嘘つきミーナ

髙 文緒

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第十三話 霊障

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 当然ミナには何も見えない。それでも口が勝手に話を合わせている。

「ああ小さい子がいるね。性別はよく分からないけど」

「ちょっと寒気がすると思った」

 あやのが言うが、それは空調が効いてるからだろうと思った。
 今日は前がシャーリング加工されたタンクトップを着ている。立ち上がるとヘソが見えるか見えないかくらいの長さで、あやのの大人っぽいおしゃれがミナは好きだけれど、それはそれとして寒いだろう。

「よちよちだしぼやっとしてるから、確かに女の子か男の子か分からないかも! 男の子っぽい感じもするけど。お母さんにくっついてあの子のガチャガチャの手元を眺めてるね」
 
「あー、一緒に遊びたいのかな」

 萌加の言葉に調子を合わせて、気のない返事をしたときだ。

「生まれなかった赤ちゃんだったりして……」

 萌加の声が突然低くなった。

 その内容について一瞬考えた後にミナは、発想の恐ろしさに、空調とは関係ない寒気を覚えた。
 ミナは厚手のTシャツにショートパンツ、靴下を合わせたスポーツサンダル姿で、いままでこの格好でショッピングセンターにいて、寒いと思ったことは無かった。

「それはさすがに、」

 言いかけた時だった。
 甲高い破裂音がした。続いて、女性の叫び声と、高く硬質な幼児の泣き声が耳に届いた。

 見ると、男の子の手元にあったはずのカプセルの破片が、その足元に散らばっている。
 母親は男の子を抱え込むようにして顔を寄せた。取り出したタオルハンカチをまぶたに当てながら背中をさすり、ひたいを合わせながら何度も慰め、なだめようとしている。

 とっさに目を見合わせてうなずきあった三人は、母親と子供の元へと走った。

 ミナはガチャポンのかけらを拾い集めた。プラスチックは指の先ほどの大きさに砕けて、それぞれに鋭い角を持っている。
 拾い集める指先に痛みが走り、思い立って男の子を見上げるとまぶたの上が切れているようだった。涙と一緒になった血が、母親のあてたタオルハンカチに赤い染みを広げていた。

「怪我しちゃってる!」

 ミナが言うと、あやのが小さなショルダーバッグから絆創膏ばんそうこうを出して、母親に渡した。萌加はクレープタイプの手持ちのパフェを頼んでしまっていたのもあり、片手が食べかけのシマエナガパフェでふさがれている。中腰になって、こわかったね、びっくりしたね、と男の子に声掛けをしてあげていた。

 状況が落ち着いたところで、しがみついて離れない男の子を抱き上げた母親がお礼を言う。
 三人は、口々にいたわって見送った。

 気づけばあやのの帰る時間が近づいていて、急ぎスーパーへの買い物に向かうためにミナたちと解散した。
 分かれる前に、あやのは「見てみたいとか言っちゃったけど、やっぱり霊って怖いかも。うん、怖い。軽い気持ちで言っちゃだめだね」と言い残していった。

「このあと何しようか」

 萌加はとうとうマシュマロで出来たシマエナガを口に運んだ。
 ぬるくなって手に垂れたクリームを舐めて、クレープの皮にも取り掛かろうとしていた。つまりもう食べきらないとならない頃合いだということだ。

 今日は涼しくなるまでイオンにもろうと言ったのに、なんで手持ちパフェなんて選ぶんだと馬鹿らしくなったミナは、それまでケチくさく飲んでいたいちごミルクを音を立ててすすった。

「雑貨屋でも見る?」

「もえアクセ欲しいかも」

「あたしは100均行きたい。ここのデカいし」

「いいね」

「あと本屋で雑誌読む」

「今月のminoの表紙、ミーナの推しだったっけ」

 予定が決まったところで、裕太と小枝子が仲直りすればいいね、と恐らく二人ともそこまでの切望はしていない話をした。
 それでもいつメン五人のうち二人が喧嘩しているというのは、愉快な状況ではないので、適当に収まってくれという気持ちは本当のところだ。

「さえぴがようになれば解決なんだよ。それで怖い思いしてもさ、裕太が助けてあげたらそれで王子様じゃん」

「それよりはこのブームが収まって、霊が居なくなればいいんじゃない? さえちゃんが怖がってたのもそうだけど、さっきの男の子みたいにもううちらのクラス関係なくなってきてるし。あやのも言ってたじゃん、『軽い気持ちで言っちゃだめだね』って。あたし、自分の言霊みたいなものにもっと責任もちたい。だから、霊よ居なくなれ! って願うし、言うよ」

 ミナとしては決意の言葉だった。

 しかし萌加は、指先のべたつきをなるべく引き手につけないように、器用に爪を掛けながらリュックを開けて中を探っていて、答えなかった。
 ウェットティッシュを探り当てた萌加が、指の股まで丹念に拭き取る。二枚使う。機嫌よさげに歌まで口ずさんでいる。

 それを眺めながらミナは、底に残ったいちごミルクの最後の一口を すすった。口に残る人工的な甘さを流したくて、続けて水を飲むと、ぬるまった水道水としか表しようのない味がした。

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