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17.今回は見せしめだ
しおりを挟むその日、あたしは王都にある花街に向かった。
週が明けてデイブから連絡があり、情報の整理や王都の表と裏への根回しが済んだとのことだった。
王都の西にはコロシアムがあって、その近くに貧民街がある。
ここまではあたしも知っていたのだが、そこから中央寄りの区画に花街があるようなのだ。
以前寮母さんが貧民街に近づくなと言っていたのは治安のこともあったのだろうけど、歓楽街に学院の生徒を近づけさせたくないという判断があったんだろう。
あたしたちは気配を消して夜の王都を走る。
今日のメンバーはデイブとブリタニー、ジャニスにあたしを入れて四人だ。
みな意匠は違うが黒い戦闘服を纏っていて、あたしもソーン商会で買った黒のロングコート他を装備している。
その全員が口元など顔を黒っぽいスカーフで覆い、腰に短剣と片手斧を装着していた。
程なくあたしたちは目的地である酒場の近くまで来た。
路地裏から店の正面を伺うが、それなりに客の出入りはあるようだ。
事前の打ち合わせで、リンジーの幼なじみのジャロッドからの証言内容を聞いた。
彼はこの店が、民間療法で使われる特殊な薬湯を出すという謳い文句で知ったそうなのだ。
医学を学んでいたジャロッドはこの話に興味を持ち、違法薬物を身体に入れることになってしまったらしい。
経口前の事前処理によるものか、ジャロッドが口にする前に【鑑定】を使っても危険性を判別できなかったようだ。
打合せで話を聞いていたブリタニーが、真っ黒じゃねえかとかいって激昂していた。
「別段警戒してる様子もねえな。ブリタニー、お前は店の前で待機して逃亡する関係者がいたら無力化しろ。おれは裏口を手当てする」
「あいよ」
「ジャニス、ウィンのバックアップと責任者の身柄確保だ」
「……了解」
「お嬢、入口の金髪の男が見えるだろ。片手剣を装備してるあのチンピラだ。あいつをぶった切ったら仕事開始だ。姿を隠さず店の中に入れ。今回は見せしめだ、魔法だの武器だのを向ける奴は全部ぶった切ってくれりゃいい」
「分かった」
「最後の確認だが、ウィンのお嬢。できるな?」
「オオカミの群れよりは楽でしょ。……怒りも突き抜けると笑えて来るのね。――任せて」
「よし、開始だ」
デイブがそう告げると、あたし以外の三人の気配が消えた。
あたしは目的の店へと歩き出した。
あたしはチンピラに近づき、目の前に立って観察する。
すでに両手には武器があるが、こちらの間合いになっても警戒するそぶりも見せない。
「何だガキその短剣と手斧は。強盗でもしようってのか? ぎゃはははは、とっとと家に帰って薪割りでも――」
どうしようもなく雑魚なので、自身の暖気がてら地属性魔力を込めた四撃一打――四閃月冥を連続で放って両手足を落とす。
風属性魔力を使う四閃月冥の裏よりは切断面が荒くなるけど、気にせずに次に備える。
あたしの傍らで吹っ飛ぶように崩れた男がようやく斬られたことに気づいたのか、大きな叫び声を上げる。
「なんだ殴り込みか!? ……ガキか!? くそがっ!」
一人目の男の血だまりを避けつつ、異変に気付いて酒場の玄関から男が出て来ようとする。
そいつも剣を装備していたが、抜剣しようとするところに四閃月冥の裏を連続で入れて両手足を落とす。
床に転がってから叫び声を出す男を素通りして、気配を遮断せずに歩いて店の中に入る。
店の中はそれなりの広さがある。
天井は吹き抜けになっていて一階奥には階段があり、二階に上がれるようになっている。
客はそれなりに居たが異変に気づいたらしく、みな大慌てで裏口に向かったり、あたしから距離を取りながら店の玄関側の窓から飛び出してわれ先に逃げ始めた。
その様子をそれとなく見ていたが、地属性の魔力が集まる気配がした。
魔力量から【石つぶて】と判断する。
両手の武器に魔力を込めた状態で回転を付けてそいつに投げる。
射線を外しながら接敵して、相手の両手を切り落とした武器を魔力で手の中に引き寄せる。
奥義・月転陣という技で、絶技の前段階として練習する。
本来は回転する武器を円の軌道で大きく回し、巨大な回転のこぎりのようにして間合いの中を斬りまくる。
あたしは手の中の武器を振るって、魔法を放った奴の両足を落とす。
直後に三人がそれぞれ別方向から剣で同時に突いてきたので、すり抜けて回避しながら絶技・月爻を複数回放って全員の両手足を落とす。
ここまでで六人。
殺気を感じたので移動すると矢が近くに刺さるので、弓矢による攻撃だと認識する。
射線の角度と殺気の方向から、吹き抜けで一階を囲むようにテラスになっている二階から撃たれていると判断する。
矢を避けるように速度を出して移動しつつ奥の階段へ向かう。
人数を確認すれば敵は四人。
内在魔力を循環させ身体強化などを強めて移動速度を上げる。
その状態で階段の手すりを駆け上がり、吹き抜け部分の二階の壁を床のようにしてぐるりと一周走りながら、すれ違いざまに月爻で標的全員の両手足を順に落とす。
ここまでで合計十人。
そこからは作業だった。
歩きながら二部屋ほど確認して応戦する者三名の両手足を落とし、二階のいちばん奥の部屋にたどり着いた。
事前に聞いていた外見的特徴の責任者らしき男がいた。
