その悪役令嬢が私ですが?

愛野かこ

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王子が去ってから数日。
辺境の修道院には、穏やかながらもどこか落ち着かない空気が流れていた。

カイル様は王都へ戻るはずだったが、王子の醜態を報告するため、そして何より私の身を案じて、もう数日だけ滞在してくれることになった。
推しと一緒に朝食を摂る、という夢のような日々。

「……カイル様、そのパンの食べ方さえも騎士の鑑ですね。一口が美しすぎますわ」

「……ただのパンです。エリシア、それより王都からの情報ですが。……芳しくありません」

カイル様が手元の手紙を置き、真剣な表情をこちらに向けた。
私のオタク脳が、瞬時に「シリアスモード」に切り替わる。

「……魔獣の出現、ですわね?」

「なぜそれを。……ええ、その通りです。王都近郊の森で、本来この時期には現れないはずの大型魔獣が複数確認されたそうです」

ゲームの知識が警鐘を鳴らす。
聖女リアナが召喚された理由は、国の結界を維持するため。
けれど、彼女が贅沢にうつつを抜かし、真面目に祈りを捧げていないせいで、結界の綻びから魔獣が漏れ出しているのだ。

「聖女リアナ様が、討伐隊と共に浄化に向かったと聞いていますが……」

「……ふふ、無駄ですわね」

私はスープを一口飲み、冷ややかに笑った。

「彼女には、魔獣を退けるほどの力はありませんわ。せいぜい、花を咲かせるか、お肌を少し綺麗にする程度の魔力しか持っていないもの」

「エリシア、それは流石に……」

カイル様が言いかけたその時。
修道院の鐘が、激しく打ち鳴らされた。
それは礼拝の合図ではない。緊急事態を知らせる、警報の鐘だ。

「マリア! 何があったの!?」

駆け込んできたマリアは、顔を青くして叫んだ。

「お嬢様、カイル様! 王都からの伝令です! 聖女様率いる討伐隊が、魔獣の群れに包囲され、壊滅状態にあるとのことです!」

「……なんですって?」

「聖女様は……リアナ様は、真っ先に逃げ出し、現在は行方不明。残された騎士たちは……」

カイル様がガタリと椅子を蹴って立ち上がった。
その瞳には、騎士としての使命感と、仲間を想う怒りが燃えている。

「カイル様、行かれるのですか?」

「……仲間を見捨てることはできません。エリシア、ここも危険になるかもしれない。地下の避難所へ……」

「いいえ。私も行きますわ」

私はカイル様の腕を掴み、真っ直ぐに見つめた。

「カイル様を一人で死なせたりしません。それに、彼女が偽物であるなら……この国を守れるのは、知識と愛を持った私だけですもの」

「エリシア……」

「さあ、馬の準備を! 没落令嬢の本気、聖女様と王子にたっぷりとお見せしてあげましょう!」

私は推しを守るため、そしてこの地を守るために、ついに「隠し持っていた切り札」を使う決意をした。
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