【完結】自傷探偵と日南くん。〜ときどき幽霊〜

あいう

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ep23.調査開始➁

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 姉が葛西——……星川糺に憑りついているのはわかった。
 でも何故、あんな神様みたいな姉が星川に憑りつく必要がある?
 姉は決して人を恨んだり、妬んだりする人間では無いはずだ。姉はいつでも正しくて、悪いことなんて決してしない。幽霊として憑りつくなんてことするわけがない。きっと姉には理由があるのだろう。例えば、星川が悪い人間でもう悪いことをしないように抑止力として監視しているとか。そうに違いない。絶対そうだ。
「姉さんが……間違うはずがない……絶対に絶対に姉さんが正しい……」
 布団の中に潜り込んでそう呟く。早く星川を殺さなければならない。姉を早く解放してやらなければ。

「しかし……どうすれば……」
 日中は毎日星川の部屋に行っているが、帰宅している様子はない。今、身を置いている置いている場所もわからない。また八方塞がりだ。とりあえず星川にもう一度会って話を聞きたいところだが……。
「何か、アイツが行きそうな場所……」
 思えば、俺は「K」の事も「葛西鈴音」の事も「星川糺」の事も何も知らない。
 「K」はいきなり現れた。資産は結構持っているようで、生活力は無いが金には困っていない。毎日ウチに来るくらいだから、仕事もしていないみたいだ。病状が不安定で自傷癖がある。病院には行っていないから、そこを当たることも出来ない。最も、守秘義務で患者の住所など職員は教えてくれないだろうが。
 「葛西鈴音」は探偵だ。探偵事務所を持っていて、行動力がある。探偵事務所は長らく使っていなかったようだ。書類の類は残っておらず、特に顧客情報の類は無かった。恐らく持ち物件か何かで、事業を畳んで諸々を処理した後で放置したのだろう。あそこを探しても手掛かりはつかめないだろう。なんたって、あそこを掃除したのは他でもない自分だ。何かあったら覚えている。
 「星川糺」は……。姉が好きだった人で、姉が死んだ原因。それ以外の情報は正直持っていない。
(よく考えろ、星川についてなにか情報があるとしたら……)
 記憶を辿れ、思い出せ。星川が「先生」だった時の記憶を。
 一日目。星川を姉が連れてきた。今日から家庭教師をすると紹介された。姉がバイト中、俺の勉強を見てくれるという約束だった。前金は貰ってるから、とも言っていた気がする。授業はつつがなく終わり、特に問題はなかった。ああ、その日の夜に姉から未来の義兄になると聞いたか。と、言う事は二人は付き合っていたのだろうか?
 二日目。星川がケーキを持ってきた。あと、姉の誕生日プレゼントとして白い薔薇を持ってきていた。そういえば、前に墓参りに行った時供えてあった花はアレと同じだった気がする。あの時Kが蹲っていたのは、もしかしたら墓参りの後だったからか。
 三日目。星川は姉のいない日にやってきた。「ごめんね、家庭教師は辞退するよ」そう言って、数万円を渡された。きっとこの金は姉から家庭教師料として渡されていた金だろう。それと姉にプレゼントを預かった。カモミールのハーブティだ。
 姉はそれから三日目に自殺した。あの人に選ばれなかったので死にます。そう書き残して。
 そうだ、あの日、姉からメールが来たのだ。「今日は何か用事ある?」あの時、姉は俺に何を伝えるつもりだったのだろうか?
「……そうだ、携帯」
 どうして気づかなかったのだろう。星川が「先生」ならば、メールか何か残っているんじゃないか?
 俺は姉のスマートフォンの充電ケーブルを確かめる。旧型だ。自分は比較的新しいスマートフォンを使っているから充電ケーブルの型が合わないが、姉の部屋にケーブルが残っているだろう。確か整頓が得意な姉は学習机の一番下の引き出しに電子機器類をまとめていたはずだ。
 部屋を出て、隣の姉の部屋を開ける。目当てのものを見つけ、充電ケーブルを長らく使われていないコンセントに差して姉のスマートフォンを繋げる。起動するには時間がかかりそうだ。この部屋も、星川と来て以来入っていない。
「……そういえば」
 姉の学習机を眺める。星川は確かこの部屋で「先生」の手掛かりを探すとき、ここは調べなかった。

『ピッキングは得意だろ。不法侵入者』
『あはは……、でも、ここを開けるのは最終手段にさせてくれ』
『?』
『まだ準備ができてないんだ』

 準備、とは何だったのだろう。ピッキングが得意な星川が、この引き出しを開けるのは嫌がった。まさかここに、星川と姉が関わる何かが隠されているのではないだろうか。
「……開けるか」
 部屋を出て物置に向かう。工具入れに木材を分解できるなにかがあったはずだ。
 俺に姉は見えない。星川の傍に姉がいるなら尚更。
 ――誰もこの秘密を暴くのを咎める奴はいない。
 星川糺を殺す、その為ならこのくらい、きっと姉は許してくれるはずだ。
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