9 / 53
8話 読了!
しおりを挟む
会社から与えられたPCには、テプラで私の社員番号と名前が貼られている。奔馬鹿ノ子。
お母さんが妊娠中に鹿ノ子餅にドハマりしたために名付けられたという、冗談みたいな名前だ。なんでもつわりが酷かった時に、唯一食べられたのが鹿ノ子餅だったらしい。
せめてトマトとかにハマって欲しかった。『奔馬とまと』も、からかわれそうな名前だけど、馬と鹿が並んで『馬鹿』が出来上がるよりよっぽどましだ。
と、いけないいけない。名前に関することですぐにグチっぽくなってしまう。
気を取り直してアウトルックを立ち上げる。
kanoko_honbaという私の名前の後ろにアットマークがあって、星の友社のドメインが続くアドレス。
ああ、私は星の友社に入ったのだという実感が湧いてくる。
kanoko_honbaという表記になると、私の名前も悪くない気がしてくるし、メールアドレスは愛しい。
「ちょ、え、ちょっと待って」
受信メールが三桁溜まっていて、一瞬気が遠くなりかける。ただ、冷静に見ていくと、部内のスケジュール共有とか、総務からの連絡とか、グループ企業のグループ報とか、そういった緊急性の低いメールも多そうだと気づく。
まずはフォルダ分けだ! と気合を入れ直す私の視界の端に、あともう少しで読み終えるところだった田原小鳩の原稿が置かれている。
……気になる。姉から離れた女郎の霊と、姉妹と、除霊師が揃ったところでどういうラストに持っていくのか。しかも姉と除霊師が、ちょっといい感じになりそうな描写があった。
女郎の悲しい過去をなぞりながら、その女郎とシンクロした姉の過去が語られていた。そこに除霊師がどう返すのかというところで、原稿を閉じてしまったのだ。
「ちょっと、三瀧の台詞のところだけ……読もうかな……」
メールの振り分け作業をストップして、裏返して置いたままの原稿を手に取る。
小説の続きが気になると、なにも手につかなくなってしまうのは私の悪い癖だ。
えっちなものは身震いするほど苦手だけれど、お話の続きは気になる。続きが知りたくなるポイントが、短いなかにもたくさんあって、読者の呼吸を知って作られている。
繰り返すけど、田原小鳩の書く肛虐小説はエグすぎるので嫌いだ。でも田原小鳩の小説のリズムは、私にとって心地が良いらしい。
――女郎の霊が昇天しつつ昇天していく……! 張り型にそんな霊力を込めることが出来るなんて……!
――素に戻ったお姉さんへの三瀧の対応、急に事務的になるところ、冷たいかと思ったけど……そこからこの台詞はずるいじゃん! 好きになっちゃうじゃん! ていうかこれ両想いじゃん!
――あー、妹からも矢印が向いてるけど、どうするんだろう。妹がキャラとして持て余されるのでは。って、え? 女郎の妹エピソードと絡んでくるの? うわー、泣けるう。
「ラストシーン、良かった……! なにこれ、いい話じゃん。ちょっと悔しいんですけど」
最後まで読み切った私は、自然とため息を漏らしていた。心地よい疲労が混じった満足感。あのエグいプレイから始まる話を、こんな良いラストシーンにまとめてくるとは。只者ではない。
お母さんが妊娠中に鹿ノ子餅にドハマりしたために名付けられたという、冗談みたいな名前だ。なんでもつわりが酷かった時に、唯一食べられたのが鹿ノ子餅だったらしい。
せめてトマトとかにハマって欲しかった。『奔馬とまと』も、からかわれそうな名前だけど、馬と鹿が並んで『馬鹿』が出来上がるよりよっぽどましだ。
と、いけないいけない。名前に関することですぐにグチっぽくなってしまう。
気を取り直してアウトルックを立ち上げる。
kanoko_honbaという私の名前の後ろにアットマークがあって、星の友社のドメインが続くアドレス。
ああ、私は星の友社に入ったのだという実感が湧いてくる。
kanoko_honbaという表記になると、私の名前も悪くない気がしてくるし、メールアドレスは愛しい。
「ちょ、え、ちょっと待って」
受信メールが三桁溜まっていて、一瞬気が遠くなりかける。ただ、冷静に見ていくと、部内のスケジュール共有とか、総務からの連絡とか、グループ企業のグループ報とか、そういった緊急性の低いメールも多そうだと気づく。
まずはフォルダ分けだ! と気合を入れ直す私の視界の端に、あともう少しで読み終えるところだった田原小鳩の原稿が置かれている。
……気になる。姉から離れた女郎の霊と、姉妹と、除霊師が揃ったところでどういうラストに持っていくのか。しかも姉と除霊師が、ちょっといい感じになりそうな描写があった。
女郎の悲しい過去をなぞりながら、その女郎とシンクロした姉の過去が語られていた。そこに除霊師がどう返すのかというところで、原稿を閉じてしまったのだ。
「ちょっと、三瀧の台詞のところだけ……読もうかな……」
メールの振り分け作業をストップして、裏返して置いたままの原稿を手に取る。
小説の続きが気になると、なにも手につかなくなってしまうのは私の悪い癖だ。
えっちなものは身震いするほど苦手だけれど、お話の続きは気になる。続きが知りたくなるポイントが、短いなかにもたくさんあって、読者の呼吸を知って作られている。
繰り返すけど、田原小鳩の書く肛虐小説はエグすぎるので嫌いだ。でも田原小鳩の小説のリズムは、私にとって心地が良いらしい。
――女郎の霊が昇天しつつ昇天していく……! 張り型にそんな霊力を込めることが出来るなんて……!
――素に戻ったお姉さんへの三瀧の対応、急に事務的になるところ、冷たいかと思ったけど……そこからこの台詞はずるいじゃん! 好きになっちゃうじゃん! ていうかこれ両想いじゃん!
――あー、妹からも矢印が向いてるけど、どうするんだろう。妹がキャラとして持て余されるのでは。って、え? 女郎の妹エピソードと絡んでくるの? うわー、泣けるう。
「ラストシーン、良かった……! なにこれ、いい話じゃん。ちょっと悔しいんですけど」
最後まで読み切った私は、自然とため息を漏らしていた。心地よい疲労が混じった満足感。あのエグいプレイから始まる話を、こんな良いラストシーンにまとめてくるとは。只者ではない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる