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ガタゴトと揺れる馬車の音だけが、沈黙の中に響いている。
昨夜の断罪劇から一夜明け、私の人生は劇的に変わった。
公爵令嬢としての贅沢な暮らしも、きらびやかな夜会も、すべて失った。
けれど、今の私にはそれ以上に価値のある「宝物」が目の前にいる。
「……あの、エリシア様」
「はい! 何でしょうか、カイル様。お名前を呼んでいただけて光栄です!」
私が食い気味に返事をすると、カイル様はわずかに眉を寄せた。
その困り顔すら、国宝級の美しさだ。
「……先ほどから、ずっと私を見ておられますが。何か、お顔に付いていますか?」
「いえ、付いているのは『美しさ』と『尊さ』だけです。一秒たりとも見逃したくなくて」
「…………」
カイル様は黙って視線を逸らした。
冷たい態度に聞こえるかもしれないが、耳の端がかすかに赤くなっているのを私は知っている。
ゲームの知識によれば、彼は女性に免疫がない「超」がつくほどの堅物騎士なのだ。
攻略対象外だったからこそ、その純情さはファンの間でも伝説だった。
「カイル様、喉は渇いていませんか? 私の分の水、差し上げましょうか。あ、それとも間接キスになってしまうから嫌でしょうか?」
「結構です。予備の水はありますし、あなたはご自分の体調を一番に考えてください」
「まあ、私を心配してくださるなんて。やっぱりカイル様は騎士の鏡ですね!」
「……仕事ですから」
ぶっきらぼうな答えだが、突き放すような冷たさはない。
私はふと、馬車の外へ視線を向けた。
遠ざかっていく王都。
本来のシナリオなら、エリシアはここで絶望し、暗い修道院で復讐心に燃えながら死んでいくはずだった。
けれど、今の私は違う。
隣に推しがいる。それだけで、この追放劇は「聖地巡礼ツアー」に変わる。
「カイル様。私は、今の生活がこれまでの人生で一番幸せですわ」
「……本気で言っているのですか?」
「ええ。地位も名誉も、あんな浮気性の王子も、私には必要ありませんでした」
カイル様が、不思議そうにこちらを凝視した。
鉄仮面のような表情の下で、彼が何を考えているのか知りたい。
「……あなたは、もっと我がままで、周囲を困らせる方だと聞いていました」
「あら、それは否定しませんわ。でも、今はそのエネルギーをすべて、あなたを愛でるために使いたいんです」
「…………」
また沈黙。
けれど、今度は気まずいものではなかった。
馬車が大きく揺れた瞬間、私の体がふわりと浮きそうになった。
反射的に、カイル様の逞しい腕が私の肩を支える。
「……危ない。……しっかり座っていてください」
「……っ。ありがとうございます、カイル様……!」
その手の温もりに、私の心臓が爆発しそうになる。
ああ、もう。没落して本当に良かった。
「あの……カイル様。もしよろしければ、目的地に着くまでの間、私と少しだけ『恋人ごっこ』をしてみませんか?」
「却下します」
「即答!? でも、そこが素敵ですわ!」
私の推し活ロードは、まだ始まったばかりだ。
昨夜の断罪劇から一夜明け、私の人生は劇的に変わった。
公爵令嬢としての贅沢な暮らしも、きらびやかな夜会も、すべて失った。
けれど、今の私にはそれ以上に価値のある「宝物」が目の前にいる。
「……あの、エリシア様」
「はい! 何でしょうか、カイル様。お名前を呼んでいただけて光栄です!」
私が食い気味に返事をすると、カイル様はわずかに眉を寄せた。
その困り顔すら、国宝級の美しさだ。
「……先ほどから、ずっと私を見ておられますが。何か、お顔に付いていますか?」
「いえ、付いているのは『美しさ』と『尊さ』だけです。一秒たりとも見逃したくなくて」
「…………」
カイル様は黙って視線を逸らした。
冷たい態度に聞こえるかもしれないが、耳の端がかすかに赤くなっているのを私は知っている。
ゲームの知識によれば、彼は女性に免疫がない「超」がつくほどの堅物騎士なのだ。
攻略対象外だったからこそ、その純情さはファンの間でも伝説だった。
「カイル様、喉は渇いていませんか? 私の分の水、差し上げましょうか。あ、それとも間接キスになってしまうから嫌でしょうか?」
「結構です。予備の水はありますし、あなたはご自分の体調を一番に考えてください」
「まあ、私を心配してくださるなんて。やっぱりカイル様は騎士の鏡ですね!」
「……仕事ですから」
ぶっきらぼうな答えだが、突き放すような冷たさはない。
私はふと、馬車の外へ視線を向けた。
遠ざかっていく王都。
本来のシナリオなら、エリシアはここで絶望し、暗い修道院で復讐心に燃えながら死んでいくはずだった。
けれど、今の私は違う。
隣に推しがいる。それだけで、この追放劇は「聖地巡礼ツアー」に変わる。
「カイル様。私は、今の生活がこれまでの人生で一番幸せですわ」
「……本気で言っているのですか?」
「ええ。地位も名誉も、あんな浮気性の王子も、私には必要ありませんでした」
カイル様が、不思議そうにこちらを凝視した。
鉄仮面のような表情の下で、彼が何を考えているのか知りたい。
「……あなたは、もっと我がままで、周囲を困らせる方だと聞いていました」
「あら、それは否定しませんわ。でも、今はそのエネルギーをすべて、あなたを愛でるために使いたいんです」
「…………」
また沈黙。
けれど、今度は気まずいものではなかった。
馬車が大きく揺れた瞬間、私の体がふわりと浮きそうになった。
反射的に、カイル様の逞しい腕が私の肩を支える。
「……危ない。……しっかり座っていてください」
「……っ。ありがとうございます、カイル様……!」
その手の温もりに、私の心臓が爆発しそうになる。
ああ、もう。没落して本当に良かった。
「あの……カイル様。もしよろしければ、目的地に着くまでの間、私と少しだけ『恋人ごっこ』をしてみませんか?」
「却下します」
「即答!? でも、そこが素敵ですわ!」
私の推し活ロードは、まだ始まったばかりだ。
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