異世界のんびり料理屋経営

芽狐@書籍発売中

文字の大きさ
77 / 203
第4章 新たな出会いと充実していくスローライフ

第74話 引きこもりな研究者とビーフシチュー!

しおりを挟む
黒ローブを着た銀と白を2で割ったような色をした髪の美人のリッチが椅子に座りながら思い耽ている。

私はここに住むようになって、もう何百年になったのだろう!? 既に人間の頃の記憶も薄れてきているわ。 只々、錬金術の研究に励んでいた記憶があるだけだわ。人間の時に不死の霊薬も完成させて不老の霊薬も完成させてしまった。 出来上がってしまえば、案外呆気ないものであったわね。 今はエルダーリッチなっちゃったけど。

それから、数日が経ったある日、外界から遮断された錬金工房から何百年振りに外に出てみた。 見渡す限り森森森、昔と何ら変わりない。 だが、ある一箇所に様々な種族の生命体が集まっているのに気づいた。 その時は、種族間の戦争かと気には留めていなかったが、日を追うごとに色々な種族が増えていく。 なにかしら?と思うリッチ。

初めてこの時、錬金術以外に興味を示した瞬間であった。 そのリッチは、一度気になり出すと知りたい欲が止まらなくなるのだ。研究者の性というやつか。 居ても立っても居られなくなったリッチは、その場所へと足を運ぶ。 いく先々で、上位種や変異種の魔物が襲ってくるが、気づくと横たわる魔物達。リッチが手にしているのは、錬金術で作られた引き金を引くと魔弾が飛ぶ武器だ。
襲ってくる魔物を殺しつつ進むと、違和感のある場所を発見するリッチ。 この奥から色々な種族の生命反応がすることを確認して突入する。 少し歩いて進むと、さっきまで真っ暗だったにも関わらず、そこは幻想的な雰囲気を醸し出すかのような明るく照らされた道と看板があった。

「料理屋憩い亭!? それにしても、見たことがない素材の道ね。 石かしら?それとも鉄かしら?」

錬金術師の性である探究心に火がつき、その場に腰をかがめて、ある魔道具を道の上に置く。 液晶のように空中に浮かび上がったパネルには、errorの文字が1番上に浮かび上がり、その下にerrorと水と砂と砂利が浮かび上がる。 ちなみに、errorはコンクリートである。

「未知か登録されていない素材ってことね。 errorが何か非常に気になるわ。これは要研究対象ね」

そう言うと、リッチは立ち上がって前へ進む。
進むにつれて、視界が開けて明るく照らす1軒の家があった。 周りにも、多数の家が存在するのだが、どの家も見たことがない素材と造りをしていた。内心心踊るリッチ。 踊る気持ちを抑えながら、光が照らされた家に足を運ぶ。

リッチは、ドアノブに手をかけてゆっくりドアを開ける。

カランカラン。

中から2人の声が聞こえてきた。
「「いらっしゃいませ」」

リッチが見渡すと、普通ではない人間に神気を纏った少女に高位魔族に高位なドワーフに上位精霊に妖精にフェンリルにエルフ。 それから、私より上位のノーライフキング様までいる。 あまりのあり得ない光景に、フラフラとなるリッチ。 

それを見た拓哉が声をかけて体を支える。
「大丈夫ですか? 急にフラつかれましたが、それに体が凄く冷たいですよ」

死んでいる身であり、体は冷たくて当たり前なのだが、拓哉はそんなことは知らずに口に出す。
リッチは、本当のことを言うか言わないかで迷ったが、周りにいる種族がおかしすぎる為、大丈夫だろうと語り出す。

「はい。大丈夫です。 長旅で疲れたのかもしれません。 それと、私は死んでいる存在なので体温はありません。 ここは料理屋で間違い無いですか? 来る道の看板にそう書いてあったのですが」

リッチは、死んでいるという言葉に、この人間がどう反応するのか様子を伺う。

「そうだったのですね。 てっきり病気か何かかと思い心配しましたよ。 あとここは、料理屋です。 何か食べて行かれませんか?」

人間である拓哉の反応に戸惑うリッチ。 普通なら恐怖するか攻撃をしてくるはずなのに、サラッと受け流したのである。 更には料理を食べていくか?と聞いてくる始末。 

「何百年振りかの食事なので適当にお願いできますか? あと、ワインがあればお願いします」

人間の時も、錬金術以外興味がなく、食事も口に入る物ならなんでもよかったリッチ。 ましてや、リッチになってからは食事も不要になり一切口にしていない。

「わかりました。 少々お待ちください」

拓哉は厨房に行き料理を作る。 桜花には、ワインを持って行ってもらう。

「ワインお待たせしました。 ごゆっくりどうぞ」

桜花は、魔国から帰宅して以来、接客時はちゃんとした言葉を使うようになった。 拓哉を支えるという目標から少しずつ変わってきているのだろう。

「ありがとうございます。 綺麗で透き通るような赤いワインですね」

そう呟きながら、香りを楽しみ口に含む。

リッチは思った。 今までのワインと違って果実に近い濃い香りに、口に含むとワイン特有の酸みは弱く、甘く少しスパイシーな味に、凄く滑らかで呑み易い。 人間の時に呑んだワインとは比べ物にならないくらいおいしい。

「ごめんなさい。 お代わりのワインを頂いてもいいかしら?」

思わず2杯目を注文してしまうリッチ。 
2杯目を呑み終わるか終わらない時に、料理が運ばれてきた。
運ばれてきた料理の香りに、リッチなので鳴るはずはないのだが、お腹がなったような錯覚に陥る。

「お待たせ致しました。 ビーフシチューです」

早く食べたいと体が欲するままに、スプーンを手に取りスープとにんじんを掬い口に運ぶ。

「ん~~~!おいしい~~」

何百年振りのおいしい食事に思わず声を上げる。  

リッチは思う。 まろやかで野菜の旨味とお肉の旨味が溶け出して、トマトの酸みと香辛料の辛みがうまく調和しているわ。 それに、ワインが入っているのか?味に深みを与えて更においしさが増している。 野菜も、今まで食べたものより甘くて柔らかくてスープの味と相まって、ハァ~至高だわ。
次は、お肉と一緒に食べてみましょう。
・・・・・・んっんっ。 私意識が飛んでいたの?えっ!?いつの間にかお肉がなくなっている。 ちょっと!もう一口。 ふわぁ~生きてる時にも食べたことがないこの柔らかくてトロトロした甘みのあるお肉...危ないかったわ。また意識がなくなるところだった。

カチャン
食べようとすると、いつの間にか皿の中身は消えていた。

「すいません!もう一杯頂けないかしら?」

「少々お待ちくださいね」

また今日も、憩い亭の料理に惚れ込む人物が増えるのであった。
しおりを挟む
感想 1,411

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...