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ゴミ捨て場から始まる仕事
第6話 収穫が増える音
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工房の朝は早かった。
日の出からそれほど時間が経っていないというのに、小屋の前にはすでに数人の村人が集まっている。
手に持っているのは、欠けた包丁、歪んだ鍬、刃の鈍った鎌。どれも生活に欠かせない道具ばかりだ。
「順番に受け付けますので、こちらに並んでください」
リーナが帳簿を開き、慣れた様子で声をかける。
昨日までは雑貨屋の手伝いだったはずなのに、もうすっかり工房の受付係だ。
レントは、作業台の前に立ち、最初の依頼品を手に取った。
【鉄製鍬(歪み)】
再利用効率:91%
修復推定成功率:86%
レントは、修復率100%の値に、思わずニヤリと笑みをこぼす。
石槌代わりの鉄片を手に取り、歪んだ部分を慎重に叩く。
コン、コン、と乾いた音が小屋の中に響く。
まだ本格的な工具は揃っていない。だが、やり方さえ分かれば、できることは多い。
何度か叩き直し、最後に柄のぐらつきを補強する。
「こんなもんだな」
鍬を持ち主に渡すと、農夫は半信半疑の顔で振ってみた。
空気を切る音が、昨日よりも軽い。
「おお~、いいなこれ」
先程までの半信半疑の表情はどこへやら、ぱっと顔が明るくなる。
「助かる。これで今日は楽できそうだ」
「無理はしないでくれ」
「分かってる」
農夫は笑いながら去っていった。
その様子を見ていた別の村人が、すぐに前へ出る。
「次、俺の鎌頼む」
「はい、順番にやります」
リーナが帳簿に印をつける。
依頼は途切れない。
レントは手を止める暇もなく、次々と道具を整えていった。
削る音、叩く音、研ぐ音。
それらが重なり、小屋の中に一定のリズムを作る。
「お、もう忙しそうだな」
ボルフが、お客をかき分けて店に入ってきた。
「朝が一番多いな」
「畑に出る前に直してもらえると助かるからな」
ボルフは作業台の上の鍬を手に取り、状態を確かめた。
「昨日より仕上がりいいな」
「慣れてきただけだ」
「慣れってのは大事だ」
ボルフは、真面目にやっているのを見て、満足そうに頷いたあと、少し声を落とした。
「なあ、畑、見に来ないか」
「畑?」
レントは、なぜ畑なのだろうかと、頭に疑問を浮かべた。
「直してもらった鍬、もう使ってる。違いが分かるぞ」
レントは手元の作業を終え、リーナに視線を向けた。
「少し席外しても大丈夫か」
「受付はやっておきます」
「頼む」
レントはボルフと一緒に畑へ向かった。
村の外れに広がる畑は、朝の光を受けて白く光っていた。
数人の農夫が、すでに作業を始めている。
その一人が鍬を振り、土を返す。
ざくり、と深く土が割れる。
「見ろ」
ボルフが、畑を指差す。
「前より楽に入る」
畑を耕している農夫が嬉しそうに言う。
「腕の疲れが違うな。引っかからねえ」
別の農夫も呼応するようにうなずいた。
レントはしばらくその様子を見ていた。
自分が直した道具が、実際に使われている。
それだけのことなのに、胸の奥に妙な感覚が広がる。
「今回の収穫、少し増えるかもな」
ボルフが言った。
「道具が良けりゃ、仕事が早くなる。単純な話だ」
レントは、当たり前だと小さく頷いた。
前世では、部品を直しても、その先を目にすることはほとんどなかった。
だが今は違う。結果がすぐ目の前にある。
「助かってる」
ボルフが短く言う。
その言葉に、レントは少し照れたように視線を逸らした。
「まだ始まったばかりだ」
「それでもだ」
ボルフは、真剣な顔で軽く肩を叩いた。
「お前が来てから、村の空気、ちょっと変わったぞ」
レントは、褒め慣れていないのもあり、何も言えなかった。
工房へ戻る途中、遠くに煙が見えた。
鍛冶場の煙だ。ガルドの工房だろう。
昨日の役割分担という会話を思い出す。
敵対する必要はない。同じ村で、別々の仕事をしているだけだ。
小屋に戻ると、入口の前に新しい列ができていた。
リーナが忙しそうに帳簿を書き込んでいる。
「おかえりなさい。レントさん聞いてください!依頼が、凄い量に増えてます」
「本当だな」
レントは、昨日の今日でここまで増えたことに嬉しくも恐ろしくもあり、苦笑しながら作業台に立った。
次の依頼は、欠けた包丁。さらにその次は、歪んだ鍋。本当に、仕事は途切れない。
外から、村人たちの話し声が聞こえてくる。
「ここに持ってくれば直してくれるらしい」
「昨日の鍬、すごく使いやすかった」
その声を聞きながら、レントは石で刃を整えた。
村人の声を聞いて、改めて仕事になってきたなと感じる。まだ小さな工房だ。設備も足りない。
だが確実に、人が集まり始めている。
刃を仕上げ、包丁を依頼人に渡す。
「助かった。これでしばらく使える」
「無理に使いすぎるな」
村の状況から仕方ないのはわかるが、包丁の様子から、またダメになってしまうと遠回しに言う。
「分かってるさ」
村人は、本当にわかったのかわかっていないのかといった感じで、笑いながら帰っていった。
「このままいけば、村の外にも噂が広がるかもしれませんね」
リーナが、帳簿に目を通しながら言った。
「まずは、この村の分をちゃんとやらないとな」
レントは、作業台を拭きながら答える。
そのとき、小屋の前に見慣れない荷車が止まった。
村の人間ではない、少し整った服の男が降りてくる。
男は周囲を見回し、工房の看板代わりの板を確認してから、ゆっくり近づいてきた。
「ここが、修理をしている工房ですか?」
レントは、顔を上げた。
どうやら、リーナの予想通り、噂は村の外まで届き始めているらしい。
日の出からそれほど時間が経っていないというのに、小屋の前にはすでに数人の村人が集まっている。
手に持っているのは、欠けた包丁、歪んだ鍬、刃の鈍った鎌。どれも生活に欠かせない道具ばかりだ。
「順番に受け付けますので、こちらに並んでください」
リーナが帳簿を開き、慣れた様子で声をかける。
昨日までは雑貨屋の手伝いだったはずなのに、もうすっかり工房の受付係だ。
レントは、作業台の前に立ち、最初の依頼品を手に取った。
【鉄製鍬(歪み)】
再利用効率:91%
修復推定成功率:86%
レントは、修復率100%の値に、思わずニヤリと笑みをこぼす。
石槌代わりの鉄片を手に取り、歪んだ部分を慎重に叩く。
コン、コン、と乾いた音が小屋の中に響く。
まだ本格的な工具は揃っていない。だが、やり方さえ分かれば、できることは多い。
何度か叩き直し、最後に柄のぐらつきを補強する。
「こんなもんだな」
鍬を持ち主に渡すと、農夫は半信半疑の顔で振ってみた。
空気を切る音が、昨日よりも軽い。
「おお~、いいなこれ」
先程までの半信半疑の表情はどこへやら、ぱっと顔が明るくなる。
「助かる。これで今日は楽できそうだ」
「無理はしないでくれ」
「分かってる」
農夫は笑いながら去っていった。
その様子を見ていた別の村人が、すぐに前へ出る。
「次、俺の鎌頼む」
「はい、順番にやります」
リーナが帳簿に印をつける。
依頼は途切れない。
レントは手を止める暇もなく、次々と道具を整えていった。
削る音、叩く音、研ぐ音。
それらが重なり、小屋の中に一定のリズムを作る。
「お、もう忙しそうだな」
ボルフが、お客をかき分けて店に入ってきた。
「朝が一番多いな」
「畑に出る前に直してもらえると助かるからな」
ボルフは作業台の上の鍬を手に取り、状態を確かめた。
「昨日より仕上がりいいな」
「慣れてきただけだ」
「慣れってのは大事だ」
ボルフは、真面目にやっているのを見て、満足そうに頷いたあと、少し声を落とした。
「なあ、畑、見に来ないか」
「畑?」
レントは、なぜ畑なのだろうかと、頭に疑問を浮かべた。
「直してもらった鍬、もう使ってる。違いが分かるぞ」
レントは手元の作業を終え、リーナに視線を向けた。
「少し席外しても大丈夫か」
「受付はやっておきます」
「頼む」
レントはボルフと一緒に畑へ向かった。
村の外れに広がる畑は、朝の光を受けて白く光っていた。
数人の農夫が、すでに作業を始めている。
その一人が鍬を振り、土を返す。
ざくり、と深く土が割れる。
「見ろ」
ボルフが、畑を指差す。
「前より楽に入る」
畑を耕している農夫が嬉しそうに言う。
「腕の疲れが違うな。引っかからねえ」
別の農夫も呼応するようにうなずいた。
レントはしばらくその様子を見ていた。
自分が直した道具が、実際に使われている。
それだけのことなのに、胸の奥に妙な感覚が広がる。
「今回の収穫、少し増えるかもな」
ボルフが言った。
「道具が良けりゃ、仕事が早くなる。単純な話だ」
レントは、当たり前だと小さく頷いた。
前世では、部品を直しても、その先を目にすることはほとんどなかった。
だが今は違う。結果がすぐ目の前にある。
「助かってる」
ボルフが短く言う。
その言葉に、レントは少し照れたように視線を逸らした。
「まだ始まったばかりだ」
「それでもだ」
ボルフは、真剣な顔で軽く肩を叩いた。
「お前が来てから、村の空気、ちょっと変わったぞ」
レントは、褒め慣れていないのもあり、何も言えなかった。
工房へ戻る途中、遠くに煙が見えた。
鍛冶場の煙だ。ガルドの工房だろう。
昨日の役割分担という会話を思い出す。
敵対する必要はない。同じ村で、別々の仕事をしているだけだ。
小屋に戻ると、入口の前に新しい列ができていた。
リーナが忙しそうに帳簿を書き込んでいる。
「おかえりなさい。レントさん聞いてください!依頼が、凄い量に増えてます」
「本当だな」
レントは、昨日の今日でここまで増えたことに嬉しくも恐ろしくもあり、苦笑しながら作業台に立った。
次の依頼は、欠けた包丁。さらにその次は、歪んだ鍋。本当に、仕事は途切れない。
外から、村人たちの話し声が聞こえてくる。
「ここに持ってくれば直してくれるらしい」
「昨日の鍬、すごく使いやすかった」
その声を聞きながら、レントは石で刃を整えた。
村人の声を聞いて、改めて仕事になってきたなと感じる。まだ小さな工房だ。設備も足りない。
だが確実に、人が集まり始めている。
刃を仕上げ、包丁を依頼人に渡す。
「助かった。これでしばらく使える」
「無理に使いすぎるな」
村の状況から仕方ないのはわかるが、包丁の様子から、またダメになってしまうと遠回しに言う。
「分かってるさ」
村人は、本当にわかったのかわかっていないのかといった感じで、笑いながら帰っていった。
「このままいけば、村の外にも噂が広がるかもしれませんね」
リーナが、帳簿に目を通しながら言った。
「まずは、この村の分をちゃんとやらないとな」
レントは、作業台を拭きながら答える。
そのとき、小屋の前に見慣れない荷車が止まった。
村の人間ではない、少し整った服の男が降りてくる。
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