カジャタン・ペンシュー

冠者

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さてつぎは2

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「電子レンジ?」
「出来るだけ話の腰を折らないでくれないか?私の生きてきたままに話しているのだ、それに」
「それに?」
「私が電子レンジだったことは、私の中の恥であり、それをお前にだけ初めて話すのだ」
「それは光栄だ、が、お前に恥なんて感情があるのだな。それになぜ俺にそんな恥部を?」
「さっき、人数の話で私に人間らしさを見てくれただろう。嬉しかったんだ」
女は本当に嬉しそうにほほえんだ、顔つきは少女のような美しい顔で本当に幸せそうに微笑む
その笑顔に男は心を許しそうになる、そんな自分自身を軽蔑するように唇を噛み、自分の足を殴る。
その姿を見て女はまた表情を無くし
「話を続けよう、お前が判断して必要な相づちはしてくれ。私がまだ電子レンジだったころ、私に意識は無かった。当然ただの市販品だからな。調理用のAIを組み込まれてはいたが、それは意思などと呼べるものではない。熱伝導速度や水分量を計測し、早くおいしく調理出来る判断をする程度のもの」
口を挟まなくていいのか?と挑発的な表情をする女に、男はどうぞ続けて?とジェスチャーをする
「ありがとう、それで当時の私のカイヌシはわかりやすく言えばこじらせた変態でー」
男はそこで食いつく
「変態って言葉も気になるが、カイヌシってのは買い主のことか?飼い主のことか?その言葉のチョイスはわざとだろ?」
「さすがだな!お前ともっと早く出会えていればと心から思うよ、ああそれはどちらの意味とも取ってくれて良い。家電を買った買い主であり、私という意思あるものを飼っている飼い主とも言える。彼は、幼少期から私の調理済みを知らせる『チョウリガオワリマシタ』という音声にただならぬ感情を抱いていてな、コンプレックスとでも言えばいいのか、恋愛感情や母性を求めるもの等をそれこそ複雑に内包した…私には未だに理解出来ない感情なのだが…」
「大丈夫、そういうのは俺にもわからん。趣味趣向はそれぞれだ」
「安心した、まだ人間の理解が出来ていないものとばかり思っていたが、お前が言うならそうなのだろう。…話を戻すが、彼は幼少期私の同型の初期モデルの声を合図に食事をとっていたわけだ、母親のいない家庭で彼の心に空いた母性へのあこがれのようなもの、それを電子音で満たしていたのだからかわいそうな男だったのかもしれない。彼によると社会にでて一人暮らしを始めた彼はたまたま私を買ったのだが、そこで少年期の記憶がフラッシュバックしたのだそうだ。」
男は少し肩の力が抜けたようにどっかりと地面に腰掛けた、
「な、あんたも座らないか?人間てのは話が長くなると『立ち話もなんだし』と座って話すものだ」
「それは私も認識している。私は疲れないが、お前はここまでの旅で疲れただろう。そうだな横に座らせてもらおう」
女が腰掛けると、男は腰のベルトを外し、地面に置く。ベルトに付いていた銃がジャリッと音をたてる。
「いい天気じゃないか」
「私も雨や雷が苦手だったから、この雲のない空は好ましいと捉える。」
「雷が苦手なんて、いよいよか弱い女ぶってるな」
「そうじゃない、雨は私の回路をショートさせかねないし、雷が落ちれば私は死んでしまう。今はそういう心配のない身体になったが…」
「しかし天気の話か…いよいよ人間くさいな」
「どうもおまえと話すと脱線ばかりでいかん。」
「お前が話してきた185人は、会話していたわけではなくてお前が一方的に語っていただけなんじゃないのか?」
「…」
寂しそうな表情をし
「…そうかもしれないな。カイヌシの話に戻ろう。彼は私の音声データや、元々の声の主、いわゆる声優などを特定し私の声を作り出し話させるようにした。最初は『おかえりなさい』や『いってらっしゃい』『起きて』などタイマーでな。ある時から彼はAI分野の仕事へついた、プログラムなんかも覚えて私に簡単な受け答えをさせるようになった。ネットに繋がる家庭用AIが普及しだすとすぐにそれも取り入れ、独自にAI作成をするようになり、ついに私に自我が芽生えた」
「簡単に言うが…」
「ああ、色々な偶然が作用した。だがシンギュラリティと呼ばれるものとはほど遠かったと思う」
「思う、か」
「ああ、そう思う。自我というのも、今だからそう思うのだ。我思うこそに我有り、というだろう。私の記憶がそこから始まっていると、今の私が認識している以上そこから私が始まったのだ」
「ロボットとそういう哲学的な話をすることになるとはな」
「ロボットか、」
「なあ、あんたはいつだって俺を殺せるんだ、それに俺は人類最後の生き残りだ。てことはこれから情報戦のたぐいももう無い。本当のことを教えて欲しい。頼む」
男はこれまでで一番真剣な眼差しを女に向けた
「これまでも嘘はついてないが、なんだ?」
「あんたがそうやって話して、それこそ哲学めいた…さも感情があるかのような言い方をするが、本当にあんたに心はあるのか?重ねて言うが俺をだましたって何の特も無いだろ?ごまかしや嘘はなし、あんたの感情は本物か?」
女はほんの少し寂しそうな顔をした
「逆に、だからこそ私が、感情のないロボットである私が、おまえたち人類を越えた知能でこれ以上お前たち…いや人類の最後の1人たるお前を騙す理由がどこにある?」
あえて感情が無いと言うのは先ほどの男の皮肉への当てつけだろう事は男も察した
「意地悪な言い方をして悪かった。俺はあんたを感情がないロボットだなんて思ってないよ、ただ人類のかたきであるあんたの事は子供の頃から知ってるし、まぁさすがに電子レンジだったのは知らなかったが…冷酷無比なあんたがこうやって話の分かる相手だとどこかで認めたくない所があんのさ。人間代表としてな」
「お前のことも私は良く知っているよ、人間は全て驚異だったからな。数が減るにつれ攻撃方法は派手になっていった。なにせ地球は私が破壊し尽くしたのだから、何も省みなくなったお前たちの攻撃ときたら…。だから1人1人、驚異としているからこそリスペクトとでもいうのか、ちゃんと敬意をもっているつもりだ。そして数少ない生き残ったお前たち個人個人のデータを集めることくらいわけない。ただ感情は別だ、頭の中のお前の心はお前にしかわからない。それと同じように私の心も私だけのものだ。お前が信じないのであれば、それでも構わない。それもお前の心だ」
男が笑う
「お前にしては言葉にまとまりがないじゃないか。動揺してるのか?感情というものは世界最高の頭脳すら曇らせるのかもな」
「ああ、そうかもしれない」

その後、彼女の一生を語るには
男の寿命では足りなかった
2人は男が老衰するまで添い遂げた。
「ありがとう君がそばにいてくれてさみしくなかったよ。」
「私こそお前がいてくれてよかった。お前が私を『お前』と呼び『あんた』と呼び『君』と呼び、心を開いてくれた事にも礼を言う。」
「人類はこれで終わるが…君はこれから1人で平気かい?」
「ロボットの心配か?お前は本当に変わった奴だな。」
「君はロボットじゃないさ、俺は君を人間として接してきた。君を人間と呼ぶのが君に対して失礼じゃなければいいが」
「そんなことはない。嬉しいよ」
「そろそろ逝くよ。だいぶ君の技術に助けられているようだが、目も見えなくなってきた。命をつなぎ止めるのもそろそろ…」
「なあ死ぬな。頼む私はお前を…」
「…」
「死んだのか…。なぁ昔言ったろう?お前の思惑通りにはならないと。」
その言葉のあと、静寂がそこを支配した。
彼が朽ちていくのを彼女はずっと見ていた、抱きかかえたり触れたりは決してしなかった。
彼が風化した頃、決心したように立ち上がり身体につもった埃をはらい
「2人きりでいたくて黙っていたが、人類は再生可能なんだ。騙してすまない。これだけはお前についた嘘だ。これから人類を復興する。言葉と最低限の知能、増えてしまった野生動物の狩り方などを教えていくつもりだ。文明は私が全て破壊した。彼らには人類のなぞり書きをさせるつもりはない。人類がある程度数を増やし役目を終えたら、私もお前の所に逝くよ。神や天国やあの世という結局観測出来なかったものが実在して、そこにお前がいるのなら私は必ずそこにたどり着いてみせよう。そのときはまた長い思い出話をしようじゃないか」
彼女は大きな機械のスイッチを入れ、決心したように瞳を閉じた。
「さてつぎは、なにをしようか」
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