11 / 34
第十一話 裕太が『見た』
しおりを挟む
ミナとしては、嘘が実体を持ち始めたこと、そして否定しようのない形で音が切り取られ、拡散されたことを不気味に思った。
言ってしまえば今までは、ミナの言葉を信じた人間が勝手に踊っていただけのことなのだ。それと、今回聴こえたものとは決定的に違う。
ミナの手をいよいよ離れ、集団の幻覚と切り捨てることもできない、別の位相に入ったことを直感した。
今までミナを信じつつも「見る」ことの叶わなかったあやのが、恐れながらも、同時再生しながらの通話をせがんできくるようになった。
あやのと一緒に例の音の場面で楽しげに悲鳴をあげることが出来るのは、悪くなかった。好奇心と恐怖に 浸る間、あやのの頭には雑事が入る隙がない。 擬似的に、あやのとミナはほとんど毎夜と言っていいほど一緒に旧校舎の階段を登り、靴音を聞き、きゃあきゃあと叫びながら階段を駆け下り、生還した。
結局、その男子が怪我を負ってで帰宅したことから、旧校舎探検ブームは大人たちの知るところとなった。
古い建物である。危険がある。ということで旧校舎探検は禁止されてしまった。 有志の大人たちがホームセンターで買った太いチェーンと大きな錠前を、すぐさま玄関に取り付けた。
だが生徒たちの興奮はもはや止めようがなかった。代わりに松を始めとした、街中の 遺構についてミナに 訊ねるメッセージがクラスのグループメッセージにあふれた。
ミナは松の他に、射撃場跡の公園、運動場跡のグラウンド、門柱跡など、知りうる限りの近隣の場所をあげた。
すると動画に触発された生徒たちは、こぞって遺構巡りを始めた。そこでも「見た」「感じた」の報告は次々とあがったが、動画を上回るインパクトを与える報告はしばらく上がらなかった。
旧校舎の窓から忍び込む計画を立てる者もいたが、誰かが事前に大人に 注進したことにより阻止され、一階の窓は全て板で 覆われた。歴史的建造物でもあるため、それは簡易的なものであったが、明り取りの窓を塞がれた建物内に忍び込もうという 気概のある者は、さすがに現れなかった。
動画の件は不可解だが、今度こそ、ミナの無邪気な嘘から始まった騒動が収束するかに思われたときだ。
夜中に兄をつれて門柱跡を訪れた女子が手を引かれるという事件が起こった。
彼女は何も見ていない。聴いてもいない。
ただ冷たく細く、指というにはあまりに長い無数のなにかにからみ取られ、門柱に強く引き寄せられ、額を切り、鼻の骨を折った。
とっさに叫んで助けを求めた彼女は、兄からすると頭をなんども門柱に打ち付けていたように見えた。
半ばひきずられるようにして帰宅した後に、彼女は吐いた。そこには白い花びらが数枚、混じっていたという。
それをクラスのグループメッセージに知らせたのは、彼女と親しい別のクラスの生徒だった。
新規にグループに加わったとういう表示が出てすぐ、その生徒は彼女の体験を投下し、肝試しブームに釘を指し、退会した。
だが安易に遺構に近づく生徒は減らなかった。
そのうち、怪奇体験はヴァリエーションを増していき、遭遇場所ももはや遺構に限定されなくなった。街なかの至るところで、あらゆる時間に、霊らしきものと遭遇したという者が後をたたなくなった。
――そんな折、とうとう裕太が「見た」。
旧射撃場跡の公園を避け、街中の小さな公園で、アスレチックとすべり台が一体化した遊具に思い思いに座っていたときだ。
「あそこにずっといる人、動かないんだよ」
裕太が指した先には 東屋があり、 鬱蒼とした木に囲まれている。虫が多く、そこで 憩おうという人はあまり居なかった。
「陰になってるからかもしれないけど、人っぽく見えるときもあれば、木みたいに見えるときもあって、最初錯覚かと思ったんだ。でも多分、人なんだよ」
指した先、ミナにはやはり何も居るように見えなかった。
柱があり、三角屋根があり、木々の後ろに公衆便所の天井がかろうじてみえる、空っぽの東屋だ。
萌加はすぐさま悲鳴をあげて、ミナの隣にひっついてきた。
「やだ、気付かなかった。ホントに居るじゃん。見てない? こっち」
「見てるね。でも害がある感じはしないよ」
霊感少女の身振りがしみついていたミナは、何も考えずそんな返答が出来るようになっていた。
「もう嫌! なんで裕太くんまでそんなこと言うの! 最悪、最悪だよ。こういう話、私絶対だめなのに、みんなその話しかしない! 何も居ないし、見えない!」
小枝子が 唐突に叫び声をあげた。
そのまま公園から駆けて行ってしまった小枝子を追って、裕太も公園を去っていく。
残されたミナと萌加は東屋から視線をそらして、二人の背中を追っていた。
