カジャタン・ペンシュー

冠者

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貝殻

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彼は私に、一度も見せたことのない顔をした。
例えるなら、、、、「手足をもいで遊んできた虫にかみつかれた子ども」といった顔。
学生時代から彼に身体を許し、好きなようにされてきた、他に男がいるのかと殴られた事もあったが、彼以外の男が私の身体を見たら興醒めするだろうし、そういう性癖の物もいるかもしれないが中古に興味はないだろう。
私は別に彼を好いていたわけでも、愛などを感じたことも無い、5年も側にいれば赤の他人とは思わないし彼より特別な人間が他にいるかというといないのだが、彼しかいないだけで、彼が私を物として扱うように、私も彼を何と思ってはいなかった。

ある日、私の怠惰な生活に終止符を打つ出来事が起こった。ただ単に就職しただけなのだが、おこぼれで公務員の短期アルバイトをするようになり、空きが出たため契約社員になれた。翌月産休の方がもうお戻りにならないとのことで、来年度からは正社員になる。
暇な学生でもふらふらしているニートでも無くなった私は別段彼といる理由も無く。
元より彼から援助をされていたわけでも求めてもいなかったが、親よりは私を求めてくれたので彼の部屋に転がり込んでいただけだ。
私にも感情はあって、ふらふらしていたくせに親元に帰るに帰れなくなっただけで、居場所がそこしかなかっただけ。
私の実家からの交通費が出るのだが、バスで小一時間(実際は彼の家から歩いて15分)の距離の交通費を出すより格安な社宅を提供する方がなにかと職場の都合がいいらしく、私もアパートであれ自分の城という物への憧れがあり、彼からすれば突然引っ越した形になる。
彼の前のスマホを自宅やコンビニ等のワイファイでだけ利用していたが、給料をためて自身で購入し、番号も教えなかったため、彼は私を当てもなく探すか、一応職場はバイトで行っていた頃から知っていたのでそこに張り込むしかなかった。
ある雨の日にいきなり腕をつかまれ、車に乗れと言われた。私は逆らうでもなく従い、車に乗った
彼の部屋に連れて行かれるまで説教され講釈を聞かされ、心配しただの泣き落としが始まり。
部屋に付くと身体をもとめられたので、初めて拒絶した。

それでこの表情だ。

私は彼の腕を振り払い、雨の中駆け出しアパートを目指した。彼は車では追いにくい道に行かれたら困ると察したのか走って追いかけてきたが、雨の中男女が追いかけ合ってるなど、彼にとって様にならないのだろう。何か精一杯優しく叫んでいたようだが、逃げた。
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