嘘つきミーナ

髙 文緒

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第十一話 裕太が『見た』

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 ミナとしては、嘘が実体を持ち始めたこと、そして否定しようのない形で音が切り取られ、拡散されたことを不気味に思った。
 言ってしまえば今までは、ミナの言葉を信じた人間が勝手に踊っていただけのことなのだ。それと、今回聴こえたものとは決定的に違う。
 ミナの手をいよいよ離れ、集団の幻覚と切り捨てることもできない、別の位相いそうに入ったことを直感した。

 今までミナを信じつつも「見る」ことの叶わなかったあやのが、恐れながらも、同時再生しながらの通話をせがんできくるようになった。
 あやのと一緒に例の音の場面で楽しげに悲鳴をあげることが出来るのは、悪くなかった。好奇心と恐怖に ひたる間、あやのの頭には雑事が入る隙がない。 擬似ぎじ的に、あやのとミナはほとんど毎夜と言っていいほど一緒に旧校舎の階段を登り、靴音を聞き、きゃあきゃあと叫びながら階段を駆け下り、生還した。

 
 結局、その男子が怪我を負ってで帰宅したことから、旧校舎探検ブームは大人たちの知るところとなった。
 古い建物である。危険がある。ということで旧校舎探検は禁止されてしまった。 有志ゆうしの大人たちがホームセンターで買った太いチェーンと大きな錠前を、すぐさま玄関に取り付けた。

 だが生徒たちの興奮はもはや止めようがなかった。代わりに松を始めとした、街中の 遺構いこうについてミナに たずねるメッセージがクラスのグループメッセージにあふれた。
 ミナは松の他に、射撃場跡の公園、運動場跡のグラウンド、門柱跡など、知りうる限りの近隣の場所をあげた。

 すると動画に触発された生徒たちは、こぞって遺構巡りを始めた。そこでも「見た」「感じた」の報告は次々とあがったが、動画を上回るインパクトを与える報告はしばらく上がらなかった。

 旧校舎の窓から忍び込む計画を立てる者もいたが、誰かが事前に大人に 注進ちゅうしんしたことにより阻止され、一階の窓は全て板で おおわれた。歴史的建造物でもあるため、それは簡易的なものであったが、明り取りの窓を塞がれた建物内に忍び込もうという 気概きがいのある者は、さすがに現れなかった。

 動画の件は不可解だが、今度こそ、ミナの無邪気な嘘から始まった騒動が収束するかに思われたときだ。

 夜中に兄をつれて門柱跡を訪れた女子が手を引かれるという事件が起こった。

 彼女は何も見ていない。聴いてもいない。
 ただ冷たく細く、指というにはあまりに長い無数のなにかにからみ取られ、門柱に強く引き寄せられ、額を切り、鼻の骨を折った。
 とっさに叫んで助けを求めた彼女は、兄からすると頭をなんども門柱に打ち付けていたように見えた。

 なかばひきずられるようにして帰宅した後に、彼女は吐いた。そこには白い花びらが数枚、混じっていたという。
 それをクラスのグループメッセージに知らせたのは、彼女と親しい別のクラスの生徒だった。
 新規にグループに加わったとういう表示が出てすぐ、その生徒は彼女の体験を投下し、肝試しブームに釘を指し、退会した。

 だが安易に遺構に近づく生徒は減らなかった。

 そのうち、怪奇体験はヴァリエーションを増していき、遭遇場所ももはや遺構に限定されなくなった。街なかの至るところで、あらゆる時間に、霊らしきものと遭遇そうぐうしたという者が後をたたなくなった。


 ――そんな折、とうとう裕太が「見た」。


 旧射撃場跡の公園を避け、街中の小さな公園で、アスレチックとすべり台が一体化した遊具に思い思いに座っていたときだ。

「あそこにずっといる人、動かないんだよ」

 裕太が指した先には 東屋あずまやがあり、 鬱蒼うっそうとした木に囲まれている。虫が多く、そこで いこおうという人はあまり居なかった。

「陰になってるからかもしれないけど、人っぽく見えるときもあれば、木みたいに見えるときもあって、最初錯覚かと思ったんだ。でも多分、人なんだよ」

 指した先、ミナにはやはり何も居るように見えなかった。
 柱があり、三角屋根があり、木々の後ろに公衆便所の天井がかろうじてみえる、空っぽの東屋だ。
 萌加はすぐさま悲鳴をあげて、ミナの隣にひっついてきた。

「やだ、気付かなかった。ホントに居るじゃん。見てない? こっち」

「見てるね。でも害がある感じはしないよ」

 霊感少女の身振りがしみついていたミナは、何も考えずそんな返答が出来るようになっていた。

「もう嫌! なんで裕太くんまでそんなこと言うの! 最悪、最悪だよ。こういう話、私絶対だめなのに、みんなその話しかしない! 何も居ないし、見えない!」

 小枝子が 唐突とうとつに叫び声をあげた。
 そのまま公園から駆けて行ってしまった小枝子を追って、裕太も公園を去っていく。
 残されたミナと萌加は東屋から視線をそらして、二人の背中を追っていた。

 あやのだけが東屋を凝視していた。

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