27 / 63
オーディンの願い
#27
しおりを挟むガーデンパーティーの前日、オーディンはガイルの部屋に呼ばれた。
重厚な部屋の雰囲気に飲まれそうになりながら、オーディンは促された椅子へと腰かけると、書類に目を向けたままのガイルから、ピリっとした空気の冷気が漂う。
流石に居心地の悪さを感じ、ガイルから視線を逸らせば、パタンと閉じる引き出しの音が聞え、ようやく彼の口が動いた。
「ガーデンパーティーにサイファ殿下も来るそうだ」
「……はい、知ってます」
「お目当てはシャールだろう」
「そうでしょうか」
「もちろん、貴方への嫌がらせも兼ねているだろう、シャールが俺の親戚だという話は皆に知れ渡ってしまったようだし、サイファ殿下も含め、欲深い貴族達の餌食になるだろう」
険しい顔を見せるガイルに、オーディンは「責任を持って守ります」と宣言すれば、くすりと笑みを溢した後、ガイルは目を眇める。
「それはありがたいよ。見ての通り世間知らずの子供だしね……、悪い虫が付かないように見守ってくれるとありがたい。まあ、実際には貴方が一番の悪い虫のような気がするけど」
「……ッ」
何となくシャールとの秘め事がバレている気がして、視線を逸らせば、オーディンの視界の隅に入るガイルの肩が揺れている気がした。
「まあ、可愛い子だから、気にはなるだろうし、構いたくもなるのは分かる。だが、貴方は第二王子だ。年内に婚姻が決まれば、この国を出て行く、だからシャールを悲しませないと約束して欲しい」
つまり、これ以上、深い付き合いはするなと警告されているのだと解釈したが、オーディンは黙って頷くことは出来なかった。
「あの……、俺、初めてなんです」
「……は?」
ガイルは驚いた顔をして立ち上がる。
その勢いにオーディンも驚くが、先に自分の正直な気持ちを打ち明けることにした。
「嫌われたくないとか、一緒に居たいとか……、初めて思ったんです。今まで俺の境遇は散々で、だから別に誰にどう思われても構いませんでした。だから、今だけでいいので……」
「は……、今だけでいい? 随分と自分勝手なことを……」
「……」
「あの子が貴方に信頼を寄せるようになった時、どうするつもりです? その時になって『結婚しなきゃいけないから、もう会えないサヨナラ』と……、言うつもりですか?」
ガイルの厳しい言葉がオーディンへと直撃する。
保護者として彼の投げた言葉は正しい、婚姻の申し出を相手が承諾すれば、自分は国を出ることになり、そうなれば、シャールに会えるのは何時になるか分からない。
あまり情を通わせるのは、お互い得策じゃないことくらいオーディンにだって理解は出来る。ただ、ここで疑問を抱いたのは、シャールが悲しいと思ってくれるだろうか? だった。
確かに仲良くはなったが、オーディンと会えなくなって寂しいとシャールが思ってくれるとは思えず。
「シャールは、俺がいなくなっても悲しみません……、彼は人に対してあまり興味がないです。普通なら持っていて当たり前の感情が、シャールにはありませんから……」
「好き」と言う感情が分からないとシャールは言っていた。
それは相手に執着しないと言っているような物で、例外なく自分にも適応されるだろうとオーディンは思った。
こちらの話を静かに聞いていたガイルが眉を歪せ、ストンと椅子へ腰を落とすと。
「確かに、あの子は……、愛情を知らないし、人との付き合い方も分からない子だ。だからと言って何も感じないわけじゃない、人は変わるし、あの子だって少しずつ変わろうとしている」
無感情なら、オーディンとどうすれば仲良くなれるのかと悩んだりしない、と言われて、シャールも同じように、屋敷に来たばかりの時は、どう接して良いか分からず悩んでいたことを打ち明けられる。
「申し訳ないが、ガーデンパーティーが終わったら、王宮に戻って頂きたい、俺の方から陛下に話を通しておくよ」
鈍器で頭を割られるような痛みが脳天を貫いた。
ガイルにシャールの側にいることを禁じられ、改めてオーディンは、自分がどれだけ小さな存在かを知る。
――何もしてやれない。
シャールに何を与えることが出来る? 城を建ててやれるわけでも、一生困らない生活を確保してやることも、何一つ与えることが出来ない。
――友人として接することも出来ない……。
既に自分が抱いている感情は恋心だと自覚しているし、今更、シャールを友人として見るのは困難なことだった。
「失礼します」とガイルの部屋を出て、自室へと戻ったが、気分がスッキリせず、剣を手に取ると、裏庭へと足を運んだ。
ザっと剣を振り、空気を切り裂きながら思うのは、やはりシャールのことだった。
この屋敷を出れば会うことも無くなる、そう考えるだけで、心が空虚に蝕まれて行く気がして切なくなる。
剣をトンと地面に突き立て、深い溜息を吐いていると「お邪魔して宜しいですか?」と、いつの間にか背後にいたレオニードが声をかけて来る。
「どうぞ、俺はもう帰ります」
「あ、いえ、お話しがありまして……」
「俺にですか…?」
どうやらガイルが明日の注意事項として、兄のことやオーディンが第二王子であることをシャールに教えたと言うが、けれど、それは大した問題では無く。
「シャール様は純粋ですので、オーディン様とサイファ殿下を仲良くさせたいと仰ってました」
「は……?」
「もちろん、ちゃんと忠告しておきました。他人の家庭の問題に首を突っ込んではいけないと」
「……気を遣わせてしまったようですね」
レオニードは首を横に振りながら、とんでもないと言いながら微笑むと「オーディン様のことを大切に思っているようです」とシャールがいつも自分の話をレオニードにしていると聞き、体温が上昇してくる。
嬉しいはずなのに、ガイルに忠告された言葉が脳裏に浮かび上がり、心が沈む。
「明日のガーデンパーティーが終わったら、俺は王宮へ帰ります。なので、シャールのこと守ってやって下さい」
「はい、私はシャール様の護衛騎士ですし、それが仕事です」
「そうでしたね」
少し顎を引きながらレオニードは、純粋なシャールがノイスン家で問題に巻き込まれないか心配だと言う「あの家に集まる者は、ろくな人間がいませんから」と口を尖らせた。
「ああ、そういえば、貴方は次女のルイーズ嬢とご婚約されていましたね」
ぐっ、とレオニードは喉を詰まらせる。
「子供の頃の話です。あの家のしきたりのせいで、私は騎士の道を諦めさせられる所でしたから、破棄出来て良かったです」
珍しく感情が顔に出ており、瞳を揺らしながら、そんなことを言うレオニードを見つめていると、腹に手を置き、騎士の振る舞いを見せながら彼は言葉を続ける。
「もし、私の手助けが必要な時は、いつでもお申し付け下さい」
「ありがとうございます」
自分がいなくなっても、レオニードが護衛で居てくれる限り大丈夫だろう、と去って行く彼の後姿を見つめた――――。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる