夏夜の帰り道

鵜海 喨

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「いってきまーす」

 私は酷く眩しい世界に歩きだしていく。時刻は、八時を過ぎた頃だろうか。小さな庭を挟んだ先、君が居た。
 四月の少しの冷淡さは背中を撫で、悪寒が首裏に走る。蛇見つかった蛙のような気分。

 何も知らない雀は飛び去って、烏は笑い、鳩は歌った。私は一歩後退った。一歩だけ。バレないように。悟られないように。

「おはよう」
 と変わらず手を振り、健やかにそして爽やかに笑う君の顔が見難い。モヤがかかっているようで落書きもされている。
 でも私は微笑んだ。そして「おはよ」って。そう言ったんだ。言えてしまうんだ。

 私のスイッチは入り変わる。いつも通りの元気な私に。それもとびきり明るくて何も知られないように。

「いこっか。毎朝ありがとね」

 そう君の横を歩いて笑うんだ。

 何事も変わらない日々、それで良いのかもしれない。ただ私に構う君は時間を無駄にしている気がして。でも、どこか無駄にしても一緒に居てくれる事が嬉しくて。断れなくて。意味なんてないのに。断らないといけないのに。
 あれ、でもおかしいな。私に割く時間なんて勿体ないのに。知ってるのに君を引き止めてる私が嫌いだ。

 鈍色に見える快晴は、次第にその彩度を取り戻していく。そうしていく。そうしなければならない。
「今日の時間割何だっけ、私忘れちゃってさ。あはは...」
 横を歩く君の顔を覗き込んで、目を見ながら私は言う。

「えーっと。僕も忘れちゃった。確か三限目が生物だっけ?」

 困った顔をして「笑う」君。
「って事は江藤先生の授業かぁ、私苦手なんだよね。わかりにくいと言うか、なんか教え方が下手って言うか、独特と言うか」
「あー分かる。例え方が独特」
「わかる? 変だよね」
「うん。変」

 太陽が登っていく。いつも通りの通学路、一軒家が立ち並び、ベットタウンだと体現している。学校はそんな街の中に有って、各々徒歩や電車、自転車で通う日々をしている。
 皆楽しそうに過ごしている。

 そう、私も。
 
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