『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜

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迷い込んだ料理人

第1話 森で目を覚ました料理人

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目を覚ました瞬間、タクミは空気の匂いに違和感を覚えた。

湿った土の匂い。草の青い香り。どこか冷たい空気が肺に入り、思わず小さく咳き込む。視界に入ったのは、見覚えのない木々と、枝の隙間から覗く空だった。

「......どこだ、ここ」


確か、仕事帰りの横断歩道で......ギュッと心臓が縮みこまり、自然と冷や汗が流れるほど恐怖した記憶を思い出し、タクミは軽く首を振った。

「まあ、生きてるならいいか」

タクミは、すぐさま切り替えて、状況が分からないときに考え込んでも仕方がないと考えた。まずは周囲を確認する。森の中らしい。人の気配はない。代わりに、風が木の葉を揺らす音だけが静かに響いていた。

そして、腹が減っている。

「まずは食い物だな」

ポケットを探ると、見覚えのない小さな革袋が腰に下がっていることに気づいた。中を開けると、乾いたパンが一つ入っている。

「いつの間に」
 
理由は分からないが、ありがたいと心の中で言う。乾いたパンを半分に割ろうとしたとき、近くの茂みが小さく揺れた。

そこから顔を出したのは、痩せた少年だった。年は十歳くらいだろうか。ぼろ布のような服を着て、警戒するようにこちらを見ている。だが、その視線はすぐに、タクミの手にあるパンへ移った。

腹、減ってるな。

その様子を見て、タクミは何も言わずパンを半分に割った。

「食うか?」
 
少年はすぐには動かなかった。だが、しばらく迷ったあと、ゆっくりと近づいてくる。

「......いいの?」

「腹減ってるんだろ」

少年は小さくうなずき、パンを受け取った。すぐにかじりつき、ほとんど噛まずに飲み込むように食べていく。

「慌てなくても取らないよ」

そう言うと、少年は少しだけ食べる速度を落とした。
食べ終えると、ほっとしたように小さく息を吐く。

「うまい」

「それはよかった」

パン自体が特別美味しいわけではない。ただ、空腹のときはそれだけで十分だ。
少年は少し考えるようにタクミを見てから、森の奥を指さした。

「村、ある」

「村?」

「こっち」

短い言葉だったが、意味は十分伝わる。行く当てもない以上、案内してもらうのが一番早そうだった。

「助かる。案内してくれるか?」

少年は小さくうなずき、歩き出す。
しばらく森の中を進むと、遠くに煙が見えてきた。さらに歩くと、木の柵と、いくつかの家が並ぶ小さな集落が姿を現す。

「ここ、俺の村」

「なるほど」

村の入り口に近づいたとき、どこか懐かしい匂いが風に乗って届いた。肉と野菜を煮込む匂いだ。

同時に、ぐう、と腹が鳴る。少年は、タクミを見ながら少しだけ笑った。

「腹、減ってる?」

「さっき食ったばかりだけどな」

懐かしい匂いで腹の虫が鳴るのは仕方ないが、初めて出会った少年に腹の虫が鳴るのを聞かれて、少し気恥かしくなり苦笑する。

「まあ、料理できる場所があるなら助かる」

「料理、できるの?」

「それしか取り柄がない」
 
少年は少し驚いたような顔をした。

「じゃあ、村の人、喜ぶかも」

「そうだといいけどな」
 
タクミは村の中へ足を踏み入れた。
このときはまだ知らなかった。
ここで作る最初の一杯のスープが、思っていたよりもずっと長い物語の始まりになることを。
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