幸福の星

有村朔

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私は手紙を胸に泣いていた。
それはあの日のような悲しい涙ではなくて、幸せであるがゆえにあふれる涙だった。

自分がこんなにも大切に思われ、愛されていたことを私は知らなかった。
このこみ上げてくる感情の正体は、一体何なのだろう。

悲しみと喜びとそれ以外の何か、とても大切なもの。

手紙はあと一枚だけ残っていた。
私は涙を拭い、最後の一枚に目を通す。

『最後に、君に伝えておきたいことがある。
さっきも書いた仮説の話。

もしも僕が考えたように、未来の何かが君には見えるのだとして、あの日の君の目には一体何が映ったのだろう。

もしも過去や未来が見えていたとして、それがどうしようもなく悲しく、それでいて避けられないものなのだとしたら、君はそれを不幸と思うのだろうか。

僕と出会ったことも、手を重ね合わせたことも、過ごした時間も、全てを後悔するのだろうか。

仮に未来を見た上で、過去に戻れる手立てがあったとしたら、君は傷つかないように、僕と出会わない未来を選ぶのだろうか。

僕には過去に戻ることも未来をみることも出来ないけれど、もしもそんな力があったとしても、僕はきっと同じ選択肢を選ぶんだと思う。

君と出会い、君に触れて、君を想う生き方を、全部知った上でもう一度選ぶんだ。
それでどれだけ傷つこうとも、君と出会わない未来にはきっと何の価値もない。

僕は君を愛しているし、君と出会えて本当に幸せだと今でも心からそう思っている。
その想いだけはどんな未来が訪れようと、変わることはないだろう。

君の方はどうだろう。
何を思い、何を考え、どういう選択をするのだろう。
もしも、もう一度だけ君に会えたなら、僕はその答えを知りたいと思う』

手紙はそこで終わっていた。
私は空を見上げて彼の姿を探す。
あの眩く光っている星がそうだろうか?

いや、彼はもう少し控えめに輝いているに違いない。
優しく、穏やかで、あたたかな光。
私を見守り、微笑んでいてくれる、そういう光だ。
きっとそうだ。

今日この惑星にたどり着いた時、私はひどく悲しかった。
寂しくて、苦しくて、息の仕方も忘れるほどの深い悲しみに暮れていた。
それはきっと孤独を感じていたからだった。
一人きりだと認識すると、途端に全身の力が抜けた。

彼のことを知る前までは孤独なんて知らなかった。
時という点と点が連なったことで、過去や未来に意味を見出すようになっていた。
それは私を大いに傷つけるものでもあったけれど、その代償に得たものこそが、誰かを愛するということなのかもしれない。

以前はこんな風には考えなかったし、私はここに来て随分と弱い生き物になってしまったような気がする。
変わったことを実感する。

しかし、それを煩わしく思うだとか、ましてや、彼との出会いをなかったことにしてしまいたいなんて考えは一切浮かばなかった。
何も変えられなかった自分自身に思うところはあっても、それで深く苦しんだとしても、あの日あの時出会えたことをなかったことにはしたくない。

どれだけ胸が張り裂けそうな悲しい未来が訪れようとも、それは私も変わらない。

「私も、あなたと同じです」

愛している。
そう言いかけて、途中でやめた。

少しばかり考えて、私はただ、届くかも分からぬ遠くの空に自分の気持ちを打ち明ける。

「…あなたの惑星の言葉では、少し足りないみたいです」
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