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【17】-2

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「すげえな……」

 照明用の銀細工を箱から出すと、村山が感嘆の声を上げた。ひゅうっと口笛を吹き「このまま美術館に持っていけよ」と真顔で言う。

「バカ言わないで」
「いや、マジで。美術品レベルだろ。これをアクリルの中に封じ込めちまうのか……」

 なんだか怖いなと笑い、壊したら死んで詫びるようだと言って口をぎゅっと結ぶ。

「大袈裟な……」

 光が呆れると、「だけど、そのくらいの覚悟でやるよ」と村山は約束した。

「一個しか作れなかったから、量産用のスキャンもこれから取ってほしいんだけど……」
「ああ、わかった。試作品の中に組み入れる前に、必要なデータは取っておく」

 ほかの銀細工を取り出し、一つ一つ確かめる。

「こっちがトレイので、これがテッシュボックスのだな。どれもいいな」

 それからもう一度、最初に見せた照明器具用の細工に視線を戻し、ふうっと大きな息を吐く。

「一発勝負になるけど、平気?」
「おまえ、俺を誰だと思ってんだ」

 ニヤリと笑って頼もしい言葉を口にする。

「よろしくお願いします」

 頭を下げて村山樹脂を後にした。

 食器の試作品は、先週のうちに絵付けを済ませてあった。村山のところを出た後、硝子工房に寄り、出来上がったものを受け取った。
 プレゼン資料に添付する絵も描いた。
 苦手なエントリーシートも記入済みだ。

 あとは、村山に頼んだ試作品が完成すれば、それらを揃えて薔薇企画に提出すればいい。

 コンペに通るかどうかということを、光は考えなかった。
 賞を取りたいという気持ちも薄い。

 評価や名声は、仕事を受注する際に役立つものかもしれないが、それがものづくりの目的になることはないと思っている。

 コンペや競争入札や賞に作品を出す場合、名声や賞金や仕事の獲得のためにしのぎを削ることはある。
 それでもやはり、賞や金が欲しいから作るわけではないし、誰かと競うことが目的ではなかった。

 自分との戦いなのだ。

 妥協をしないで、自分がよいと思えるものを作れたかどうか。

 時々、「なぜものを作るのか」と聞かれることがある。堂上が持ち込む雑誌やネットのインタビューなどで、あるいは仕事仲間の口から。
 なぜだろうと考えてみても、たぶん「作りたいから」という答えしか見つからない。

 自分が心に思い描くものを、手に取れる形にしてこの世に置いてみたい。
 誰のために、何のためにと聞かれれば、仕事の上では「使い手のため」という答えになる。
 それは嘘ではないし、間違いでもないのだけれど、それでも、結局のところ、本当はただそれを作りたい、それだけなのだろうなと自分で思う。

 本能や衝動に近い感覚で、ものを作りたい。
 汀に聞けば、もしかすると同じ答えが返ってくるかもしれない。砂のケーキを作ることに理由はないだろう。
 ただそれを作りたいだけなのだ。

 仕事としてモノを作ることを許され、作ったモノが人の役に立っていることは、嬉しいし幸せなことだ。デザインを生業にできたことに、光は感謝している。
 締め切りがあり、仕事としての責任があり、時間やコストの制約があることも「作りたい」という気持ちを妨げることはない。それらを工夫することも含めて、作ることは楽しい。

 光は今の仕事が好きだ。その幅が広がるなら、コンペで認められることにも意味がある。

 自分の中にある一番綺麗なものを形にした。

 村山の仕事に間違いはない。光がやるべきことはほぼ完了した。
 あとは天に任せようと思った。
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