あたしが扉を開けて部屋に入ると、剣を抜いた状態で顔を青くしてこちらを睨んでいた。
「何だ貴様は!」
男が叫んだ直後に傍らにジャニスが現れ、素手で魔力を込めない四撃一打をみぞおちに叩き込み意識を刈り取った。
この後は男を拘束してズタ袋に入れて連れ去り、事務所内から証拠になりそうなものを集める手はずだった。
「斬った奴ら止血だけしてきていい?」
「……血を止めるだけなら好きにしろ。こっちはやっておく」
周囲の気配を探りながら手足を落とした奴らを順に周り、水属性の【治癒】を使って全員の止血を行った。
あたしが二階に戻ると、ジャニスは作業を終えて通信の魔法でデイブと何かを話していた。
「そろそろ撤収するか?」
「ちょっと待って、警告のメッセージを残したい」
「徹底してるな。……まあいいだろう、文面は?」
あたしが文面を伝えるとジャニスはちょっと待てと言って部屋を出て、あたしが斬り落とした誰かの腕を持って戻ってきた。
「……こんなもんだろ。行くぞ」
「うん」
――子どもには売るな。次は皆殺す。
責任者を確保した部屋の壁には、大きく血文字でメッセージが書かれていた。
王都の花街で流行っている娼館の一つに“茉莉花の羽衣”がある。
その店の奥の奥に事務所があり、女が部下から報告を受けていた。
女は花街の顔役の一人で荒事にも慣れており、彼女の情報網は花街や貧民街のみならず王都中に行き渡っていた。
スレンダーながら出るところが出ている彼女の服装は、娼館の中で過ごすには経営者を思わせるような品がいい仕立てだ。
年齢不詳な艶やかな表情と相まって、女はある種の貫録を纏っていた。
「報告は以上ですが、なにかありますでしょうかマルゴー様」
「いや、だいたい分かったよ。“青松”が珍しく店に来たかと思えば仁義を切りに来たとかで何事かと思ってたんだが……」
「青松が動いたにしては派手なことになったようです」
「そうだねぇ。……たまには遊んできゃいいのにあの野郎」
「嫁がうるさい方でしたから、それはないでしょう」
「そんなことは分かってるんだよ! やれやれ。それで、花屋の小娘以外にも月転流のお嬢ちゃんが居たってことだったが、どのくらいやりそうだい?」
「現場にいた者の話では、キレ味だけなら青松に並ぶそうです」
それを耳にしたマルゴーは一瞬遠い目をして呟く。
「つくづく月転流はバケモノばっかりだね」
「話を聞くだけでは確かにそうなのですが、現場を見張らせた四名が揃って『可憐だ』だの『惚れた』だの馬鹿なことを漏らしておりました」
「へぇ」
「挙句は俺に報告した後に『二つ名を考えるんだ』とか言って、それぞれ頭を捻っておりました」
「……はぁ。まあ、その辺は好きにさせときな。それで、どのみち連中はリーダーが拉致られたし、お嬢ちゃんにジャガイモよろしくカットされて床に転がったんだろ? ジョージ、使えそうなのはお前が選んで、【回復】で手足をつなげてうちに入れちまいな」
「分かりましたマルゴー様」
そうしてマルゴーはジョージを下がらせた。
マルゴーにとっては今回の見せしめは起こるべくして起きた結果だ。
子どもに違法薬物を流し裏町の流儀に反した以上、いずれは誰かが動いただろう。
だが、拉致されたリーダー格の上に居る者が、マルゴーの情報網でも追い切れていないことに懸念を持っていた。
「うちの商売に影響が無きゃいいがねぇ」
そんなことを呟きながら彼女はベランダに出て、夜空の月へ視線を移した。
あたしが拠点に踏み込んでから二日後、王都に激震が走った。
王都ブライアーズ学園の少なくない数の生徒が、違法薬物の被害に遭っていることが新聞で報じられたのだ。
詳細な人数は捜査中を理由に秘されたが、薬漬けにする幾つかの手口が明らかにされた。
人体への悪影響についても報じられていたので、今後一般人が手を出すケースは減るだろう。
学院でも問題視されたようで、ホームルームの際に担任のディナ先生がひどく真剣な目で注意を促していた。
リンジーの幼なじみのジャロッドについては完全に被害者として扱われることになった。
治療の結果、脳を除く臓器については元通りになったようだ。
脳については迂闊に魔法で治そうとすると記憶障害などにつながる場合があるらしく、ある程度時間をかけて治療することになったようだ。
それでも休学という扱いになり、退学は免れることになった。
一度リンジーの様子を見に学園に行ったら、何やら幸せそうな表情になっていた。
先のことは分からないけれど、今まで悩んでいたことが解消されて気分的に楽になったみたいだ。
あたしがデイブを動かしたことは知っていたので、その件はハグ付きでリンジーから感謝された。
王都の商業地区の建物の一室で、男が遠距離通信の魔道具を使って誰かと話し込んでいた。
それを終えてから男は窓の外に視線を移す。
「結局、どんなものも売り方でしょう。――売る相手や使い方が変わるだけで、客がいるなら商人は売るだけですからな」
そう呟きながら、男は窓の外の大通りを眺めていた。
「わたしたちの仕事にはお金が要る以上、手を変え品を変えてまだまだ稼がねばなりませんよね、侯爵閣下?」
男の目には窓の外を行きかう者たちが、ひどく不安定なものの上に立っているように感じられた。
そしてそれはまた自らも同様であることを思い、男はひとつ嘆息した。
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