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秋、打ち合わせ。
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後日。
叶が学校の日に桃華と染井は喫茶店で落ち合うことになった。
作るゲームの打ち合わせだ。
今日はまずどんな話にするか考える。楓は参加しなくていいのか聞くと生憎、今日から仕事が忙しいということで結果だけ楽しみにしていると連絡が来た。
「男とふたりで会ってるのは旦那的にどうなん……」
「信頼されてますから!」
「そう……」
別に桃華とそうなりたいわけではないが、ここまで信頼されると逆に困惑してしまう。それとも結婚したらみんなそうなのだろうか。世界の夫婦は信頼でできているとしたら友人さえ信用できなかった染衣にはわからないものだ。
「とりあえず内容を考えてきたんです!」
桃華はA4見開きの大学ノートを開き、染衣に見せる。それは端から端までびっしりと
文字が書かれていた。
「まず、主人公は事故で足を失った男の子です! 無気力に暮らしていた彼は、ある日障害者サッカー……」
「アンプティサッカー」
「そう! それに出会います! そして競技の楽しさがわかり、プロを目指して頑張っていくって話です!」
クライアントの要望に応えるのがシナリオライターの仕事だ。もっとふんわりした要望も多い中、大体のログラインが決まっているだけまだ「書け」と言われれば書きやすい。しかしこれは……。
「これは、あの子にとってあまりにも残酷すぎます、押しつけです」
「どこかですか!」
「確かに、あの子に届けるためにキャラを寄せるのはいいかもしれません。でも、彼はもうサッカーができないんです。あえてその傷を抉るのは……」
「それでも!」
桃華はなおも食い下がる。
「それでもあの子がまだサッカーを諦めてないなら、私は……」
「叶はまだ諦めていない」そう言ってしまったのは染衣だ。
なら、付き合うべきなのかもしれない。そうとも、書き逃げすればいいじゃないか。自分は巻き込まれてしまっただけとは言え、またゲームシナリオが書ける。あれだけバカにしていた同人だけれど、逃げ道はなかった。なら書くしかない。どちらにしろ、叶に「やる」と言ってしまった手前、断れないのだ。
「……わかりました、書くだけ、書きます」
桃華はその名が表す通り、花が開いたように笑顔を見せたが、染衣はどうしても乗り気になれなかった。叶から聞いているからだ。自分の夢に「障害」を利用したくないことを。このゲームは、きっと叶には刺さらないと思う。逆上するかもしれない。馬鹿にしているのかと。本音を言った染衣が出してきたなら尚更だ。
プロとアマチュアの間で揺れる。
彼なら、この依頼を受けるだろう。これは仕事だ。金銭の類は受け取っていないが、作ってほしいと望まれている。
だが、染衣自身の意見を言うならば、この依頼は受けたくなかった。叶のことを考えて、もあるが単純にこのテーマを扱い切れる自信がない。多分染衣のこういう根本がアマチュアなんだろうと思う。だからいつまで経っても彼に勝てなかったのだろう。
品質もきっと元プロの作品とは言えないものになるだろう。だから、これだけは守ろうと思った。どんなに叶が混乱しても、この作品を作ろうと言ったのが自分の母親であること。それは死んでも隠そうと。
満点の作品が作れなくても、家族の絆は守れるはずだ。叶には、両親を嫌いになってほしくないから。
叶が学校の日に桃華と染井は喫茶店で落ち合うことになった。
作るゲームの打ち合わせだ。
今日はまずどんな話にするか考える。楓は参加しなくていいのか聞くと生憎、今日から仕事が忙しいということで結果だけ楽しみにしていると連絡が来た。
「男とふたりで会ってるのは旦那的にどうなん……」
「信頼されてますから!」
「そう……」
別に桃華とそうなりたいわけではないが、ここまで信頼されると逆に困惑してしまう。それとも結婚したらみんなそうなのだろうか。世界の夫婦は信頼でできているとしたら友人さえ信用できなかった染衣にはわからないものだ。
「とりあえず内容を考えてきたんです!」
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「アンプティサッカー」
「そう! それに出会います! そして競技の楽しさがわかり、プロを目指して頑張っていくって話です!」
クライアントの要望に応えるのがシナリオライターの仕事だ。もっとふんわりした要望も多い中、大体のログラインが決まっているだけまだ「書け」と言われれば書きやすい。しかしこれは……。
「これは、あの子にとってあまりにも残酷すぎます、押しつけです」
「どこかですか!」
「確かに、あの子に届けるためにキャラを寄せるのはいいかもしれません。でも、彼はもうサッカーができないんです。あえてその傷を抉るのは……」
「それでも!」
桃華はなおも食い下がる。
「それでもあの子がまだサッカーを諦めてないなら、私は……」
「叶はまだ諦めていない」そう言ってしまったのは染衣だ。
なら、付き合うべきなのかもしれない。そうとも、書き逃げすればいいじゃないか。自分は巻き込まれてしまっただけとは言え、またゲームシナリオが書ける。あれだけバカにしていた同人だけれど、逃げ道はなかった。なら書くしかない。どちらにしろ、叶に「やる」と言ってしまった手前、断れないのだ。
「……わかりました、書くだけ、書きます」
桃華はその名が表す通り、花が開いたように笑顔を見せたが、染衣はどうしても乗り気になれなかった。叶から聞いているからだ。自分の夢に「障害」を利用したくないことを。このゲームは、きっと叶には刺さらないと思う。逆上するかもしれない。馬鹿にしているのかと。本音を言った染衣が出してきたなら尚更だ。
プロとアマチュアの間で揺れる。
彼なら、この依頼を受けるだろう。これは仕事だ。金銭の類は受け取っていないが、作ってほしいと望まれている。
だが、染衣自身の意見を言うならば、この依頼は受けたくなかった。叶のことを考えて、もあるが単純にこのテーマを扱い切れる自信がない。多分染衣のこういう根本がアマチュアなんだろうと思う。だからいつまで経っても彼に勝てなかったのだろう。
品質もきっと元プロの作品とは言えないものになるだろう。だから、これだけは守ろうと思った。どんなに叶が混乱しても、この作品を作ろうと言ったのが自分の母親であること。それは死んでも隠そうと。
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