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【10】-5
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「雑貨のデザインなんか、みんなそこまで細かく気にしてないのは知ってる。他人から見たらどうでもいいことだ。
だけど、俺は苦しい。辛いし、殺したいほど憎い」
「じゃあ、殺したいって言ったのは……」
「淳子がデザインを殺したからだ」
涙がぽろぽろ零れ落ちた。
清正がテーブルを回って来て、昔からずっと変わらない仕草で光を抱き寄せ、背中を撫でた。どこか安心したような口調で呟く。
「そういうことだったのか……」
ふっと笑う気配に、光はムッと口を尖らせた。
「清正は、どうなんだよ。淳子と付き合ってるって噂になってたし、昨日は、俺のこの目で一緒にいるとこ見たんだからな。今日だって……」
「あの女のことは、どうでもいいんじゃなかったのかよ」
「どうでもいい。でも、清正が……」
「俺? 俺が、何?」
期待するように覗き込まれ、ぷいと顔を背けた。背中を撫でる手が艶めいた動きに変わった気がして、慌てて身体を離した。
「清正は何をしてたんだよ。あいつに会って……」
「探りを入れてたんだよ。約束して会ったのは、昨日の昼休みを入れても二回だけだ。何か証拠が掴めそうなら、おまえのところの社長に突き出してやろうかと思って」
何かを上手に言えないまま「殺す」と言って泣いている光を見ると、昔からどうにも黙っていられない。余計なお世話だとわかっていても、何かせずにいられなかったのだと言った。
「勝手に動いて、悪かったよ」
「そんなの、ずっと前からだし……」
赤くなった光の鼻に清正がティッシュを当てた。頭を押さえられたので、そのままチンと鼻をかませてもらった。
扱いが汀と一緒だ。
「それと、腹が立ったからか」
丸めたティッシュをダストボックスに放った清正に「腹が立った?」と聞き返すと「自分にな」と言って笑った。
「光は何か作ってさえいれば、それでいいんだと思ってた。忘れてたんだよ。おまえが、俺と同じ二十七の男だってこと……」
何を言っているのだと眉を潜めると、もう一度緩く身体を抱き寄せられた。
「恋だってするよな、と思ったら、なんだか無性に腹が立った」
「なんだよ、それ」
「しかも、年上の女や遊び慣れた男に、あれこれされてるのかとか思ったら、なんていうか、ものすごく心配になった」
おまえは俺の保護者かよと呟くと、ある意味、正解かもなと笑う。
「誰にも触らせたくないし、汚したくないと、ずっと思ってた。ずっと、綺麗で純粋なままの光を守りたかったのかもしれない」
「へんなやつ」
軽く押し返すと、清正は腕を解いた。
いつもと同じ。けれど「それだけじゃないから、困るんだけどな……」とため息を吐いて光を見た。
「なあ。なんで淳子の匂いがするんだよ」
「あの女のことはどうでもいいんだろ?」
「いいから言えよ。なんで、匂いがするんだよ」
だけど、俺は苦しい。辛いし、殺したいほど憎い」
「じゃあ、殺したいって言ったのは……」
「淳子がデザインを殺したからだ」
涙がぽろぽろ零れ落ちた。
清正がテーブルを回って来て、昔からずっと変わらない仕草で光を抱き寄せ、背中を撫でた。どこか安心したような口調で呟く。
「そういうことだったのか……」
ふっと笑う気配に、光はムッと口を尖らせた。
「清正は、どうなんだよ。淳子と付き合ってるって噂になってたし、昨日は、俺のこの目で一緒にいるとこ見たんだからな。今日だって……」
「あの女のことは、どうでもいいんじゃなかったのかよ」
「どうでもいい。でも、清正が……」
「俺? 俺が、何?」
期待するように覗き込まれ、ぷいと顔を背けた。背中を撫でる手が艶めいた動きに変わった気がして、慌てて身体を離した。
「清正は何をしてたんだよ。あいつに会って……」
「探りを入れてたんだよ。約束して会ったのは、昨日の昼休みを入れても二回だけだ。何か証拠が掴めそうなら、おまえのところの社長に突き出してやろうかと思って」
何かを上手に言えないまま「殺す」と言って泣いている光を見ると、昔からどうにも黙っていられない。余計なお世話だとわかっていても、何かせずにいられなかったのだと言った。
「勝手に動いて、悪かったよ」
「そんなの、ずっと前からだし……」
赤くなった光の鼻に清正がティッシュを当てた。頭を押さえられたので、そのままチンと鼻をかませてもらった。
扱いが汀と一緒だ。
「それと、腹が立ったからか」
丸めたティッシュをダストボックスに放った清正に「腹が立った?」と聞き返すと「自分にな」と言って笑った。
「光は何か作ってさえいれば、それでいいんだと思ってた。忘れてたんだよ。おまえが、俺と同じ二十七の男だってこと……」
何を言っているのだと眉を潜めると、もう一度緩く身体を抱き寄せられた。
「恋だってするよな、と思ったら、なんだか無性に腹が立った」
「なんだよ、それ」
「しかも、年上の女や遊び慣れた男に、あれこれされてるのかとか思ったら、なんていうか、ものすごく心配になった」
おまえは俺の保護者かよと呟くと、ある意味、正解かもなと笑う。
「誰にも触らせたくないし、汚したくないと、ずっと思ってた。ずっと、綺麗で純粋なままの光を守りたかったのかもしれない」
「へんなやつ」
軽く押し返すと、清正は腕を解いた。
いつもと同じ。けれど「それだけじゃないから、困るんだけどな……」とため息を吐いて光を見た。
「なあ。なんで淳子の匂いがするんだよ」
「あの女のことはどうでもいいんだろ?」
「いいから言えよ。なんで、匂いがするんだよ」
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