嘘つきミーナ

髙 文緒

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第二十七話 嘘つきミーナ

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「ありがとう、ごめんね、さえちゃん」

 呟いて、ミナはそのままクラスのグループメッセージ画面を開いた。この「傷つき」の勢いのまま、全員に告白してボロボロにして欲しい。それもまた甘えであるけれど、どうせ受けるなら一度に罰を受けたかった。

 ――今までのあたしの話は全部嘘だしあたしは何も見えてません
 ――あたしに霊感はありません
 ――言葉にしてしまったことで言葉がちからをもってみんなを傷つけることになりました
 ――軽い気持ちでついた嘘が取り返しのつかないことになりました
 ――街がおかしくなっています あたしを嘘つきだと言って嘘つきの嘘を本当から嘘に戻してください
 ――これはお願いです みんなであたしを嘘つきだと言ってください

 突然の連投になってしまったが、既読数はみるみる増えていった。あえて萌加の言葉のちからには触れなかった。

 始めはとまどいの反応だけがあった。

 ――急にどうした?
 ――私ホントに見たよ
 ――靴の音の録音もあるじゃん
 ――嘘なのに霊になるとかあるの?

 当然だろう、実際に霊を見て、聞いて、触れた生徒が沢山いるのだ。それを嘘から出た真だと急に言われても、信じられないにきまっている。それでも信じてもらわないといけない。
 どうすればいいのか、次に打ち込む言葉を考えていたときだ。

 ――戸川が嘘ついてたってのは本当だよ 俺聞いたから
 ――嘘のせいで霊が形を持ったってこと それが制御できなくなってる
 ――俺が怪我したのも馬渡が呪われたのも嘘つきの戸川のせいだよ

 裕太がミナの話を補強する。外から見て仲の良いグループの一人である裕太がミナを嘘つきと断言したことに、クラスの皆はますます混乱を深めた。



 ――私を呪ったのはミナちゃんの嘘だよ



 小枝子のアイコンが一言呟いた。

 小枝子を心配する声が続いて、それから、友達を呪う嘘なんて最低だ、という声が少しずつ大きくなっていく。

 ――嘘だったのかよ
 ――承認欲求ヤバすぎ
 ――実は最初からあやしいと思ってた
 ――ていうか霊なんていないよな
 ――おれ親からすげー怒られたんだけど

 断罪の機運が熟している。ミナは再度メッセージを送信した。

 ――街を戻すために協力してください 嘘つきだと言ってください
 

 嘘つき、大嘘つき、最低の嘘、嘘ばっかり、信用ゼロ、嘘つき、……



 ――嘘つきミーナ



 萌加のメッセージが合間に混ざった。

 ――みんなで責めるのってちょっといじめみたいじゃない?

 そう言う生徒もいた。件の、心霊現象懐疑派の男子だ。天邪鬼と言ってしまえばそうなのだが、恐ろしい目にあいながらも、集団の気分に左右されないで居ようという彼の志は眩しかった。だがその眩しさを、ミナは悪者として侮辱しなくてはならない。
 誰一人ミナを信じないという状況にしなければならない。
 
 ――まだ信じてんだw
 
 あえてそう返すと、彼ではない他の生徒から強い反発があって、彼自身からの返信はすぐには無かった。
 ミナを糾弾する声の波が一瞬収まった隙をついて、一言

 ――戸川ミナは嘘つきである

 と返ってきた。

 皆からの糾弾は確かに辛かった。だが罪悪感によってミナの心を深くえぐったのは、裕太と小枝子による補助、そして心霊現象懐疑派の男子の、恐らく気遣いの末であろうかたい言い回しの一言だった。

 ……とにかく、クラスはこれで大丈夫だと思えた。

 あとは連絡のつかないあやのを何とかしなくてはならない。
 階下からは呑気に夕飯の仕度が出来たことを知らせる声があり、ミナはスマホをポケットに滑り込ませて階下へ向かった。


 *

 その時刻ははっきりと覚えている。

 ミナの家の夕飯は、七時と決まっている。朝、昼の食事では何も言われないが、夕食時にはテレビを消して団らんするのがミナの家のならいだ。
 家族全員が席についてから、居間でつけっぱなしになっているテレビが消されることになっている。
 ミナが自分の席についたところで、Nスタが終わって、プレバト!!の放送の告知があった。その瞬間にテレビの画面が消えたので、七時数分前というところだろう。ポケットに入れたスマホがライン通話の着信を知らせる呑気な音楽を鳴らした。

「先食べてるからね」

 という母親の言葉を背にリビングから出て画面を確認すると、果たして、着信はあやのからのものだった。
 すかさず受話器を上にスワイプすると、外に居るらしい風の音がした。の、割に、車の走る音は無かった。

「もしもし、あやの? どうしたの? ライン見た?」

 ミナがやつぎばやに訊ねるも、あやのは「どうしよう。どうしよう」と繰り返していて、要領を得ない。

「どうしたの? どこなの? なにがあったの?」

 同じことを、オウム返しにして聞き続けるしかない。あやのの気持ちを落ち着けたくて、少し言葉のテンポを落とすことにした。

「なんでもいいから、教えて。なにかあったんだよね?」

「……キが。タイキが大変なの」

 ミナの心臓が鋭い痛みを訴えた。まるで針山にされた心臓に、好き勝手にマチ針を刺されたような感じだ。

「いまどこなの? タイキくんなにがあったの?」

「夜間救急。熱が高いままとまらなくて、吐いて、泣かないでぐったりしてるの。ICUに入ることになるかもって」

 どうしよう、どうしよう。

 あやのはまたそればかりを繰り返した。

「霊の、せいなの? タイキは、取り、憑かれたの?」

 しゃくりあげる音が混じり、あやのは息を継ぎ継ぎそう言った。
 その言葉から、クラスのグループメッセージを見ていないであろうことは予想がつく。だが一から説明して納得させるだけの、精神の余裕も時間の猶予も、あやのは持ち合わせていないように思われた。

「出来るだけ手短に話すね。まずあやのには、あたしのことを嘘つきって言って、嫌って、軽蔑してもらわないといけない。タイキくんを助けるためには、そうするしかない。分かる?」
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