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第十話 彼の録った足音
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クラスのグループメッセージの反応はまちまちだった。
盛り上がっている生徒は、自分達も旧校舎探検に行きたいと騒いでいるが、数人に過ぎない。
大半は半信半疑というところで、萌加たちにからかわれているという 疑念を隠さない。だが萌加の勢いに真っ向から反対する者はなく、遠巻きにして無難に驚きだけを返している。
そもそも興味がなく無視している層もいて、その生徒達は既読すらつけないので 可視化されていない。
数字にして6。最終的に萌加の画面から確認した既読が33。40ひく1ひく33は6。簡単な引き算だ。
彼らは行動範囲の広い、言ってしまえば素行不良気味の生徒達であって、メッセージを読んだとしても 今更学校に肝試しにいこうなんて思わないだろう。
霊的なものを信じないと積極的に否定する生徒も当然居た。
いつも反論から入る理屈っぽい男子が一人。それから怖いから信じたくないという気持ちからの正直な否定がいくつか。
つまり当初は、旧校舎探検が夏休みのちょっとしたブームになるなど想像もつかなかったのだ。
だが 兆候はあった。盛り上がった生徒たちはもちろんだが、他の生徒たちも、探検に行った五人が皆「見た」のだと思い込んでいるようだった。
裕太はきっぱりと、あやのは残念さをにじませながら否定のメッセージを送った。
しかしどうにも「探検に行った五人」と「見た」と言う言葉だけが強く結びつきすぎていて、否定は伝わりきらない。小枝子は終始、沈黙して、話題の変わるのを待っていた。
始めのグループが、翌々日にさっそく旧校舎探検に行った。
三人グループだったという。クラスの目立つ位置にいる男子たちで、その言葉の影響力は強かった。
彼らは口々に「見た」とクラスラインで伝えてきた。内部の画像も添付され、埃や飛び交う虫、蜘蛛の巣が反射する微細な光などがオーブに違いないと主張される。
置き去りにされた長靴の転がるさま、ところどころ半開きになった靴箱、奥につながる階段、あらゆるところに、顔を見つけるコメントがついた。
男子たちは虫と汚臭にも負けず、階段の途中まで登ったという。そこで、上階からこちらを覗き込む人影を揃って目撃して走って逃げ出してきたのだという。
窓からまだ明るい外の陽の差し込む室内で、その影は影でしかなかったという。
曖昧に人型を作るが、見た者の一人によれば腕が一本捻じれてついていたというし、あとの二人は伸びちぢみして頭の位置が変わったのを見たという。
三人が揃って主張したのは、全身に白い雪を纏っていたということだった。
彼らの報告は、それまで様子見をしていた層のうち、密かに興味を引かれていた少なくない人数の生徒の背を押した。彼らは競って旧校舎を見に行き始めた。
ついで萌加の投下した「 兵営正門前の松」は、さらに気軽な肝試しスポットとなった。
「感じた」「気分が悪くなった」とは肝試しが行われるたびに寄せられる感想で、大きな反響はもたらさないまま流された。
「見た」報告に関しては、萌加が見たもの、それに最初に行った三人組が見たものとほぼ変わらない報告が寄せられて、これも次第に飽きられて収束するかと思われた時だ。
霊的現象懐疑派の男子が、一人で旧校舎に行き、90度に折れ曲がるかね折れ階段の一番上まで登った。
彼は霊的現象を否定するため、動画を取りながら進んだ。
階段を登りきり、廊下へと足を踏み出したときだった。
廊下の奥、窓からの光が届ききらない薄暗がりから硬い足音が聴こえてきた。彼は実況として語った。
「俺の耳には今、軍靴らしき音が聴こえている。でもこれは無意識の思い込みによる幻聴かもしれない。つまりカメラには音声が入らないかもしれない。俺は信じている、人の脳のだまされやすさと、集団ヒステリーってやつを。だから、退かない」
そう語った彼に靴音が近づいてくる。
開け放しの近くの窓から、 蔦の生やす白い花の細かな花びらが 一斉に吹き込んできた。風が床の埃を舞い上がらせ、彼は思わずむせた。
そこでカメラは揺れ、階段を駆け下りる足元を映し、 蝶番の馬鹿になった靴箱のひとつひとつが扉を鳴らし、グラウンドの砂に倒れ込む画面で動画は終わった。
彼はグラウンドに飛び出した際に膝をすりむく程度で済んだという。だが動画には彼が耳で聴いた通りの音が入っており、幻聴では無いことが確認された。
なぜ 唐突に階段を駆け下り、逃げ出したのか、彼は語ろうとしなかった。
動画は分割してクラスのグループメッセージに投下された。そして軍靴らしき音を、再生した全員が聴いた。当然ミナも聴いた。
「聴こえる」とはミナは一度も語ったことはない。
「見える」と「感じる」は彼の語る通りの集団ヒステリーで説明がつく。だが動画に撮られた音は、どういうことだろうか。