あやのだけが東屋を凝視していた。
言ってしまえば今までは、ミナの言葉を信じた人間が勝手に踊っていただけのことなのだ。それと、今回聴こえたものとは決定的に違う。
ミナの手をいよいよ離れ、集団の幻覚と切り捨てることもできない、別の位相に入ったことを直感した。
今までミナを信じつつも「見る」ことの叶わなかったあやのが、恐れながらも、同時再生しながらの通話をせがんできくるようになった。
あやのと一緒に例の音の場面で楽しげに悲鳴をあげることが出来るのは、悪くなかった。好奇心と恐怖に 浸る間、あやのの頭には雑事が入る隙がない。 擬似的に、あやのとミナはほとんど毎夜と言っていいほど一緒に旧校舎の階段を登り、靴音を聞き、きゃあきゃあと叫びながら階段を駆け下り、生還した。
結局、その男子が怪我を負ってで帰宅したことから、旧校舎探検ブームは大人たちの知るところとなった。
古い建物である。危険がある。ということで旧校舎探検は禁止されてしまった。 有志の大人たちがホームセンターで買った太いチェーンと大きな錠前を、すぐさま玄関に取り付けた。
だが生徒たちの興奮はもはや止めようがなかった。代わりに松を始めとした、街中の 遺構についてミナに 訊ねるメッセージがクラスのグループメッセージにあふれた。
ミナは松の他に、射撃場跡の公園、運動場跡のグラウンド、門柱跡など、知りうる限りの近隣の場所をあげた。
すると動画に触発された生徒たちは、こぞって遺構巡りを始めた。そこでも「見た」「感じた」の報告は次々とあがったが、動画を上回るインパクトを与える報告はしばらく上がらなかった。
旧校舎の窓から忍び込む計画を立てる者もいたが、誰かが事前に大人に 注進したことにより阻止され、一階の窓は全て板で 覆われた。歴史的建造物でもあるため、それは簡易的なものであったが、明り取りの窓を塞がれた建物内に忍び込もうという 気概のある者は、さすがに現れなかった。
動画の件は不可解だが、今度こそ、ミナの無邪気な嘘から始まった騒動が収束するかに思われたときだ。
夜中に兄をつれて門柱跡を訪れた女子が手を引かれるという事件が起こった。
彼女は何も見ていない。聴いてもいない。
ただ冷たく細く、指というにはあまりに長い無数のなにかにからみ取られ、門柱に強く引き寄せられ、額を切り、鼻の骨を折った。
とっさに叫んで助けを求めた彼女は、兄からすると頭をなんども門柱に打ち付けていたように見えた。
半ばひきずられるようにして帰宅した後に、彼女は吐いた。そこには白い花びらが数枚、混じっていたという。
それをクラスのグループメッセージに知らせたのは、彼女と親しい別のクラスの生徒だった。
新規にグループに加わったとういう表示が出てすぐ、その生徒は彼女の体験を投下し、肝試しブームに釘を指し、退会した。
だが安易に遺構に近づく生徒は減らなかった。
そのうち、怪奇体験はヴァリエーションを増していき、遭遇場所ももはや遺構に限定されなくなった。街なかの至るところで、あらゆる時間に、霊らしきものと遭遇したという者が後をたたなくなった。
――そんな折、とうとう裕太が「見た」。
旧射撃場跡の公園を避け、街中の小さな公園で、アスレチックとすべり台が一体化した遊具に思い思いに座っていたときだ。
「あそこにずっといる人、動かないんだよ」
裕太が指した先には 東屋があり、 鬱蒼とした木に囲まれている。虫が多く、そこで 憩おうという人はあまり居なかった。
「陰になってるからかもしれないけど、人っぽく見えるときもあれば、木みたいに見えるときもあって、最初錯覚かと思ったんだ。でも多分、人なんだよ」
指した先、ミナにはやはり何も居るように見えなかった。
柱があり、三角屋根があり、木々の後ろに公衆便所の天井がかろうじてみえる、空っぽの東屋だ。
萌加はすぐさま悲鳴をあげて、ミナの隣にひっついてきた。
「やだ、気付かなかった。ホントに居るじゃん。見てない? こっち」
「見てるね。でも害がある感じはしないよ」
霊感少女の身振りがしみついていたミナは、何も考えずそんな返答が出来るようになっていた。
「もう嫌! なんで裕太くんまでそんなこと言うの! 最悪、最悪だよ。こういう話、私絶対だめなのに、みんなその話しかしない! 何も居ないし、見えない!」
小枝子が 唐突に叫び声をあげた。
そのまま公園から駆けて行ってしまった小枝子を追って、裕太も公園を去っていく。
残されたミナと萌加は東屋から視線をそらして、二人の背中を追っていた。
あやのだけが東屋を凝視していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる