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ラ・ヴィアン・ローズのトップページ。
探すまでもなく、商品はそこに載っていた。
「これは?」
「ラ・ヴィアン・ローズの春の新商品。……硝子でできてる」
「硝子……?」
村山の気配が険しくなる。
アクリル樹脂よりも硝子のほうが高級品だと考える者がいるのが気に入らないのだ。壊れにくい一方で細かい傷がつきやすいというアクリルの特徴を安っぽいと言われることを村山は嫌っている。
村山が特許開発したアクリル樹脂は、従来のような傷を寄せ付けない優れたもので、硝子のように表面は固く滑らかで、同じ透明度を持ちながら軽くて壊れにくい。
繊細で壊れやすいために高価なものがある。
希少性がその価値を高めるのだ。壊れるから美しいと言う人もいる。その美学は光にもわかるし、否定するつもりもない。
それでも、壊れにくく実用的なことが美の価値を下げるわけではないと光は思っていた。壊れにくく丈夫で、扱いやすいことが大切な場面もたくさんある。
村山が開発した樹脂は薄いコーティングを施すこともできる。
内側に薄い和紙を挟み込んで、擦り硝子に似た質感の市松やストライプを組み合わせるデザインが可能だった。
四角いテーブルランプは、角の部分にわずかなカットを施すことで、触った時にも指先が傷つかないように工夫した。
小さな子どもが近くで転んで頭や身体をぶつけても、大きな怪我をしないように。軽く、割れにくいテーブルランプは、汀の笑顔を思い浮かべながらデザインした。
涙が零れそうになって、慌てて瞬きをする。
「試作品だけ、俺が家で使う」
「待てよ。あんたも、硝子のほうがいいと思ってるのか」
「そんなわけないだろっ」
「だったら、なんで……」
光は顔を歪めて拳を握り締めた。自分がふがいないせいで、村山の矜持も傷つけたのだ。
それだけではない。
商品として店に並んでしまった今、あのテーブルランプはそれぞれの家庭で使われる。形を気に入って使ってくれる人たちに大きな不満はないかもしれない。
光が思うほど、人は材質や重さを気にしないかもしれない。
けれど、光が届けたかったものはあれではない。もっと小さな子どものいる家庭に置いても、安心で安全な、軽やかなものを作りたかった。
「あんなの、作りたくなかった」
「また、わけわかんねえことを言うなぁ。あんたがデザインしたんだろ」
「だけど、あんなの……」
村山がため息を吐く。
「わかったよ。あんた、口で説明すんのは下手だけど、俺の仕事を信用してるのは知ってるからな」
うつむく光の手からランプを受け取って、村山は呟いた。
「せっかくいい寸法に仕上がったのにな……」
村山が箱を用意している間、光はぼんやりと照明器具の試作品を眺めていた。外にもう一台クルマが停まる気配がして、入り口のサッシを誰かがガタガタ鳴らした。
探すまでもなく、商品はそこに載っていた。
「これは?」
「ラ・ヴィアン・ローズの春の新商品。……硝子でできてる」
「硝子……?」
村山の気配が険しくなる。
アクリル樹脂よりも硝子のほうが高級品だと考える者がいるのが気に入らないのだ。壊れにくい一方で細かい傷がつきやすいというアクリルの特徴を安っぽいと言われることを村山は嫌っている。
村山が特許開発したアクリル樹脂は、従来のような傷を寄せ付けない優れたもので、硝子のように表面は固く滑らかで、同じ透明度を持ちながら軽くて壊れにくい。
繊細で壊れやすいために高価なものがある。
希少性がその価値を高めるのだ。壊れるから美しいと言う人もいる。その美学は光にもわかるし、否定するつもりもない。
それでも、壊れにくく実用的なことが美の価値を下げるわけではないと光は思っていた。壊れにくく丈夫で、扱いやすいことが大切な場面もたくさんある。
村山が開発した樹脂は薄いコーティングを施すこともできる。
内側に薄い和紙を挟み込んで、擦り硝子に似た質感の市松やストライプを組み合わせるデザインが可能だった。
四角いテーブルランプは、角の部分にわずかなカットを施すことで、触った時にも指先が傷つかないように工夫した。
小さな子どもが近くで転んで頭や身体をぶつけても、大きな怪我をしないように。軽く、割れにくいテーブルランプは、汀の笑顔を思い浮かべながらデザインした。
涙が零れそうになって、慌てて瞬きをする。
「試作品だけ、俺が家で使う」
「待てよ。あんたも、硝子のほうがいいと思ってるのか」
「そんなわけないだろっ」
「だったら、なんで……」
光は顔を歪めて拳を握り締めた。自分がふがいないせいで、村山の矜持も傷つけたのだ。
それだけではない。
商品として店に並んでしまった今、あのテーブルランプはそれぞれの家庭で使われる。形を気に入って使ってくれる人たちに大きな不満はないかもしれない。
光が思うほど、人は材質や重さを気にしないかもしれない。
けれど、光が届けたかったものはあれではない。もっと小さな子どものいる家庭に置いても、安心で安全な、軽やかなものを作りたかった。
「あんなの、作りたくなかった」
「また、わけわかんねえことを言うなぁ。あんたがデザインしたんだろ」
「だけど、あんなの……」
村山がため息を吐く。
「わかったよ。あんた、口で説明すんのは下手だけど、俺の仕事を信用してるのは知ってるからな」
うつむく光の手からランプを受け取って、村山は呟いた。
「せっかくいい寸法に仕上がったのにな……」
村山が箱を用意している間、光はぼんやりと照明器具の試作品を眺めていた。外にもう一台クルマが停まる気配がして、入り口のサッシを誰かがガタガタ鳴らした。
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