嘘つきミーナ

髙 文緒

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第十二話 きっと見えるようになる

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「さえぴ怒っちゃったね。本当に怖いのだめなんだ。でもそうならそうってはっきり言わなきゃだめじゃない? いきなりキレられても裕太も困るしょ」

「喧嘩にならんといいねえ」

「なったくらいが良いよ。もえ、さえぴみたいに察して察してじゃ分からないもん。裕太だってそうじゃない? それにんだったりして」

「それは言い過ぎ」

 小枝子が強く主張出来ない立場と性格なのは、小枝子のせいではないし、そこは気の毒だった。
 言葉に出さないにしても、旧校舎探検の時点であれだけ怖がっていたのだから、もう少し気遣われてもよかったかもしれないと、発端ほったんたるミナとしては思わなくもない。
 個人的に小枝子と合わない部分があるとしてもだ。

「言い過ぎなことないと思うけどなあ。ね、あーやはどう思う?」

 萌加の言葉に、アスレチックから三方に伸びる滑り台のうち一番短いものの終点に座り込んでいたあやのを見やる。
 あやのは東屋を凝視したまま答えた。

「うちも見えないんだよね。見えない方がおかしいんかもと思い始めてきた」

 呟いた声がさみしげで、「あたしも最初から見えてないよ」とミナは言いたくなった。言えるはずは無かった。
 あやのは怪談話が広まってから、明らかに笑顔が増えていたし、集まりにも顔を出す回数が増えた。
 信じさせてあげたい。あやのにも見えるようなれば、一番いい。そう願った。

「きっと見えるようになるよ」

「そうだよ、あーやだって見られるよ!」

 萌加と二人で駆け寄って、両側から肩を組んで励ました。

「ありがと。なんかそんな気がしてきた」

 あやのはそう言って笑った。

 裕太が「見る」ようになったことで、五人のうち見えていないのは表向き小枝子とあやのだけになった。
 時期を同じくして、クラスのグループメッセージでも既読のつく33人から5を引いた28人のうち、「見た」報告をしない者は片手で数えられるほどに少なくなった。

 見えない生徒のうち素直に羨望せんぼうを表す者がいる一方、何も発言しなくなる者もいた。始めは楽しげに他の生徒たちの報告に反応していた生徒たちだった。
 彼らは飽きたのだろうか。しかし既読数は変わらない。読んでいる。
 反応のなくなった生徒たちは、日をおいて、新たな「見た」生徒としてメッセージ上に現れるようになった。
 そうしてすっかり、#単語__・__見えない者#は少数派として同情される立場になってしまった。
 




「さえぴも結局さあ、裕太に甘えすぎだと思うな」

 萌加はシマエナガパフェに乗ったマシュマロのシマエナガを残すため、周りのアイスを崩してすくう。クレープタイプの手持ちパフェだ。
 可愛らしいパフェを持つ萌加の前には、小さな紙コップに入ったフードコートの無料の水。雑然としたフードコートの景色のなかで、萌加の手の中のパフェだけがファンシーに浮いていた。

「裕太、見えなければ良かったって凹んでて可哀想だったね」

 いちごミルクのストローをくわえながら、ミナが調子を合わせる。
 今日は三時間は粘ろうという算段だ。そう景気よく飲むわけにはいかない。だから横に無料の水も汲んできてある。
 八月の盆前、北国とはいえミナの住む地域では恐ろしい暑さが一週間ほど続く、そのさなかだった。

「見えなければいいなんてことなくない? 大体さあ、さえぴだって見えてるかもよ、実は。だって怖がりようが 尋常ジンジョウじゃないじゃん」

「見えてたら、裕太を避けるなんてするかなあ。情報交換したくならない?」

 まあ、もえは初めて見たという日にアツシ先輩と通話しなかったけどね、と思うが、ただストローを噛むにとどめた。やたらと拡散して騒ぐわりにアツシ先輩を巻き込もうとしないしない萌加の態度は、意味不明だ。

「さえちゃんが見えるとしたら、ホントに見えないのうちだけになっちゃうなあ」

 おにぎりを頬張りながら、あやのが呟いた。
 あやのはこのあと買い物をして帰る予定なので、長居を前提とする必要がない。二つ買われたおにぎりの一つ目はもう食べ尽くされようとしている。

「大丈夫だって、見たいと思っていればいつか見られるよ。それがいいことばかりとは限らないけどね」

「そうだよね、ミナはそれで一人で困ってたんだもんね。また軽率なこと言ってるね、うち」

「ミーナはあーやのこと責めてないよ!『#単語__・__きっと見えるようになる#』。だって信じてなかった人まで見てるんだから、信じてるあーやだけ見えないなんて無いって」

 パフェに突き刺さったクラッカーにアイスを乗せながら、萌加が声を高くする。

「まあとにかく、見える見えない、信じる信じないで揉めるのは、ちょっとヤダよね」

 そうミナがまとめようとした時だった。
 萌加が芝居がかった、息を飲む動作をした。それから冷えた指先でミナの肩をつつくと、フードコートの端に設けられたガチャポンコーナーを指してささやいた。

「あそこのガチャコーナーにいる男の子、後ろにもうひとり小さい子がくっついてない?」

 子供の霊の目撃談は初めてだった。
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