるつもりだ。
「仕方がないわね……もし魂が侵食されそうになった時は無理矢理介入するから安心するといいわ」
「ん。プレアデスならなんとかしてくれるって信じてるから」
プレアデスは少し呆れた表情をすると隣に立つ。少しでも手を動かしただけで触れることができるくらい近い距離だ。
「桜月」
前回と同じように僅かに魔力を流して名前を呼ぶと、桜月から膨大な記憶や想いが流れ込んでくる。それらは経験を追体験するかのように頭の中へ流れてくるが、自他の記憶を区別することで自己を強く保つようにする。
「ふぅ……」
何度やっても慣れることはできなさそうな感覚に思わず大きな息をついた。
「話には聞いていたけど、こうして実際に見ると凄いわね。並大抵の人は、この流れてくる記憶だけでも廃人になりかねないもの」
「似たような経験があるおかげかもね……いくよ」
息を整えた私は、桜月に込める魔力の量を僅かに増やした。そのまま桜月の奥深くへ干渉しようとすると、今までとは比較にならないほどの衝撃が私を襲い、視界は真っ白に染まった。
「……ィア……ティア!」
「っ……プレアデス?……私は一体……」
呼びかける声に気付いて目を開けるとプレアデスが心配そうな表情で覗き込んでいた。どうやら桜月の解放に耐えきれなかったらしく意識を失ってしまったようだ。
「よかった……魂は無事だけど呼んでも反応がなかったから焦ったわ」
「どれくらい気を失ってた?」
「ほんの僅かな間よ。大丈夫そう?」
プレアデスの膝の上から身体を起こして体内に循環している魔力を僅かに増やしてみる。魔力の制御も魔力の流れも特に問題はなさそうだった。
「大丈夫。おかしいところはないかな」
「なら良いけど……やっぱり桜月を独力で使いこなすのは厳しいと思うわよ?」
「そうだね。少しでも桜月の奥深くに手を伸ばそうとすると、途端に内包されている魂に呑み込まれそうだった。それに一瞬だったけど悪魔の力が見えた気がしたわ」
「ティアが戦った悪魔の魂ね。雑多の……完全じゃない人の魂たちでさえ人1人の魂は呑み込みかねないわ。ましてや魂が桁違いに強すぎる悪魔のものを身に宿したらどうなるか想像もできない。自殺行為よ」
「でも人の身でそうした相手と渡り合うには、どうしても力が足りないもの……無謀なことはしないけど無茶くらいはしないとね」
桜月の眠っている魂を自身に宿すのではなく魂の一部や悪魔の力だけを扱うことができれば自力でも制御できる可能性がある。あるいは桜月に眠る魂の中から1つを選択することができれば自身に宿すことも不可能ではないのかもしれない。
そのことをプレアデスに伝えてみると「理論上は可能だけど……」と言葉を詰まらせていた。
「だったら何かしらの方法を考えないとね……申し訳ないけど付き合ってもらえる?」
「仕方ないわね。ただし私と同調しなさい。その方が危険は少ないし桜月を上手く扱えるはずよ」
その後、王立学園に戻るまでの2日間を使ってプレアデスと共に桜月の解放を試すことにした。
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