そして靴音は、ミナがでまかせに言った「二階の奥の窓」の側から近づいてきたのだった。
盛り上がっている生徒は、自分達も旧校舎探検に行きたいと騒いでいるが、数人に過ぎない。
大半は半信半疑というところで、萌加たちにからかわれているという 疑念を隠さない。だが萌加の勢いに真っ向から反対する者はなく、遠巻きにして無難に驚きだけを返している。
そもそも興味がなく無視している層もいて、その生徒達は既読すらつけないので 可視化されていない。
数字にして6。最終的に萌加の画面から確認した既読が33。40ひく1ひく33は6。簡単な引き算だ。
彼らは行動範囲の広い、言ってしまえば素行不良気味の生徒達であって、メッセージを読んだとしても 今更学校に肝試しにいこうなんて思わないだろう。
霊的なものを信じないと積極的に否定する生徒も当然居た。
いつも反論から入る理屈っぽい男子が一人。それから怖いから信じたくないという気持ちからの正直な否定がいくつか。
つまり当初は、旧校舎探検が夏休みのちょっとしたブームになるなど想像もつかなかったのだ。
だが 兆候はあった。盛り上がった生徒たちはもちろんだが、他の生徒たちも、探検に行った五人が皆「見た」のだと思い込んでいるようだった。
裕太はきっぱりと、あやのは残念さをにじませながら否定のメッセージを送った。
しかしどうにも「探検に行った五人」と「見た」と言う言葉だけが強く結びつきすぎていて、否定は伝わりきらない。小枝子は終始、沈黙して、話題の変わるのを待っていた。
始めのグループが、翌々日にさっそく旧校舎探検に行った。
三人グループだったという。クラスの目立つ位置にいる男子たちで、その言葉の影響力は強かった。
彼らは口々に「見た」とクラスラインで伝えてきた。内部の画像も添付され、埃や飛び交う虫、蜘蛛の巣が反射する微細な光などがオーブに違いないと主張される。
置き去りにされた長靴の転がるさま、ところどころ半開きになった靴箱、奥につながる階段、あらゆるところに、顔を見つけるコメントがついた。
男子たちは虫と汚臭にも負けず、階段の途中まで登ったという。そこで、上階からこちらを覗き込む人影を揃って目撃して走って逃げ出してきたのだという。
窓からまだ明るい外の陽の差し込む室内で、その影は影でしかなかったという。
曖昧に人型を作るが、見た者の一人によれば腕が一本捻じれてついていたというし、あとの二人は伸びちぢみして頭の位置が変わったのを見たという。
三人が揃って主張したのは、全身に白い雪を纏っていたということだった。
彼らの報告は、それまで様子見をしていた層のうち、密かに興味を引かれていた少なくない人数の生徒の背を押した。彼らは競って旧校舎を見に行き始めた。
ついで萌加の投下した「 兵営正門前の松」は、さらに気軽な肝試しスポットとなった。
「感じた」「気分が悪くなった」とは肝試しが行われるたびに寄せられる感想で、大きな反響はもたらさないまま流された。
「見た」報告に関しては、萌加が見たもの、それに最初に行った三人組が見たものとほぼ変わらない報告が寄せられて、これも次第に飽きられて収束するかと思われた時だ。
霊的現象懐疑派の男子が、一人で旧校舎に行き、90度に折れ曲がるかね折れ階段の一番上まで登った。
彼は霊的現象を否定するため、動画を取りながら進んだ。
階段を登りきり、廊下へと足を踏み出したときだった。
廊下の奥、窓からの光が届ききらない薄暗がりから硬い足音が聴こえてきた。彼は実況として語った。
「俺の耳には今、軍靴らしき音が聴こえている。でもこれは無意識の思い込みによる幻聴かもしれない。つまりカメラには音声が入らないかもしれない。俺は信じている、人の脳のだまされやすさと、集団ヒステリーってやつを。だから、退かない」
そう語った彼に靴音が近づいてくる。
開け放しの近くの窓から、 蔦の生やす白い花の細かな花びらが 一斉に吹き込んできた。風が床の埃を舞い上がらせ、彼は思わずむせた。
そこでカメラは揺れ、階段を駆け下りる足元を映し、 蝶番の馬鹿になった靴箱のひとつひとつが扉を鳴らし、グラウンドの砂に倒れ込む画面で動画は終わった。
彼はグラウンドに飛び出した際に膝をすりむく程度で済んだという。だが動画には彼が耳で聴いた通りの音が入っており、幻聴では無いことが確認された。
なぜ 唐突に階段を駆け下り、逃げ出したのか、彼は語ろうとしなかった。
動画は分割してクラスのグループメッセージに投下された。そして軍靴らしき音を、再生した全員が聴いた。当然ミナも聴いた。
「聴こえる」とはミナは一度も語ったことはない。
「見える」と「感じる」は彼の語る通りの集団ヒステリーで説明がつく。だが動画に撮られた音は、どういうことだろうか。
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