再利用率が見える俺の異世界工房〜再利用チートで村も町も豊かにします〜

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ゴミ捨て場から始まる仕事

第1話 ゴミ捨て場で目覚める

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鼻の奥に、鉄の匂いが刺さった。
油でも薬品でもない。もっと乾いた、錆びた匂い。
レントは眉をひそめ、ゆっくりとまぶたを開ける。

「ここ、どこだ」

声が、妙に空気に吸い込まれていく。
寝起きの喉の乾きがひどい。舌がざらつき、唾を飲み込んでも引っかかる。
身体を起こした瞬間、背中に硬い感触が走った。石だ。地面は土と砂利で、薄い藁のようなものが敷かれているだけ。

見回した先に、ありえない景色が広がっていた。
壊れた鍋。曲がった鉄棒。割れた刃物。欠けた斧。折れた農具。
それらが、山のように積まれている。
ゴミ捨て場、その言葉が一番しっくりきた。

「夢じゃないよな......」

空の色も、遠くに見える家々も、知っている日本の田舎とは違う。
屋根は木と藁、壁は泥を塗り固めたような粗い質感。煙突らしきものから細い煙が上がっている。
レントは自分の手を見た。指先に豆がある。
前世の癖だ。何年も機械と部品に触って、自然とできた硬い皮。
前世。そう思った瞬間、頭の奥でいくつかの映像が点滅する。
夜勤明けの工場。
鈍い機械音。蛍光灯の白い光。
帰り道の信号、横断歩道、車のヘッドライト。
そして、そこで、ぷつりと途切れる。

「......転生、ってやつか?」

誰に言うでもなく呟いて、自分で苦笑する。
漫画や小説の中だけの出来事だと思っていた。けれど、目の前の現実は笑い話にできるほど軽くない。

「まずは、状況確認だな」

レントは立ち上がり、服を払った。布の感触が粗い。工場の作業着でも、こんなにごわごわはしていない。
腰のあたりに小さな袋がある。中身は空。武器もない。金もない。

「無理ゲーの詰み確定演出かよ......」

ため息を吐きかけて、足元に転がったものが目に入った。
壊れた鍬。柄が割れ、金属の刃の部分が歪んでいる。
農作業道具だ。ここが“畑のある世界”であることは分かる。
レントが鍬に視線を落とした瞬間、視界の端に、文字が浮かんだ。

【鉄製農具(破損)】
再利用効率:92%
修復推定成功率:88%

「は?」

思わず、声が漏れる。
目をこすっても、文字は消えない。瞬きしても、そこにある。幻覚の類にしては妙に鮮明で、整いすぎている。
恐る恐る、近くの鉄片に視線を移す。

【鉄屑】
再利用効率:76%

次に、割れた鍋。

【鍋(亀裂)】
再利用効率:81%
修復推定成功率:62%

「何だよこれ......」

“再利用効率”。“修復推定成功率”。
言葉の意味は理解できる。だが、なぜ自分の視界に表示されるのかが分からない。
そして、もっとおかしいのは、数字を見た瞬間、頭ではなく手が「直し方」を理解したことだった。
ここを叩けば戻る。
この歪みを直せば噛み合う。
この角度を変えれば引っかからない。
説明できない確信が、指先に宿る。

レントは鍬を持ち上げた。思ったより重い。けれど嫌いではない重さだ。
前世でも、工具箱を持ち歩くとき、似た重さを感じたことがある。

「やってみるか」

口に出した瞬間、少しだけ落ち着いた。
不安を追い払うには、手を動かすのが一番早い。現場で学んだ、数少ない真理だ。
周囲を見渡すと、握り拳ほどの丸い石が転がっていた。
レントはそれを拾い、鍬の歪んだ金属部分に当てた。

コン、と軽く叩く。

鈍い音が返り、手のひらに衝撃が残る。
一度では戻らない。
けれど、次に叩く場所が分かる。

コン。
コン。
コン。

叩くたびに、金属の面が少しずつ揃っていく。
歪みが消え、刃のラインが“鍬らしい形”へ戻っていく。

「マジかよ......本当に直ってる」

胸の奥で、小さな興奮が弾けた。
同時に、怖さも湧く。こんな都合のいい能力が、何の代償もなく手に入るはずがない。
鍬の柄に目を落とすと、そこにも文字が現れる。

【木材(割れ)】
再利用効率:55%
修復推定成功率:49%

木は厳しいと直感で理解する。
金属みたいに叩けば戻るものじゃない。
それでも、仮の固定ならできる。
レントは周囲のゴミを漁り、麻紐の切れ端のようなものを見つけた。
割れた柄に巻き付け、力をかけ、結ぶ。握って確かめる。ぐらつきは残るが、畑で数日使うくらいなら耐えそうだ。

「よし」

鍬が、ただの壊れ物から“道具”に戻った。
その瞬間、背後から怒鳴り声が飛んだ。

「おい! そんなゴミ触るな!」

レントの肩が跳ねる。振り返ると、農作業着の男がこちらへ早足で近づいてくる。
腕は太く、手は節くれ立ち、日に焼けた頬に汗の跡がある。年は三十前後か。
男はレントの手元の鍬を見て、顔をしかめた。

「それ、昨日壊れて捨てたやつだ。怪我するぞ」

言葉は荒いが、怒りというより心配が混じっている。
レントはとっさに鍬を少し持ち上げて見せた。

「直した......つもりだけど」

男は眉をひそめながら鍬を受け取り、重さを確かめるように握る。
そのまま、軽く振った。
空気を切る音が思ったより軽い。
男は次に地面を少し削り、感触を確かめる。

「ん?あれ?」

もう一度。さらにもう一度。男の目が丸くなっていく。

「軽い......引っかかりもねえ」

レントは息を止めていた。
期待と恐怖が、同じ場所でぶつかる。
男は鍬とレントを交互に見て、ようやく口を開く。

「お前、これ直したのか?」

「少し叩いただけ」

「叩いただけで、こうなるわけが......」

男は言いかけて、途中で止めた。
“ありえない”と切り捨てるのは簡単だ。でも、手にある現物がそれを許さない。そんな顔だった。
沈黙が一拍置かれたあと、男は急に真剣な声になった。

「名前は?」

「レント」

「俺はボルフ。村の畑を見てる」

名乗ったボルフは、鍬を抱え直し、言葉を選ぶように視線をそらした。

「......もう一本、壊れてるのがある。見てくれないか」

その瞬間、レントの胸の奥が、じんと熱くなった。
必要とされる感覚。前世で何度も欲しくて、でもなかなか得られなかったもの。
レントは一度、喉を鳴らし軽くうなずく。

「......分かった。やってみる」

ボルフの表情が、ほんの少しだけ和らいだ。

「ついて来い。ここで作業は危ねえ」

レントはうなずき、鍬の山を振り返った。
さっきまでただのゴミだったものが、今は違って見える。数字が見えるからじゃない。
直せば、使えると確信した。

前世で当たり前にやってきたことが、この世界では“価値”になるかもしれない。
そう思った瞬間、怖さが少しだけ薄くなった。
遠くで、鐘の音が鳴った。村の朝を告げる音。
その音が、レントの異世界での仕事の始まりの合図になるとは、まだこの時の彼は知らなかった。
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