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戦場は、想像を絶する惨状だった。
王都近郊の平原には、黒い霧のような瘴気が立ち込め、そこから異形の魔獣たちが次々と這い出してきている。
「……ひどい。これが、聖女様が放置した結果だと言うのですか」
カイル様が苦々しく呟き、腰の剣を抜いた。
その背中越しに見えるのは、傷つき倒れた騎士たちと、恐怖に震える兵士たちの姿。
そして中央には、巨大な三つの頭を持つ魔獣――『ケルベロス・バリアント』が鎮座していた。
「カイル様、あれを見てください! あの魔獣の首筋、青く光っているでしょう?」
私はカイル様の腕を掴み、ゲームの記憶を呼び起こす。
あれは通常の攻撃では再生してしまう、イベントボス級の魔獣だ。
「……ええ。ですが、あそこまで近づくのは容易ではありません。瘴気が強すぎて、並の人間なら近づくだけで意識を失う」
「ふふ、そこで私の出番ですわ。カイル様、私が作った『銀鱗の雫』、まだ持っていますわね?」
「……ええ、肌身離さず。ですが、それが何に?」
私は馬車から持ち出した、特製の大きな瓶を掲げた。
中に入っているのは、販売用よりもさらに高濃度に精製された『銀鱗苔』の抽出液だ。
「この苔には、魔力を浄化し、瘴気を中和する成分が含まれているんですの。……皆、聞いてちょうだい!」
私は周囲の騎士たちに向かって、公爵令嬢だった頃の……いえ、今や『辺境の女神』としての威厳を持って叫んだ。
「そのクリームを、剣の身と自身の鼻筋に塗りなさい! 瘴気は無効化され、あなたの剣は聖なる刃へと変わりますわ!」
騎士たちは一瞬呆然としたが、カイル様が迷わず自分の剣にクリームを塗りたくるのを見て、一斉に動き出した。
「……信じられない。呼吸が、楽になった。……これなら行ける!」
「カイル様、行ってらっしゃいませ! あなたの背中は、この私が……そして、私の愛が守っていますわ!」
「……。……行ってきます、エリシア」
カイル様が地を蹴った。
銀髪をなびかせ、一閃。
瘴気を切り裂き、魔獣の懐へと飛び込むその姿は、まさに私が愛したゲームのヒーローそのもの。
私は祈るように胸の前で手を組みながら、同時に指示を飛ばし続ける。
「負傷者はあちらへ! 傷口にクリームを塗り込んで、瘴気の毒を抜きなさい! ほら、ボサッとしないの、聖女様(偽物)を待っていても誰も助けてくれませんわよ!」
私の叱咤激励に、戦場に活気が戻り始める。
倒れていた騎士たちが立ち上がり、再び剣を取る。
そして、カイル様の剣が魔獣の青い核を貫いた瞬間。
地響きと共に巨大な体が崩れ落ち、空を覆っていた黒い霧が嘘のように晴れていった。
「……やった。……やったわ、カイル様!」
私は駆け寄り、返り血を浴びながらも立ち尽くすカイル様の胸に飛び込んだ。
「エリシア……危ないと言ったでしょう。……ですが、あなたの言う通りだった。……ありがとう」
カイル様が、震える手で私の背中を抱きしめてくれる。
その温もりを感じながら、私は確信した。
これこそが、真の「聖女」の……いえ、「限界オタク」の力なのだと。
その時、遠くから「エリシア様……助けて……」という情けない声が聞こえてきた。
泥まみれになり、ボロボロになったドレスを引きずって現れたのは、行方不明だったはずのリアナだった。
王都近郊の平原には、黒い霧のような瘴気が立ち込め、そこから異形の魔獣たちが次々と這い出してきている。
「……ひどい。これが、聖女様が放置した結果だと言うのですか」
カイル様が苦々しく呟き、腰の剣を抜いた。
その背中越しに見えるのは、傷つき倒れた騎士たちと、恐怖に震える兵士たちの姿。
そして中央には、巨大な三つの頭を持つ魔獣――『ケルベロス・バリアント』が鎮座していた。
「カイル様、あれを見てください! あの魔獣の首筋、青く光っているでしょう?」
私はカイル様の腕を掴み、ゲームの記憶を呼び起こす。
あれは通常の攻撃では再生してしまう、イベントボス級の魔獣だ。
「……ええ。ですが、あそこまで近づくのは容易ではありません。瘴気が強すぎて、並の人間なら近づくだけで意識を失う」
「ふふ、そこで私の出番ですわ。カイル様、私が作った『銀鱗の雫』、まだ持っていますわね?」
「……ええ、肌身離さず。ですが、それが何に?」
私は馬車から持ち出した、特製の大きな瓶を掲げた。
中に入っているのは、販売用よりもさらに高濃度に精製された『銀鱗苔』の抽出液だ。
「この苔には、魔力を浄化し、瘴気を中和する成分が含まれているんですの。……皆、聞いてちょうだい!」
私は周囲の騎士たちに向かって、公爵令嬢だった頃の……いえ、今や『辺境の女神』としての威厳を持って叫んだ。
「そのクリームを、剣の身と自身の鼻筋に塗りなさい! 瘴気は無効化され、あなたの剣は聖なる刃へと変わりますわ!」
騎士たちは一瞬呆然としたが、カイル様が迷わず自分の剣にクリームを塗りたくるのを見て、一斉に動き出した。
「……信じられない。呼吸が、楽になった。……これなら行ける!」
「カイル様、行ってらっしゃいませ! あなたの背中は、この私が……そして、私の愛が守っていますわ!」
「……。……行ってきます、エリシア」
カイル様が地を蹴った。
銀髪をなびかせ、一閃。
瘴気を切り裂き、魔獣の懐へと飛び込むその姿は、まさに私が愛したゲームのヒーローそのもの。
私は祈るように胸の前で手を組みながら、同時に指示を飛ばし続ける。
「負傷者はあちらへ! 傷口にクリームを塗り込んで、瘴気の毒を抜きなさい! ほら、ボサッとしないの、聖女様(偽物)を待っていても誰も助けてくれませんわよ!」
私の叱咤激励に、戦場に活気が戻り始める。
倒れていた騎士たちが立ち上がり、再び剣を取る。
そして、カイル様の剣が魔獣の青い核を貫いた瞬間。
地響きと共に巨大な体が崩れ落ち、空を覆っていた黒い霧が嘘のように晴れていった。
「……やった。……やったわ、カイル様!」
私は駆け寄り、返り血を浴びながらも立ち尽くすカイル様の胸に飛び込んだ。
「エリシア……危ないと言ったでしょう。……ですが、あなたの言う通りだった。……ありがとう」
カイル様が、震える手で私の背中を抱きしめてくれる。
その温もりを感じながら、私は確信した。
これこそが、真の「聖女」の……いえ、「限界オタク」の力なのだと。
その時、遠くから「エリシア様……助けて……」という情けない声が聞こえてきた。
泥まみれになり、ボロボロになったドレスを引きずって現れたのは、行方不明だったはずのリアナだった。
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