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戦場となった平原から少し離れた、静かな湖畔。
王都の喧騒を逃れ、ようやく二人きりになれた。
夕闇が迫り、湖面がオレンジ色に輝いている。
カイル様は、返り血を拭ったばかりの横顔で、じっと水面を見つめていた。
「カイル様、本当にお疲れ様でした! あの瞬間の剣さばき、前世の記憶を上書きするほどの美しさでしたわ。一生語り継ぎたい絶景です!」
私はいつものように、推しへの愛を全力で叫んだ。
けれど、カイル様からの反応はいつもの「……静かにしてください」ではなかった。
「……エリシア」
カイル様が、ゆっくりとこちらを向く。
その瞳には、今まで見たこともないような深い、熱を帯びた光が宿っていた。
「はい! 何でしょうか、カイル様。お礼の言葉でしたら、私の存在すべてを捧げる準備はできておりますわ!」
「……いいえ、お礼ではありません。私は今、ひどく腹を立てているのです」
カイル様の声が低く響く。
私は一瞬、心臓が跳ね上がった。
「え……。私、何か失礼なことを? 愛の言葉が足りませんでしたか?」
「……。……あなたは、あんな瘴気の中に一人で飛び出した。私がどれだけ肝を冷やしたか、分かっているのですか」
カイル様が一歩、詰め寄ってくる。
その迫力に押され、私は思わず後ずさった。
「そ、それは、カイル様をお守りしたくて……。知識があれば大丈夫だと……」
「……大丈夫なはずがない。もし、あの光の雨が降る前にあなたが倒れていたら……。もし、私が間に合わなかったら……。私は、自分の無力さに耐えられなかった」
カイル様の手が、私の肩をがっしりと掴んだ。
鎧越しではない、素手の温もり。
そのまま、彼は私を強く、壊れそうなほど強く抱き寄せた。
「……っ、カイル様……?」
「……もう、黙っていてください。あなたの『愛の告白』は、もう聞き飽きました」
耳元で囁かれる低体温な、けれど情熱的な声。
カイル様は私の肩に顔を埋め、深く息を吐き出した。
「これからは、私の番です。……エリシア、私はあなたが思うほど、清廉潔白な騎士ではありません」
カイル様が顔を上げ、私の瞳を至近距離で見つめる。
その距離、わずか数センチ。
「……あなたの愛が重すぎるというのなら、私はそれをすべて飲み込み、さらに重い愛であなたを縛り付けます。……いいですか、二度と私のそばを離れないと誓ってください」
「カ、カイル様……。それって、その……」
「……方便ではありません。命令でもありません。……一人の男としての、懇願です。……エリシア、愛しています」
その瞬間、私の思考は完全にホワイトアウトした。
カイル様の唇が、驚きで開いたままの私の唇を、静かに、けれど独占欲を隠さずに塞いだ。
湖畔を渡る風が、私たちの髪を揺らす。
今まで、追いかけていたのは私だったはずなのに。
「……ん、……っ。……カイル、さま……」
ようやく唇が離れた時、カイル様はどこかいたずらっぽく笑った。
その顔は、私が今まで一度も見たことがない「男」の顔だった。
「……顔が真っ赤ですよ、エリシア。……これくらいで怯むようなら、これからの私の『お返し』には耐えられませんね」
「……っ、ひ、卑怯ですわ! そんな格好いい顔で、そんな甘いことを言うなんて……!」
「……。……あなたのせいです。私がこんな風になったのは」
カイル様は私の指に自分の指を絡め、愛おしそうに口づけた。
立場が逆転した、甘くて危険な夜。
私の没落人生は、今、最高に「推し」に溺愛されるという斜め上の方向へ進み始めた。
王都の喧騒を逃れ、ようやく二人きりになれた。
夕闇が迫り、湖面がオレンジ色に輝いている。
カイル様は、返り血を拭ったばかりの横顔で、じっと水面を見つめていた。
「カイル様、本当にお疲れ様でした! あの瞬間の剣さばき、前世の記憶を上書きするほどの美しさでしたわ。一生語り継ぎたい絶景です!」
私はいつものように、推しへの愛を全力で叫んだ。
けれど、カイル様からの反応はいつもの「……静かにしてください」ではなかった。
「……エリシア」
カイル様が、ゆっくりとこちらを向く。
その瞳には、今まで見たこともないような深い、熱を帯びた光が宿っていた。
「はい! 何でしょうか、カイル様。お礼の言葉でしたら、私の存在すべてを捧げる準備はできておりますわ!」
「……いいえ、お礼ではありません。私は今、ひどく腹を立てているのです」
カイル様の声が低く響く。
私は一瞬、心臓が跳ね上がった。
「え……。私、何か失礼なことを? 愛の言葉が足りませんでしたか?」
「……。……あなたは、あんな瘴気の中に一人で飛び出した。私がどれだけ肝を冷やしたか、分かっているのですか」
カイル様が一歩、詰め寄ってくる。
その迫力に押され、私は思わず後ずさった。
「そ、それは、カイル様をお守りしたくて……。知識があれば大丈夫だと……」
「……大丈夫なはずがない。もし、あの光の雨が降る前にあなたが倒れていたら……。もし、私が間に合わなかったら……。私は、自分の無力さに耐えられなかった」
カイル様の手が、私の肩をがっしりと掴んだ。
鎧越しではない、素手の温もり。
そのまま、彼は私を強く、壊れそうなほど強く抱き寄せた。
「……っ、カイル様……?」
「……もう、黙っていてください。あなたの『愛の告白』は、もう聞き飽きました」
耳元で囁かれる低体温な、けれど情熱的な声。
カイル様は私の肩に顔を埋め、深く息を吐き出した。
「これからは、私の番です。……エリシア、私はあなたが思うほど、清廉潔白な騎士ではありません」
カイル様が顔を上げ、私の瞳を至近距離で見つめる。
その距離、わずか数センチ。
「……あなたの愛が重すぎるというのなら、私はそれをすべて飲み込み、さらに重い愛であなたを縛り付けます。……いいですか、二度と私のそばを離れないと誓ってください」
「カ、カイル様……。それって、その……」
「……方便ではありません。命令でもありません。……一人の男としての、懇願です。……エリシア、愛しています」
その瞬間、私の思考は完全にホワイトアウトした。
カイル様の唇が、驚きで開いたままの私の唇を、静かに、けれど独占欲を隠さずに塞いだ。
湖畔を渡る風が、私たちの髪を揺らす。
今まで、追いかけていたのは私だったはずなのに。
「……ん、……っ。……カイル、さま……」
ようやく唇が離れた時、カイル様はどこかいたずらっぽく笑った。
その顔は、私が今まで一度も見たことがない「男」の顔だった。
「……顔が真っ赤ですよ、エリシア。……これくらいで怯むようなら、これからの私の『お返し』には耐えられませんね」
「……っ、ひ、卑怯ですわ! そんな格好いい顔で、そんな甘いことを言うなんて……!」
「……。……あなたのせいです。私がこんな風になったのは」
カイル様は私の指に自分の指を絡め、愛おしそうに口づけた。
立場が逆転した、甘くて危険な夜。
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